夕焼けのしずけさ

松平真

第1話

───放課後

───学校の屋上

───夕焼け空

───朱く染まった世界


そこで、私は見つめあっていた。

まるで、世界には二人しかいないというように。

フェンスの向こうの彼女と。




私と彼女は、友人より深い仲だ。

思春期特有の勘違いだと大人たちは笑うかもしれない。

だけど、私と彼女にとってはそれは紛れもなく真実だった。


だけど、そういう風になる、という懸念が私たちを悩ませた。

私たちの愛は、のではないか、

そんな恐怖があった。


だから、私たちは考えた。

私たちの愛は永遠不滅だと。

互いに刻み込まなければいけない。

たとえ、おとなになっても、ひとりになっても、この愛に殉じなければいけない。



だから、これがその手段。

そうすれば、この愛は永遠になる。

私たちはそう思った。



フェンスの向こうで彼女が、青ざめた顔で私を見ていた。

おそらく、数分にすぎない沈黙。

だけど、それだけあれば思い直すには十分だった。

私はこんなことをするのは間違っているのではと思えてきた。

彼女を止めようと右腕を伸ばす。


彼女は私が左手に持つ彼女の遺書をちらりと見ると、微笑み

「───るよ」


風が吹いた。


彼女は体から力を抜き、後ろ向きにゆっくりと倒れ

私の視界から消えた。


下からなにかが砕け、液体が飛び散った音がした。


私は、震える手で、紙を、遺書を開く。

そこにはなにも書かれていなかった。


私は、何かの衝動に突き動かされ、フェンスを乗り越えた。

そして、覗き見た。

紅い世界に咲いた、紅い花を。


唐突に気付く。

私たちの愛を本当に永遠にする方法を。

彼女はそれにのだ。

だから、最後に


そして

私は前へ一歩を踏み出した。





「待ってるよ」


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夕焼けのしずけさ 松平真 @mappei

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