スキルプレデター Ⅰ

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奪う者が奪い続けてきた集大成、ここに顕現


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 アージェスト海域内 ザバファール大陸 ビースティア大島


 魔族領では有名な港町で、街全体の民家が白い壁と青色の屋根で統一された景観が美しい事でよく知られている。


 海から直接取引がされるこの街の港で、朝から爆発音が響き渡っていた。



 その原因は、3人の異世界人と『星の落とし子達』が爆発が連続する戦闘を繰り広げていたからだ。



「だりゃりゃりゃりゃりゃ!!!」


 転生者『カリオ』の【魔力砲マジックキャノン】が星の落とし子達に向かって放たれる。青白い炎の弾が断続的に降り注ぎ、辺り一帯を爆炎で染め上げる。爆炎の衝撃で、港の屋台や船、海面が吹き飛んでいく。


 空中から攻撃していたが、爆炎と煙で地上が見えなくなってしまう。


「(これだけ撃てば一発くらい当たってるだろ……)」


 これだけ乱射しているのには訳がある。狙っている敵が海や建物に隠れているからだ。そこで、敵を炙り出すために無駄撃ちの様な攻撃をしている。


 頭に指を当て、『念話』で近くの味方に連絡をする。


『ワンガ、そっちはどうだ?』


『こっちも逃げられた。下半身魚だから地上じゃ動けないっていう考えは捨てた方がいいな』


 『ワンガ』と呼ばれた転生者の少年は、黒い和服を着て大剣を携えていた。大剣から放つ魔力の衝撃波『破煌裂閃』であらゆる物を斬って粉砕する。


 彼もまた隠れた敵を追うために港町の中を走っていた。そして怪しい影を見つけ次第『破煌裂閃はおうれっせん』をぶっ放していたのだ。


『さて、どうしたものか』


『ああ……』


『……あのさ、一言いい?』


 会話に割り込んできたのは、転生者『エイダ』だ。



『どうしてそんな馬鹿みたい攻撃してるわけ?』



 この3人、本来は潜入作戦を行うはずだった。


 転移先に多少の狂いはあったが、無事に街へ潜入できたと思った矢先、カリオが猫に驚いて【魔力砲】を撃ってしまったのだ。


 結果、『星の落とし子達』と名乗る人魚半魚人集団が追って来て、2人がノリノリで戦闘を始めてしまい、今に至る。



 その事をエイダは嘆いていた。


『私達の任務って主要機関の破壊よね? なのに関係無い場所攻撃して大事にするとか馬鹿じゃないの?!』


『いいじゃねえか別に。要は全部破壊すりゃいいんだよ』


『そうそう』


『馬鹿!! 強い奴来たらどうするのよ!!』


『大丈夫だ! 俺の『無双パワー』があればどんな奴も敵じゃねえ!』


『全然説得力無いから!』


 カリオのスキル『無双パワー』。膨大な魔力量を与え、身体能力も異常なまでに向上させるチートスキルだ。単純に強いせいか、複雑な魔法も魔術もめっきり使えない。本人が単細胞というせいもあるかもしれないが。


 エイダは溜め息をつきながら、建物の屋上を蹴って跳躍しながら主要機関の場所を探す。


『とりあえずこっちで探すから、見つけ次第連絡するわ』


『おう、任せた!』


 カリオは『念話』を終了して、下に視線を落とす。


 港は撃ち込んだ【魔力砲】で建物や置物は壊され、舗装された道も抉れて酷い荒れようだった。しかし、敵の姿は一切無い。


「(いないか。『探知』とか使えたら良かったのに)」


 地上に一旦降りて、警戒しながら周囲を見渡す。やはり生き物の気配は無い。


「(海にも逃げられたが、深くに潜ったのか)」


 海の方を見るが、さっきまで追いかけてきた人魚や半魚人の姿は見えない。それどころか影も波も無かった。


「……ん?」


 港の岸壁から覗くと、岸壁の壁に穴があることに気付いた。


「(まさかこの中に逃げ込んだのか?)」


 2人の方に向かっているのではと考え、『念話』で連絡しようと指を額に付ける。


『2人共、ちょっといいか』


 しかし反応が無い。


「あれ?」


 再度『念話』使ってみるが、やはり反応は無かった。


「おかしいな。届かない距離じゃないはずなんだが」


 何かあったのかと思い、空を飛ぼうと魔力を込める。



 ここで自分の異常に気付いた。自分の体の中に魔力が全く感じられない。



 もう一度練ってみるが、それでも魔力が無かった。一気に焦りが出てきて全身から汗が吹き出した。


「何だ、何が起きてる?! 『ステータス』!」


 ステータス画面を表示し、自分の状態異常を確認する。だが状態異常欄に状態異常の表示は見当たらない。


「(状態異常じゃない? じゃあ何だって……)」


 ステータス画面を順に見ていて、気付いた。



 スキル欄に『無双パワー』の表記が無くなっている。



「はあ!?」


 あまりの事態に大声で驚いた。


 何度確認しても『無双パワー』が無い。他に何の異常も無いのに、その表記だけが無くなってしまったのだ。


「どうしてだ? どうして『無双パワー』が無くなってるんだ?!」


 ステータス画面に異常が無いか調べるが、ステータス画面自体にも異常は無い。あるのは【女神の加護】だけだ。


「くっそお! どうすればいいんだ?!」


 頭を抱えて悩む。足りない頭をフル回転して解決策を探すが、一向に見つからない。



 ここで彼は重大な失念をしていた。



 敵が潜む敵地のド真ん中であり、敵がまだどこかに潜んでいるという事を。




 一瞬、空気が破裂する様な音が聞こえた時、カリオの体に大穴が開いた。




 上半身と下半身を分けてしまうほど大きな穴が開いた事に気付けないまま、カリオの意識は途切れ、その場に崩れ落ちた。



 この時点で、カリオの死亡は確定した。




 ・・・・・・



 カリオが死んだ事に一早く気付いたのは、ワンガだった。


「なん……、だと……」


 あれほど強力なスキルを持ったカリオの魔力反応が消えた。それも一瞬でだ。


「カリオの魔力が、消えた……?」


 驚きのあまり、立ち止まって海の方を振り向いていた。嫌な汗が額から滲み出る。


「(まさか、カリオがやられたのか? そんな馬鹿な)」


 思考は単純だが、スキルの強さは群を抜いていた。そんな彼が魔力を一切消費せずに消えるのはあまりにも不自然だった。


「(一旦戻るか? いや、エイダと合流するか?)」


 手を口に当て、少しだけ考える。考えはすぐに決まった。


「(エイダと合流しよう。あっちにも何か起きてるかもしれない)」


 大きく跳躍して、エイダの場所へと急ぐ。念の為【念話】安否を確認する。


『エイダ、聞こえるか?』


『どうしたのワンガ?』


『カリオの魔力が消えた。おそらくやられたみたいだ』


『何ですって?!』


 エイダもワンガと同じ様に驚いていた。


『ああもう! だから言ったじゃない!! 私達の中で一番強かったのよ!?』


『分かっている。一旦合流しよう』


『貴方にも責任あるんだからね! とりあえず今私のいる場所まで来て!』


 【索敵サーチ】でエイダの位置を把握し、方向を修正する。


『後5分くらいで追い付く。それまで待ってくれ』


『分かったわ』


 【念話】を切って、建物の屋上を跳躍してエイダの元へ向かう。



 ・・・・・・



 それから数分後。【索敵】でエイダのいる地点に到着する。


 そこは街の真ん中に位置する噴水のある広場の様な場所だった。他には誰もおらず、やけに静かだった。


 ワンガは周囲に気を付けながら広場に降りた。


「(ここにエイダがいるのか? だが反応はここで合っているが……)」



 その時、ワンガは強烈な悪寒に襲われた。



 すぐに建物の屋上に飛び移り、悪寒を感じた場所を注視する。


「誰だ?!!」


 ワンガが大声で叫んだ。



「あら~。貴方、ちょっと勘いいんじゃな~い?」




 噴水の水から、また別の液体が浮かび上がってきた。


 まるで水に飛び込んだ映像を逆再生したかの様な現象が目の前で起きていた。



 噴水から現れたのは、蛸の頭をした人の怪物、クトゥルーだった。



「さっきの子よりは楽しめそうね~」


「やはりカリオはやられたのか」


「ええ~、今さっき」


 ワンガは背中の大剣をクトゥルーに向けて、構えた。


「なら、ここでお前を倒す」


「意気込みは認めてあげるわ~。……でも、無理」


 小馬鹿にしたような喋り口調が冷淡な物へと急変した。



「だって、貴方のお友達のスキルで殺されるんだから」



 そう言ってクトゥルーが発動したスキルは、『無双パワー』だった。



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