八天眼の魔王 Ⅰ
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魔王、本気を出す。
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魔王が人族領の地に足を付けた同時刻。モルジオナ連邦の首都全体で異変が起きていた。
首都全体が強力な『威圧』に包まれ、全身に重くのしかかる重圧を始め、息苦しさと
大勢の民が体調不良で動けなくなり、兵士や役人もまともに会話ができない混乱状態に陥っていた。
そして最高司令官も例外ではない。
最高司令官は寝巻のまま床を這いつくばっていた。あまりの具合の悪さに立つことすらままならない。
「う、うう……。誰か、誰かいないのか……?」
大きな屋敷で暮らしているため10人の使用人が住み込みで働いている。この時間はいつもなら使用人が起こしに来るのだが、その気配が無い。
頭痛と吐き気が酷すぎてベッドから出て使用人を探している状況だ。
「誰でもいい。誰か、助けてくれ……!」
呼吸を荒げて必死に看病してくれる者を探す。すると、目の前に使用人の男が現れた。だが彼も顔色が悪く壁にもたれかかったまま重い足取りで歩いていた。
「だ、旦那様……」
「き、君も具合を……?」
「私だけではありません……。使用人全員が、体調不良です……」
「何……?!」
最高司令官が驚くには理由があった。過去に流行り病で首都が危機的状況になってから屋敷には【健康結界】という体調不良にならず、病原菌を死滅させる魔術結界が貼られている。それを突破して全員が体調を崩しているとなれば、外で異常な事が起こっているとしか考えられない。
「(一体、何が起きているんだ……?!)」
・・・・・・
魔王が降り立ち、カイト達と対峙する。
威圧スキルに怯まずにいられているのはカイトだけだった。後の3人はその場で跪き動けずにいた。
カイトは剣を両手で握り、剣先を魔王に向ける。戦闘態勢に入り、間合いを測る。
「お前が魔王……」
「いきなり呼び捨てにするか、だが許す。我は寛大だからな」
魔王もまた【
出したのはヴァンダルの最新作『ヴィオラフラム』。
全長2mにもなる長剣で、柄は魔王の手に合わせて形作られ鍔に装飾として指を守るガードが施されている。
魔力を通した事で剣身が紫に染まり、刃文が炎の様に揺らめいていることからこの名が付けられた。
魔王の姿と合わさり禍々しい雰囲気を
「しかし寛大な我でも限度がある。お前達はその限度を超えた
一歩一歩とカイトへ近付き剣を片手で下段に構える。剣は怪しい魔力を纏い始め、徐々に可視できるほど強力な物へと変貌していく。
「この初撃が最後の情けだ。受け取れ」
全身から汗が噴き出し危険を察知したカイトはすぐさま横へ駆け出した。
振り上げた斬撃は剣身の先にある物全てを斬り飛ばした。
空と地面、先にあった神殿の一部は衝撃で木端微塵に破壊され、その余波で更に周辺にあった博士の小屋や転移装置、神殿の柱を吹き飛ばしていく。
近くにいた博士達もしがみつく物が無かったため空中へ吹き飛ばされた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!??」
「博士! 皆!」
「余所見をしている暇は無いぞ?」
一瞬でカイトの背後を取り剣を振り下ろした。
間一髪で剣で受け止めようと剣戟となる位置に剣をかざす。
だが魔王は言った。初撃が最後の情けだと。
魔王の斬撃に『身体強化』、『武攻上昇』、『超加速』、『幻影分身』、『斬撃強化』の全てが乗った瞬間、斬撃は一振りで千を斬ることを可能にする。
故に、この一撃をこう呼ぶ。
『
四方八方縦横無尽に斬撃がカイトに襲い掛かる。
斬撃のぶつかった衝撃で爆発音の様な音が響き渡った。本来なら一撃で巨大建造物を破壊できる威力を千回も受ければ人の形なぞ一切残らない。しかし、
「……やはり出張ってきたか」
カイトの周りに光のヴェールが纏わりつき、魔王の斬撃を全て受けきっていたのだ。
カイトは魔王を斬り付けるが、見切られて空を切るだけで終わった。魔王は2歩後退してカイトの様子を見た。目は虚ろになり、顔から感情が抜けている。
「魔族は、皆殺し、だ」
「容易に
「なあ、女神よ」
口元だけ笑みを見せ、カイトの背後にいる存在に語り掛ける。そこにいたのは光り輝く女の姿だった。
『これ以上、貴方達の好きにはさせません』
「それはこちらのセリフだ」
カイトと魔王は同時に音速で飛び込み剣と剣の斬りあいが始まった。
魔王の『一振千斬』が何百回と振られ続け、カイトは光のヴェールに守られながら反撃で剣を振るう。それを『見切りノ極』でことごとく
互いの腕は消えたように動き続け、剣のぶつかり合う激しい音だけが隙間なく連続し火花が散り続ける。剣戟の衝撃と切れ味が漏れ出し神殿を徐々に破壊していく。
『無駄な抵抗は止め、降伏しなさい』
「状況を把握できていない者を上に持つと悲惨だと言うのは正にこの事だな。今その発言ができるのはこちらだぞ?」
魔王は攻撃を続けながら反論する。互いの攻撃は勢いを増し魔力が溢れ小さな雷が発生して周囲に振り撒いていた。
さっきまでのカイトとは明らかに動きが違い確実に反撃を入れてくる。全て躱しているが狙いは首ばかり的確に狙ってくる。
対して魔王の斬撃は全て光のヴェールで弾かれている。『一振千斬』で攻撃してもカイト本人に届かない。
『諦めなさい。貴方では女神の力には遠く及びません』
それでも魔王は攻撃を止めない。『一振千斬』で斬り続け、カイトに斬撃を入れ続ける。
『無駄です。女神の力は絶対---』
女神が言い切る前にカイトの肩から腹にかけて大出血が起こった。
『え?』
女神が視線を向ける。カイトの体は斬られていた。
斬られた箇所から鮮血が噴出し、血だらけになって態勢を崩し始めていた。その隙を魔王が見逃すはずはなく、躊躇なく『一振千斬』を振るう。
カイトは途切れそうな意識の中で強化された肉体を無理矢理動かし攻撃を後退して回避する。
左腕、右足の脛から先を斬り飛ばされ、全身に切り傷を負った。斬撃の衝撃によって吹き飛ばされ神殿の壁を貫通して麓にある首都の街まで叩きつけられた。光のヴェールで叩きつけられた衝撃は全て緩和されたが、街中に数度の爆発を起こしながら止まる結果となった。
止まったのは神殿から数百m先、首都の大通りの真ん中に放り出された。
「【
虫の息で斬られた箇所を回復、再生し、何とか戦闘できるまでに持ち直す。立ち上がって周囲を見渡すと、神殿から飛んで来た経路は自身が吹き飛ばされた衝撃で酷い惨状になっていた。建物は吹き飛び、地面にはクレーターができ、あらゆる物が破壊されていた。
「(何故、『女神の守護』をすり抜けて攻撃できたんだ? 女神の力は完璧だった筈……)」
頭の中で考えている暇もなく、神殿が大爆発した。そこから上空へ飛び出したのは魔王だ。高速で飛行し、こちらに迫ってくる。
カイトは手をかざして魔法陣を展開する。
【
魔王に向かって巨大な炎の鳥が飛び立ち、高速の体当たりを放つ。
【打ち消し】
しかし、炎の鳥はぶつかる前に霧散した。
「この程度で我を止められると思ったか?」
魔王はカイトに向かって手をかざした。
周囲に大量の魔法陣が展開される。その数およそ千以上。
【
魔法陣が光ったのと同時に、カイトに向かってあらゆる属性の魔法弾が一斉に発射された。
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読んでいただきありがとうございました。
次回も魔王戦になります。
お楽しみに。
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