そして覇者は降り立った
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絶対的絶望
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サゴンジュ 勇者神殿
神殿に残ったカイトと博士達は通信を回復させたが、誰一人応答が無かった。バイタルチェックの装置からの反応も途絶え、残りの8人も全滅した事が確定した。
場の空気は最悪だった。
「ミューもアンシェヌもやられた……。最悪だ……」
カイトは頭を抱えて落ち込んでいた。
残っているのはカイト、博士、エイジ、スキル『ご奉仕メイド』を持つ『ヒイラギ・マイ』だけだ。3人戦力外でまともに戦えるのはカイトだけだ。
「何が、最悪だこの野郎!!!」
エイジがカイトの胸倉を掴み上げ転送装置の壁に押し付ける。それを博士とマイが止めにかかる。
「言ったよな?! もっと強い奴がいるかもしれないって!! 勝てる見込み無いんじゃないかって!!」
「止めろエイジ! カイトだってこんな結果にするつもりは無かったんだ!」
博士が怒りで興奮しているエイジを説得する。
「過信し過ぎてたんだ! もっと慎重にやれば死ぬ事なかったんだ!! 皆、死ぬ事は……! ううう……!!」
「エイジ……」
エイジは膝から崩れ落ち歯を食いしばって涙を流していた。博士とマイは背中をさすって落ち着かせる。
カイトは重い足取りで通信装置の前に立つ。発信ボタンを押し、反応が無いのを再度確かめる。
「…………誰か、反応してくれ……」
俯きながら蚊の鳴くような声で応答を待つ。誰も反応しないと分かっていながら。
『あ、繋がった。こちらアンシェヌ、聞こえてる?』
「え?」
カイトは顔を上げて通信を確認する。渡した通信機とは別の機器からの通信だったが、声は確実にアンシェヌだった。
「アンシェヌ、無事だったか」
カイトは安堵の溜息をついた。
「え? アンシェヌ?」
「アンシェヌさん!!」
「アンシェヌ……、生きていたか」
エイジ、マイ、博士も通信装置の前に集まる。
『いやあ心配かけたね。とりあえず生きてるよ』
「それは良かった。それで、現状はどうなってる? 今どこにいる?」
カイトが畳みかけるように質問する。
『お察しの通りかもしれないけど、作戦は失敗。私以外は全滅。そういう私も重傷でベッドで寝てます』
「……ベッド?」
サラっと出てきた言葉に違和感を覚える。
「ベッドって、どういう事だ?」
『そのままの意味。あともう一つ報告』
『私女神から見放されたから魔族領で余生を過ごします。要は離反するから』
いきなりの裏切り宣言に4人は理解が追い付いていなかった。
「え? 何? 離反? どういう事?」
最初に疑問を口に出したのはエイジだった。
『説明するの面倒だから省くけど、女神から縁切られちゃってさ、完全に敵認定されちゃったの。だからこっちでひっそり生きていく事にした』
「いや意味わからん」
『エイジならそう言うと思った。まあ理由はそれだけじゃないけど』
「どういう事だ?」
カイトが割り込んで質問する。
『忠告しとくけど、これ以上魔族と戦わない方がいい。死ぬよ』
さっきまでの軽い口調から一転して真面目な口調で忠告する。その変化にどれだけ本気なのか嫌でも分かった。
『じゃあ私からはこれで終わり。また縁があったら会いましょう。それじゃ』
最後の言葉を残して通信を一方的に切られてしまった。
「どうしてアンシェヌさんが女神から離反を……?」
マイは訳が分からないまま混乱していた。
「そんなのこっちが聞きたいよ……」
「どうするカイト?」
カイトは口に手を当て考え込んでいた。
「(女神様は皆に力を分け与えると言っていた。なのにアンシェヌは縁を切られたと言っていた。何故だ?)」
バチン、と、転移装置から何かが弾ける音がした。
かなり大きい音だったため、全員がその音に気付いていた。
「なんだ?」
エイジは転移装置に近付いて中を覗き込もうとする。
「……待てエイジ!!」
博士は何かに気付いてエイジを後ろから引っ張り倒した。
「痛え!!? 何すんだ博士?!」
「いいから離れろ!! 来るぞ!!」
バチバチと大きな音を上げ、転移装置に巨大な渦が発生した。
渦の中は真っ暗で何も見えない。周囲には小さな雷が飛び交っていた。
「これは、転移か?」
カイトはエイジ達の前に立ち、『収納空間』から剣を取り出す。
「博士、これは一体?」
「無理矢理転移が始まったんだ。試作機の試運転の時に何度か見た」
「正解だ。優秀な者がまだ残っていたようだな」
渦の中から声が聞こえた。体の芯まで届く低い声だ。
同時に、全身が鉛の様に重くなる感覚に襲われる。
「(この圧は何だ? スキルの類か?)」
カイトの額に汗が流れる。
「さて、そちらから攻めてきたんだ。攻め返される覚悟はできているのだろう?」
渦は徐々に大きくなり、声の主が姿を現した。
その顔は恐怖と畏怖を具現化したような龍だった。
その角は憤怒を具現化したような悪魔だった。
その眼は八つあり強欲を具現化したような蜘蛛であり獣だった。
その口は全てを喰いつくす暴食のような牙だった。
その巨体は漆黒で傲慢を具現化したような筋肉だった。
それらを覆う鎧は禍々しくも美しく、黒鉄なのに眩しさを感じさせた。
そして羽織ったマントは一国の主を象徴するに相応しい豪華絢爛な芸術品だった。
カイトはこの怪物の正体に確信を得た。気付いた時には声に出していた。
「魔王、か」
魔王は口元を大きく歪ませ不敵な笑みを浮かべた。
「さあ、決着を着けようか」
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お読みいただきありがとうございました。
次回は幕間になります。
お楽しみに。
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