3人目 ジャン・ボルディコフ Ⅱ

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そして彼は『  』に堕ちた。


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 ジャンはアモンの部下の悪魔達に鎖で繋がれた状態で急勾配の岩山を登っていた。


 首輪に腕輪、足輪を付けられ、まるで囚人の様な姿だった。悪魔は飛んでいるため、歩いているのはジャンだけだ。


 蒸し暑い環境で長時間動いているため、汗が噴き出し、顔面は汗で濡れていた。息を切らしながら登り続ける。


「はあ、はあ、はあ……」


 少しでも足を遅くしようものなら、


「おい! モタモタするな!!」


 背中に鞭を入れられ無理矢理登らされるのだ。


 しばらく登り、とうとう岩山の頂上へ辿り着いた。


「よし、止まれ」


 ジャンは足を止め、登り続けた疲労で息を切らして下を向いた。


「顔を上げろ。犯罪者ジャン」


 悪魔が威圧して無理矢理顔を上げさせる。そして、ジャンの目に入ったのは、


「何だ、これは」



 岩山の麓から地平線の先まで溶岩と浮島の岩で構成された光景だった。


 岩の浮島の上では人や魔族が拷問にあっていた。ある者は剣で刺され続け、ある者は金槌で殴られ続け、ある者は永遠と血を抜かれ続け、ある者は何度も溶岩に落とされては引き上げられていた。他にも拷問器具を使って何度も死んでいる者も目に入った。


 岩山の裏から聞こえなかったが、拷問を受ける者達の叫び声が絶え間なく聞こえて来る。苦悶に満ちたその叫びは長時間聞いていれば、精神に悪影響を及ぼすだろう



 ジャンはこの地獄の様な光景に恐怖を感じられずにいられなかった。


「ここは地底領の一つ、『懲罰拷問地帯』だ」


 悪魔の1体が説明を始める。


「懲罰拷問地帯……?」


「罪を犯した者が罰を受ける場所だ。自分の罪を悔い改めるには犯した罪と同等の苦悶を受けて理解する事が重要だ。この拷問地帯では例え死んでも蘇らせて罰を与え続ける。許しを請いても止める事は無い永遠の拷問を行う。そういった場所だ」


 悪魔はジャンに付けた鎖を外していく。


「そしてお前にはこれから懲罰拷問地帯に行って貰うための処置を施す。今更引き返せないからそのつもりでいろよ」


「おい、何が始まるんだ?」


「……すぐに分かる」


 全ての鎖が外され、悪魔達はその場から飛び去ってしまった。ジャンは1人その場に取り残された。


「何なんだ、一体……?」


 悪魔達を見届けた次の瞬間、首に鎖が高速で巻き付いた。


「え?」


 気付いた時には信じられない力で鎖が引っ張られた。身体が猛スピードで無理矢理移動させられ、山から引きずり下ろされる。


「うああああああああああああああああああああ?!!!」


 絶叫しながら斜面で身体を削られ、何度か突起にぶつかり身体が跳ね、最終的に岩の地面に全身を強打する形で激突し、麓へ到着する。


「う、ぐう。うう……」


 全身の痛みに悶え苦しむ。全身に擦り傷切り傷を負い、骨が何本か折れたのが分かった。


「これで死なないのか。やはり異世界人は頑丈だな」


「ホホホホホ! この程度で死んでも生き返らせればいいのですよ!」


 少年の様な声と妙に甲高い声が聞こえて来た。ジャンは顔を上げて声の主を確認する。



 そこにいたのは赤い髪をした少年と豪華な僧侶の袈裟を着た骸骨だった。

 少年は赤い髪と青い瞳から下は大きな黒いコートで隠れている。黒いコートにはいくつもの鎖が垂れ下がっている。


 骸骨は頭蓋骨が黒色をしており、それ以外は僧侶の袈裟でしっかり着込まれていて見えない。後頭部から青白い炎がちらついているのが見える。



 骸骨の方がジャンに顔を近付けて来た。


「これはこれは、貴方がジャン殿ですね? 話には聞いておりますが、随分と酔狂な方ですねえ」


 まるで馬鹿にする様な口調でジャンに迫る。


「そうだが……、アンタたちは一体誰なんだ……?」


「申し遅れました! ワタクシ、元十二魔将『怨念呪術大僧正・ドーマン=アシヤ』と申します。以後お見知りおきを」


「同じく元十二魔将『無限封印・ガレッド』だ。覚えていられるか怪しいけどね」


 ガレッドはどこか興味の無い様子だった。ジャンは何とか身体を起こし2名と向き合う。


「それで、俺はこれからここで罰を受けさせて貰えるのか?」


「ホホホホホ! 如何にも如何にも!! しかしそのままでは1回で死んでしまいますからねえ。それでは罰を与える意味が無くなってしまいますので、なので貴方にはこれから不死の呪いと肉体時間経過封印を付与します。これで貴方は歳を取る事無く死なずに永遠と罰を受けられるのです!」


 ドーマンは楽しそうな口調で説明する。


「……分かった。やってくれ」


「では早速」


 ドーマンは隠していた手を手刀の形にし、一気にジャンの胸を貫いた。


「が、は?!」


 肺が圧迫され肺の空気が全て押し出された。



 【呪法・死々否死しににしなず



 手はゆっくりと抜かれるが、胸に穴は開いていなかった。まるで肉体の表面だけを透過し内臓だけを掴まれた感覚だった。


「これで貴方は私の許可なく死ぬ事は出来なくなりました」


「次は僕だ」


 ガレッドのコートの下から一本の矢じりの様な物が先端に付いたチェーンが伸びて来る。ゆっくりと蛇行しながらジャンに近付き、残り数mの地点で一気に脳天に突き刺さった。



 【封印術:時不知ときしらず



 この一撃もまた透過して中へ入ってきた。ぬるりと頭から取れたが、怪我一つ無かった。


「これで完了。後は拷問官の仕事だ」


 今度はコートの下から無数のチェーンが溢れ出しジャンを縛り上げる。


「このまま投げるけど、大体の場合精神崩壊して会話出来なくなるから今の内に何か言っておきたい事があれば聞くよ」


 ガレッドは冷めた目でジャンを見る。ジャンはガレッドを見ながら、口を開く。


「私の求める償いと罰がこの先に待っているのなら、喜んで飛び込みましょう」


「……そうか、なら堕ちて来るといい」


 ガレッドはチェーンを操ってジャンを思いっ切り拷問地帯へ投げた。すぐに見えなくなる程の速さで飛んで行き、行方は分からなくなった。


「これでお仕事終了。めんどくさかった」


「ホホホホホ! ところでここの説明を改めてしなくて良かったのですかな? ここで漏れる負の感情が地底領のエネルギーになっているとか」


「ドーマンだって説明する気なかったでしょ」


「それはそうでしょう! あんな面白い人に余計な事を言うのは無粋ですからなあ!」


 ドーマンは口元を隠しながら笑っている。


「相変わらずの悪趣味だね」


「それはお互い様でしょう」


「ふん」


 2名は拷問地帯に背を向けてその場から去って行く。




 

 拷問地帯に堕ちたジャンは、これから殺した人数の寿命分の年数拷問にかけられる。

 

 この先、彼がどう変わるのか、今はまだ誰も知らない。





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お読みいただきありがとうございました。


次回は『アンシェヌ、四度目の人生 Ⅰ』

お楽しみに。


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