千の武器を操る者 Ⅱ

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至高の武器を作る事こそ、鍛冶師の本望


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「来いよ。軽く相手してやる」



 ヴァンダルの明らかな挑発に乗ったのはヴェルドフだった。


「……舐めるなよ、この汚らわしい魔族が!!」


 ヴェルドフは大剣を振りかざし突進する。雪面を駆け抜け、地吹雪を起こしながら一気に間合いを詰めた。


「焦るなヴェルドフ! 援護する!」


 その後ろをボロックが追いかける。斧を下段に構え、雪を巻き上げながら突撃する。ライデンとモココは魔法の準備に入った。


『このまま遠距離で2人を援護だ。できるな?』


『それくらいなら!』


 遠距離から確実に当てられる魔法の詠唱を始め、タイミングを計る。


 その間、ヴァンダルは大剣を下段に下ろし、大斧を肩に担いだまま一切動かずにいた。防御も反撃もする気配が無い。


 ヴェルドフとボロックはヴァンダルに攻撃が当たる間合いへ入り、左右から呼吸を合わせて武器を振り下ろした。


「(これで!)」


「(どうだ!?)」


 高速で振られた武器から出た余波で周囲の雪を吹き飛ばす。そして、轟音と共に金属がぶつかる激しい音が響き渡り、雪山に木霊する。


 ライデン達は吹き飛ばした雪でヴェルドフ達の様子が見えなくなる。


「(どうなった……?)」


 数秒して、ようやくヴェルドフ達の姿が見えた。



 そこにあったのは、上半身が無くなったヴェルドフとボロックの立ったままの亡骸だった。



「…………な」


 冷静でいたライデンもこの異常な光景に絶句せざるをえなかった。


 完全に視界が晴れて状況が鮮明に分かる。


 両腕は巨大な武器を振り終わった状態にあり、姿勢も踏み込んだ後だった。


 ヴァンダルが双方を切り払ったのだ。それも女神から授かった武器ごとだ。上半身と共に武器も途中から消し飛んでいるから分かる。しかも、同じ種類の武器をぶつけていた。


 時間差でゆっくりと2人の死体が雪の上に倒れた。血が雪に染み込み、死を第三者に実感させる。


「いい武器だと思ったが、やっぱり俺の武器の方が上だったか。上出来だな」


 ヴァンダルは満足げに自分の武器を掲げる。その武器に傷は一切無く、さっきまでと同じ状態だった。


「う、えええええ!!」


 モココは2人が殺された事実に耐え切れずその場で嘔吐してしまった。下を向いたまま前を向く事ができない。


 ライデンは刀を強く握りしめ、嫌な汗を垂らしていた。


「(モココは満足に戦闘できない。なら俺がやるしかない……!)」


 平静を装いつつ、ヴァンダルに剣先を向ける。深く空気を吸って、ゆっくりと吐き出す。息が白く染まり、呼吸がしっかりと可視化される。ヴァンダルはライデンに目を向ける。


「おう、次はお前か」


 武器を『収納空間』へ戻し、別の武器を取り出した。



 それは刃渡りが2mある反りが入った片刃の長剣。ライデンが持つ日本刀をかなり長くした様にも見えた。



 ヴァンダルは刀を数度軽く振ってみせた。


「まだ名前を付けてない幼い剣だが、試し斬りには丁度いいか」


 完全に下に見られている事に怒りを感じ、こめかみに青筋が入る。


「……試し斬りになると思うな」



 この行動でライデンは確信した。



 ヴァンダルは自分の武器の方が上である事を証明するためにわざわざ同じ武器を使っている。と


 だからさっきは大剣と大斧を、そして今は刀を使っている。



 そしてもう一つ、あの男は間違いなく強い。


 ヴェルドフ、ボロックとは一度手合わせしたから分かる。あの武器は簡単に壊せる代物ではない。それをたった一振りで使用者ごと木端微塵に破壊した。これだけで実力差は歴然だろう。



「(正直、勝てるとは思えない。何とか怪我一つ負わせれば御の字だろう)」


 さっきの言葉も強がりで言った。何故か。


「(……彼女の前で、弱い所を見せたくないからな)」


 後ろにいるモココを更に不安にさせないために強気の一言を言ったのだ。


 勝算の無い戦いと分かった上で覚悟を決め、刀を構え直し、一歩を蹴り飛ばした。


「覚悟!!」


 刀を腰辺りまで下ろし、斬り上げる態勢でヴァンダルへ突進する。さっきの2人よりも明らかに速く、視界から一瞬で消えて見せた。



 『神速・魔人斬り』



 気付いた時にはライデンがヴァンダルの後ろにいた。刀を振り終えた態勢で止まっており、互いに動かずにいる。


 モココは嘔吐が落ち着き、顔を上げてその様子を見ていた。


「ら、ライデン……?」


 嘔吐したばかりの苦しい状態で声を振り絞った。ライデンはゆっくりと顔を上げる。


「…………か」



 短く言葉を発した直後、刀は粉砕し、大量の血を噴き出した。



 ライデンが不可視の速度で斬りつけたと同時に、カウンターでヴァンダルが切り伏せていたのだ。


 

 結果、ライデンは速度そのままに斬られた状態でヴァンダルを横切った形になった。肩から腰にかけてバッサリと斬られ、心臓まで達している。


 ライデンはそのまま倒れ、真っ赤に染まった雪の上に沈んだ。


 ヴァンダルはライデンが死んだのをスキルで遠目で確認した。


「1900年鍛えた技術、そう簡単に超えさせるかよ」


 モココの方を向き、刀をしまう。モココは3人が死んだのを見て顔面蒼白になり、歯の根が合わない状態だった。


「おい嬢ちゃん。まだやるかい?」


 戦意喪失した相手まで斬る程非情では無いため、念の為戦う意思があるか聞く。


「あ、ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!???」


 突然絶叫し、ヴァンダルから逃げるように走り出した。


「あ、おい!?」


「ヤダ!! ヤダ! 死にたくないぃいいい!!!!!」


 泣き叫びながら全速力で走り、あっという間に500m以上離れてしまった。


「おいちょっと待てって?!」


 急いでヴァンダルも追うが、距離は中々縮まない。


「誰か! 誰か助けてえええええ!!!!!」


 完全に錯乱した状態だと声だけで分かる。


「(そりゃ仲間殺した敵が追って来てる状況なんて相手からしたら最悪だろうけど、出来れば確保して色々聞きたいんだよなあ)」


 このまま見過ごして危険因子になるのも避けたいため、何としても捕まえたいと考えていた。


 しかし、



 【インフェルノ・デストロイア】 



 そんなヴァンダルの意思を嘲笑うかのように、天から巨大な黒い炎がモココに降り注いだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおお?!!」


 ヴァンダルは咄嗟に防御姿勢を取るが、あまりの威力に吹き飛ばされてしまった。


 モココは黒い炎によって一瞬で炭化し、炭化した体も崩れ消え去った。



 黒い炎が止んだのは数十秒してからだった。


 ヴァンダルが体を起こして周囲を見渡すと、黒い炎が降り注いだ場所を中心に雪は蒸発し、山肌が焼け焦げ抉られていた。


「さっきのは、まさか」


 空を見上げるが、既に誰もいなかった。ヴァンダルの手によって開けられた青空が徐々に曇り空へ戻ろうとしている最中だった。


「何であいつが……」


 疑問を残したまま、周囲の天気は吹雪へと戻っていった。



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