スキルプレデター Ⅱ

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奪う者は強者でなければならない。


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 『無双パワー』を発動したクトゥルーの姿に、ワンガは驚愕していた。



 目を見開き、歯を食いしばりながら注視する。そして振り絞って声を出す。


「奪ったのか? カリオから『無双パワー』を」


「あら~、分かってるじゃない。正解よ~」


 歯を目一杯食いしばり、大剣を大きく振り上げ、素早く振り下ろした。



 『破煌裂閃はおうれっせん』!!!!!



 振り下ろした大剣から黄色に染まった衝撃波が放たれ、クトゥルーに向かって飛んで行く。


 舗装された地面を抉り、抉った破片をも吹き飛ばしていた。速度も速く、逃げる事は敵わないだろうと思われた。


 しかし、



 『流体金属りゅうたいきんぞく神盾ノ型タイプイージス



 突如として現れた大量の液体金属によって攻撃は阻まれてしまった。


 盾の形をした液体金属は多少削れたりしたが、本体に全くダメージを与える事は出来なかった。


「何?!」


「この程度で私に傷を付けられると思ったのかしら~?」


 反撃するようにクトゥルーの腕から大量の触手が溢れ出した。本体よりも明らかに大きい触手は高速でワンガに迫る。


「ちい!!」


 建物の屋上を飛び回り、クトゥルーとの間合いを離す。


「あら~、追いかけっこなら負けないわよ~」


 

 『瞬間移動』



 一瞬で姿が消え、ワンガの進路方向に現れた。


「それは無しだろ!!?」


 ワンガは急停止し、大剣をクトゥルー目掛けて振り下ろした。


「『破煌裂閃』!!」


 もう一度衝撃波を放ち、建物を破壊しながらクトゥルーに攻撃する。


「もう当たらないわよ~」


 クトゥルーは薄気味悪い笑みを浮かべながら衝撃波を一呼吸の僅かな動作で躱してしまう。


「スキル『見切り』。説明しなくても分かるわよね~?」


 腕から触手を絶対に逃がさないと言わんばかりに伸ばしてくる。ワンガは跳ねながら後退し、回避が間に合わない触手を切り捨てる。それでも触手の勢いは収まらない。


「くっそお! 一体何本あるんだ?!」


 『女神の加護』と『魂の剣士』のスキルのおかげで剣の技術と身体能力は人間離れしているが、それでも手こずる程の量の触手が襲い掛かる。


 もう一度『破煌裂閃』を放とうと大きく跳躍し、大剣を振り上げる。


「『破煌……!!」


 振り下ろそうとしたその時、こめかみに強烈な一撃が飛んで来た。

 その衝撃は頭蓋にひびを入れ、脳に多大な衝撃を与えた。結果、有り得ない位置からの脳震盪が起き、意識が混濁する。


「(な、にが?)」


 混濁する意識の中、目を衝撃の起こった方へ向ける。

 そこには、さっき斬ったばかりの触手の先端が宙を舞っていた。弾丸の様に尖った形に変形し、ワンガに向かって飛んで来たのだと理解した。


「『傀儡操作くぐつそうさ』に『鋼鉄化』、『加速』のおまけ付きよ~。それで死なないんだから大したものね~」


 意識が殆ど無い状態で、高さ5mの位置から舗装された石造りの地面に頭から落下した。普通なら頭は割れ、中身をぶちまけていただろう。しかし『女神の加護』と『魂の剣士』のスキルは耐久性も上げていたため、死亡までには至らなかった。


 ワンガは数回固い地面を跳ねてから転がった。意識は遠く、すぐに起き上がることは叶わない。


「う、ぐ……」


 力無い声を出しながらも、ゆっくりと意識を取り戻す。


「(早く、起きないと、逃げないと……!)」


 勝てないと悟ったワンガはこの場から逃げる事を優先することにした。まだ動かせる四肢を動かして、機能が完全ではない脳で逃げ道を探す。


「あら~、逃げられると思ってるのかしら?」


 上からクトゥルーが降りてきて、ワンガの前に立ちはだかった。


 場所は大通りの真ん中。隠れられる場所は遠い。どちらにしろ、次の行動で間違いなく攻撃してくるのは目に見えていた。


「……次で、最後か」


「貴方がそう思うなら」


 ワンガとクトゥルーの間に静寂が訪れる。互いに睨み、次の行動を模索する。


「……聞きたい事がある」


「何かしら~?」


「どうやってカリオを倒した? どうしてカリオの『無双パワー』を持っている?」


「あら、それ聞いちゃう? なら教えて上げてもいいわよ~」


 相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべたまま、愉快そうに話す。


「さっき見せた私のスキル『液体化』で海と同化して降りて来るのを待っていたの。降りてきたタイミングを見計らって『影化』を使って彼に接触、そして彼のスキルを奪ったの~。簡単でしょ?」


 まだ調子の悪い状態で聞いていたが、とんでもない事を聞いたと理解した。


 スキルを『奪う』。これがどれだけ脅威かワンガにはよく分かった。


「スキルを、奪えるのか?」


「ええ、ええ。自己紹介が遅れたわね。私は十二魔将クトゥルー。二つ名は『略奪者』。貴方達の全てを奪う者よ」


 笑みが、邪悪を含みより一層不気味さが増した。ワンガもその表情に恐怖と狂気を感じる。


「(強いはずだ。魔族のトップクラス、十二魔将。こんな一方的にもなるのも納得だ)」


 感心と同時に、後悔した。

 エイダの言う通り、もっと慎重に動いていればカリオは死ななくて済んだはずだった。そして、自分自身もここまで追い込まれる事は無かった。


 今更ながら、調子に乗っていたと反省していた。

 呼吸を整え、ずっと掴んだままの大剣をクトゥルーに向ける。


「行くぞ」


「どうぞ」


 ワンガは大剣を振りかざし、クトゥルーに狙いを定める。

 そして、渾身の力を込めて振り下ろした。


「『破煌裂閃』!!」


 技名を叫び、放った一撃は今までにない威力を発揮し、クトゥルーに襲い掛かる。


 だが、クトゥルーはそれを一蹴する。



 『無双式超魔力砲』



 クトゥルーがおもむろに手をかざし、魔力の砲撃を放つ。


 カリオの【魔力砲】を遥かに凌駕する魔力の塊は、『破煌裂閃』を掻き消し、ワンガ自身をも飲み込んだ。

 ワンガに直撃した【魔力砲】は火柱の様に天へ伸び、周囲の被害を最小限に抑えつつ、ワンガだけを飲み込み、黒い炭へと変質させてしまった。


 【魔力砲】の火柱が消滅した頃には、ワンガだった物しか残っていなかった。少し人の形をした石炭の様な物が転がっているだけだった。


 クトゥルーはそれを触手で撫でる。簡単にバラバラになり、黒い灰となって風に飛ばされた。


「『魂の剣士』、ね。ここまで燃やしても【分離】できるんだから転生者っていいわよね~!」


 高らかに笑い飛ばし、灰を踏みつけてみせた。


「まあ、こんなになっちゃったらどうでもいいけどね」


 『念話』で星の落とし子達と連絡を取る。


『は~い、皆。こっちは終わったけど、どうなったかしら~?』


『ああん! 隊長! こっちはずっと逃げられちゃってるのお!』


 独特なイントネーションで応答したのは、白黒の模様と青い淵が特徴のマーメイド族で副隊長の『ルクパッド』だった。


『な~んか手こずってるわね~。空中用兵装でも追い付けないの~?』


 海中でしか活動できない海魔族の戦闘員が陸上でも活動できるようにしたのが空中用兵装だ。最速で時速160㎞は出せる優れ物だ。


『速さじゃなくて妙な技を使ってくるのお! 身代わりって言うのお? 捕まえても別の物に変わっちゃってるのよお!』


『……ね~それって』



 ドスン、と、クトゥルーに小さな衝撃がぶつかった。



「?」


 

 視線を下ろすと、胸に剣が飛び出していた。



 否、背後から刺されているのだ。



「2人の、仇だ……!!」


 


 背後から声を聞いたのと同時に、クトゥルーの口から、大量の血が吐き出された。



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