1人目 マイカ・タチバナ Ⅰ
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神族スラーパァの初めての異世界転生送り
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「やあ、目は覚めたかな?」
『立花舞華』が目を覚ますと、そこは床一面が雲になっている世界だった。
「えっと、ここは……?」
目の前には少女が1人立っていた。派手な装飾品をつけたワンピースを着ており、それを隠す程のモコモコした白いロングヘアをしていた。
「初めまして、僕は睡眠の神スラーパァ。残念な事に、君は死んでしまったんだ」
突然の告白に舞華は混乱していた。
「私が、死んだ?」
「そう。死因は脳卒中、具体的に言えば殴打による外傷が原因だね」
ゆっくりと記憶が戻り始める。
深夜、会社帰りにガラの悪い男達に絡まれ必死に抵抗した際に誤って顔を叩いた。そしたら逆上して殴られそのまま電柱に頭を打ったのだ。頭から血が出て倒れたのを見て驚いた男達は慌てて逃亡した。そのまま放置され意識を失った。
思い出した事で嫌な記憶が蘇り吐き気が襲い掛かる。
「う、ぐ……!」
「嫌な死に方だよね。落ち着くまで待つよ?」
スラーパァは舞華の頭を撫でて落ち着かせる。優しい手に舞華の心は思ったよりも早く落ち着いた。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です」
「よろしい。それじゃあ早速で悪いけど、君には異世界に行ってもらうよ」
「え?」
唐突な提案に目が点になる。
「異世界、ですか? あの一昔前に流行った?」
「君の時代だとそうなるかな。詳しい説明は省くけどこうしないと世界の維持に関わるから拒否権はないよ」
「そんな無茶苦茶な……」
舞華は混乱しながらも信用していた。
何故なら、このスラーパァという少女から納得できる『力』を感じるからだ。上手く説明できないが、大御所俳優を見た時に感じる凄さ、大昔から存在する神社を見た時の荘厳さを感じるような見えない力が彼女にはあるのだ。
舞華は気を取り直してスラーパァと向き合う。
「それで、私は向こうの世界で何をすればいいのでしょうか?」
「いや、特にする事は無いよ。というかさせる事ができないというか……」
「? どういう事です?」
「いや、こっちの話だから気にしなくていいよ!! うん!!」
目を一瞬逸らしたかと思えば焦って訂正する。何だか色々と噛み合っていないなと思った。
「それじゃあまず向こうの世界について説明するよ。君には丁寧に説明した方がしっかり覚えてくれそうだからね」
「分かりました」
目の前にいくつもの宙に浮く画面が現れる。
スラーパァは転生させる世界について説明を開始した。
・・・・・
説明を聞き終えた舞華は想像以上の世界に眉間をつまんでいた。
「魔王が支配する平和な世界って、色々ツッコミどころ満載な気がするんですけど……」
「言いたいことは分かるよ。でも不安定な世界よりは幾分マシだと思うな」
半笑いでスラーパァは言葉を零した。
「……向かう世界については分かりました。ところでその世界に名前は無いんですか?」
「無い。君達だって自分のいた世界に名前なんてあったかい?」
「えっと、無いです」
「そういう事。それじゃあ向こうでも快適に過ごすために何か能力を授けよう。君の欲しい能力を言うと良いよ」
お決まりの提案に舞華は悩んでしまう。
「(折角転生するんだから、すっごい能力が欲しいけど……。あの魔王がいる世界でそんなに能力必要無いかも……)」
色々と揃っているのに被った能力を持っていっても腐る可能性がある。それでは貰った意味がない。かと言って飛びぬけた力を手にして目を付けられるのも賢い選択ではない。
うんうん悩んでいると、ふとあることを思い出した。それは昔、自分がなりたかった職業の事についてだ。
「……あの、ケーキ屋さんに必要な能力で、どうでしょうか?」
「ケーキ屋さん?」
スラーパァは想像の斜め上の要求に驚いていた。
「向こうの世界でケーキ屋さんやりたいの?」
「はい。恥ずかしながら、昔一回だけ作ったケーキを思い出しまして、それをやってみたいなって。けど、どんな能力が必要か分からないので、ザックリと……」
恥ずかしそうに顔を赤くして注文する。スラーパァは溜息交じりに口を開く。
「いいよ。必要になりそうな能力を詰め合わせにして渡しておくね。後は容姿だけど、人間がいい?」
舞華は顎に手を付けて考える。
「いえ、出来れば魔族に転生したいです。スライムやゴブリンとかじゃなくて、その、女性的なミノタウロス族とか……」
スラーパァは舞華をジッと見る。
「……デリケートな話かな?」
「はい……」
瘦せ型よりの普通体型を隠しながらスラーパァの問いに答えた。
・・・・・
それから数十分。
詳しい体型やその他諸々を決めていよいよ転生の準備に入る。
「それじゃあ僕とはこれでお別れだ。君が生きている間に会う事はないだろうね」
「ありがとうございました。この御恩は忘れません」
深々と頭を下げてお礼を言う。
「ところで、どうして私だったんですか?」
「ああ、クジ引きで偶然引いただけだよ。ただそれだけ」
スラーパァは手をヒラヒラと振って答えた。
「そろそろ時間だ。次目を覚ました時は魔王の目の前だけど、取り決めだから我慢してね」
「分かってます。ちょっと怖いビジュアルですが、ビビらず頑張ります」
舞華は微笑んで目を閉じた。スラーパァは舞華の頭に手を乗せる。
「お休み、異世界の子よ。新しい世界で、新しい目覚めを」
その一言を最後に、舞華の意識は深い眠りについた。
こうして、『マイカ・タチバナ』は異世界転生を果たすのだった。
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お読みいただきありがとうございました。
次回は『1人目 マイカ・タチバナ Ⅱ』になります。
お楽しみに。
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