アンシェヌ、四度目の人生 Ⅰ

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三度異世界に導かれた女戦士


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 ザバファール大陸 近海



 ザバファール大陸周辺は島が多いが、港から近い漁以外は船を使わず、飛空艇で島と島を移動している。


 理由は魔獣が出るからだ。




 アンシェヌは自前のピンク色の鎧を装着し、短めの剣と自身の身体程ある盾を装備している。


 飛空艇の甲板から身を乗り出して下を覗き、果てまで広がる海を見下ろす。そこには一体の巨大な生物が海に浮かんでいた。


「あれで超級? 随分とデカいね……」


「災害級はもっと大きいですよ」


 声をかけてきたのは、飛空艇乗組員でゴブリン族の『アババ』だ。乗組員として長いのか、ガッチリとした体付きをしている。


 アンシェヌは振り返ってアババと向き合う。


「見たことあるの?」


「そりゃあ『魔獣先行監視隊』に入っていれば何度もありますよ。忘れられませんよ?」


 半笑いでアンシェヌに答える。


「今回は超級魔獣『サイクロンエリマキシャーク』です。先日も説明しましたが、風魔法と水魔法を使ってきますのでご注意を」


「了解ー。それじゃあ行ってくるよ」


 アンシェヌは甲板の手摺に飛び移り、肩幅まで足を開いて立った。そのまま身体をゆっくりと倒し、海目掛けて落下する。


 上空1000mから自由落下でサイクロンエリマキシャークに接近する。残り500の地点で剣を振り上げる。


 七つの魔法陣が展開され、アンシェヌより大きな光球が生成された。



 【七星の煌きセブンスターライト】!!!



 剣を振り降ろしのと同時に、七つの光球が魔獣目掛けて降り注いだ。


 全ての攻撃が魔獣に命中し、巨大な爆音と水飛沫を上げる。アンシェヌは【浮遊】で空中に止まり、様子を窺う。


「……あれで死んでくれると良かったんだけどなー」


 飛沫が晴れると、魔獣がアンシェヌ目掛けて飛び始めた。


 首にあるエリマキを回転させながら飛行し、全長40mの巨体を動かしながら突っ込んでくる。しかも猛スピードだ。


「サメが飛ぶとかどこのB級映画よ?!」


 ツッコミを入れながら【飛行】に切り替えて魔獣の突進を回避する。だが、後から来る強風に煽られてしまった。


「(風魔法を身に纏ってるのか。これはまた厄介な……!)」


 何とか態勢を立て直し、武器を構える。今度は真正面からぶつかりにいく。


 魔獣は噛みつこうと大きく口を開けた。口の中の無数の牙が丸見えになる。


「そこ!!」



 『ギガント・スラッシュ』!!!



 横一閃が放たれ、魔獣の口が切れ始める。


 しかし、魔獣はその斬撃に嚙み付き、砕いてみせた。再び口を開け、今度は口内に魔法陣が出現する。


「嘘でしょ!?」


 慌てて盾を構え、防御態勢に入る。


 魔獣の口の魔法陣から無数に枝分かれした水鉄砲が発射された。目にも止まらぬ速さと回避不能な数と範囲の猛攻がアンシェヌに襲い掛かる。


 盾に何度もぶつかる度に、盾が削れるような音が直に響き渡る。


「(このままじゃ持たない。あんまり使いたくないけど)」



 【転移】



 フッと、その場から消えた。


 目標を見失った魔獣は周囲を見渡す。だがアンシェヌの姿は見つからない。


 直後、魔獣の身体上部に斬撃が入れられた。斬られた衝撃で血が噴出するが、すぐに止まる。攻撃が来た方向に視線を向けるが、誰もいない。


 今度は尾の部分が斬られる。また姿勢を変えて確認するが見つけれられない。


 それが何度も続き、魔獣の全身に斬撃が休むことなく入れられ続ける。


 ネタを明かせば簡単な事だ。【転移】を繰り返し、死角から『流星斬』という斬撃発射攻撃で斬り付けているだけだ。


 この方法は魔力の消費が激しいのと転移酔いが蓄積されるため30回以上は【転移】を失敗する可能性が出て来る。そのためあまり使いたくないのだ。


「(傷が回復しきる前に切り刻んでやる……!)」


 この『流星斬』、500m級の山をも真っ二つにする威力を持っている。それなのに魔獣には切り傷程度しか与えられていない。


「(どんだけ硬いんだ、超級魔獣!?)」


 20回斬り付けた頃には全身傷だらけで痛みで乱暴に動き回っている状態だった。アンシェヌにも少し血が飛んで付いてしまったが大した事は無い。


 全身の傷から一瞬血が吹いた次の瞬間、全身から豪風が吹き荒れる。目には見えないが、アンシェヌは凝縮された魔力を感じ取り回避行動をとる。


 躱した豪風が200m下にある海に直撃する。直撃した瞬間、何十mもの水柱が発生した。轟音がアンシェヌの耳にも届いた。それが10、20といくつも同時発生する。


「(あれは喰らったら骨が折れるだけじゃすまないかな)」


 猛攻を回避している間に魔獣に付けた傷が全て塞がってしまった。血も蒸発し、何事もなかったかのように身体が綺麗になった。


「(これじゃキリがない。かくなる上は)」


 攻撃を回避しながら魔獣に高速で接近し、剣を下段に構える。


「(今の攻撃で魔力の発生源、核の位置は分かった。後はこの攻撃が止むタイミングで……!!)」


 攻撃の嵐が弱まり、一瞬の隙が出来る。アンシェヌは更に加速して魔獣の懐へゼロ距離まで近付いた。


 そして、構えた剣を振り払った。



 【汝、星の輝きと消えよスター・イレイズ



 強烈な光と共に魔獣の身体の一部が溶けるようにして消え去った。


 切り取られたように分かれた断面には核が見える。その核が3分の2程無くなり、機能が停止する。


 魔獣は生気を失い海へと落下を始めた。アンシェヌは消し去った隙間にいるため巻き沿いを喰う事は無く、そのまま空中にいた。


 さっきの攻撃の際に内蔵魔力の8割を使ってしまったため、【浮遊】が弱まり徐々に高度が下がり始める。


 完全に倒した事を確認し、大きく息を吐いた。


「任務完了ー……。あー、疲れた」


 

 これが今のアンシェヌの仕事、大型魔獣討伐である。





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お読みいただきありがとうございました。


次回は『アンシェヌ、四度目の人生 Ⅱ』

お楽しみに。


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