第五話 瞬雷絶命。研ぎ澄ませた電刃――“黄の矢”
ディリスが感じたジョヌの力量は、速攻で片付けたほうが得策。そのレベルである。
「俺の目的は《
そう言い、ジョヌは腕を横に振るう。
瞬間、エリアとルゥの全方位を隔てる雷の壁が現出した。
圧倒的な雷の魔力で攻撃を遮断する『
「私を前に悠長だな」
既にジョヌの懐に飛び込んでいたディリスが天秤の剣を構えていた。
蒼い眼光が視る先はジョヌの首筋。必殺の距離である。
反撃の時間を与えない。やるには一撃必殺。
その思いで彼女は躊躇せずに刃を振るった。
「やはり……この近距離でやりあおうと言うのは無謀ということか」
ディリスの振るう剣はジョヌの首を取ることはなく、その代わり、電撃が彼女を貫いた。
「ディー!」
「ディーさん!」
意識を手放すほどではない。これくらいの攻撃なら既に何百、何千と食らっている。
ディリスは直ぐに剣を構え直す。
「……雷のまやかし、『
「流石に僕も初手から斬り殺されるというのは嫌だからね。保険を掛けた上で望んでいたのだが……」
一閃され、雷の塵となった幻影を見やる。
「やはり、一筋縄ではいかない」
手を掲げたジョヌから魔力の気配を感じ取ったディリスは再び間合いを詰める。
こういった対魔術士戦の鉄則は、“魔法発動の隙を与えない”である。それを徹底することでディリスは今まで魔法を使うに五分以上の勝負に持ち込めているのだ。
しかし、それはあくまで自分未満の相手の話である。
「だからこちらも本腰を入れさせてもらおう」
ジョヌは再び『
しかし、今度は一体だけでなく、四体。
それを見ていたエリアは声をあげる。
「じょ、ジョヌさんがあんなに……!?」
「驚いてくれてこちらも嬉しいよ。さて《
本体を入れた五方向より放たれるは電撃魔法『
可視化された電撃が細く、だが一直線に、ディリスへと襲いかかっていく。
対するディリス、その超人的なまでの動体視力を以てこれに対処。五方向の死角を捉え、そこに位置取る。当たりそうなものについては天秤の剣で受け止め、そのまま別の方向へ弾き飛ばしてやる。
「ディー! 大丈夫!? 待っててね……今、助けに行くから!」
エリアとルゥを阻む『
先程からエリアが破壊すべく攻撃魔法を行使しているのだが、全くビクともしない。
「壊れてよ! 『
エリアの背後に魔力で構成された巨大な戦鎚が出現し、そのまま電撃の壁へ振り下ろされる。だがびくともしない。数度殴りつけるも全く壊れる気配無し。
彼女は焦る。
このままディリスが攻撃されているのを見ているだけなんて嫌だ。再び、彼女は魔力を込め始める。
「……矢よりも速いんだぞ? それを視て撃ち落とせるだなんて人間かあいつは」
有利な位置取りをするため走っていたジョヌは表情に出さないようにするのがやっとであった。
それだけ今の防御があり得ないのだ。
普通当たる。どれだけの強者でも五方向から『
防御魔法を発動させたとしても、それを貫くだけの威力がある攻撃魔法なのだ。
それを避けるどころか、あろうことか剣で受け止める事が出来る人間をジョヌは知らない。
「それに、あのお嬢ちゃん」
ジョヌは『
あの様子ならばまだ気づかれていないな、と『
(最初の一撃から怪しいと思ってたんだが……結果論だが分断は正解だったな)
自分の魔力量を計算する。あと、どれくらい戦闘継続が可能か。これを見誤れば死が待っている。
「よそ見しているなら首もらうぞ」
気づいたら蒼い眼がもうそこまで近づいていた。
咄嗟にジョヌは、近距離用の魔法『
だが、白兵戦はやはりディリスに分がある。
「ぐぉ……!」
右足と左肩を斬られたジョヌはたまらず、『
仕切り直し、というには余りにも格好が悪い。
しかし、それ以上にジョヌには不可解な点があった。
「何故……さっきから本体である俺を的確に狙える? 魔力を隠しきれていないのか……?」
雷の幻影は術者の腕に応じて、姿や魔力を本体に似せる事が出来る。
ジョヌの腕前はひと目見ては絶対に分からないのだ。そして悟らせることもないよう、それぞれを動き回らせ、攻撃をさせている。
そんな彼の混乱を、ディリスはたった一言で終わらせた。
「どれが本物か分からないなら、とりあえず目の前に入る奴を斬りまくる。これ、殺人者の常識のはずなんだけどね」
傷を負っていたジョヌは迫りくるディリスを迎撃しようとしたが、既に近く、魔法発動が間に合わない。
そこを見逃さない彼女は、すれ違いざまにジョヌの胴体へ刃を走らせる。
「ぐぅ……あぁ!?」
瞬間、ガラスが割れるような大きな音、そして次に放電音が森に鳴り響く。
そこには汗を流し、『
既に限界だった所に、ダメージをもらい魔力供給が途絶えたのが要因である。
「あぁ……くそ、良いのもらってしまった、な」
ジョヌは膝をつき、手で出血を押さえていた。
この時点で戦闘継続は不可能。魔力もだいぶ消費した。となればあとは死ぬ気で特攻くらいしか戦いがないのだが、流れる血がその思考すらぼんやりとさせる。
「殺し合い終了だ。敗者の末路は――分かるな?」
首筋に冷たい刃の感触だけが、ジョヌに突きつけられた唯一の事実である。
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