目の前の景色は本物ですか? Ⅲ

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幻は現実に、現実は幻に、行き着く先は見えぬ底


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 リリアーナはとある建物の廊下を歩いていた。


 豪華な装飾と美術品で飾られた立派な廊下は、この先にいる人物の高貴さを物語っている。



 自身の背丈よりも明らかに大きい扉の前に立ち、ノックする。


「入るがよい」


 聞こえてきたのは女の声だった。扉がゆっくりと開き、中へと招かれる。


 部屋の内装は天井が高く、面積も相当な広さがあった。壁際に世話役の女性が何人も待機しており、部屋の奥に巨大なベッドが一つあるだけだった。


 ベッドの上にいるのは『淫ら』が似合う女だった。


 魔性漂う美貌、男を喜ばせるだけに付いた全身の肉、光でより美しく光る肌、煌めく艶やかな黒い長髪。

 それらを見せびらかすような布面積が少ない服装をしており、いつでも相手ができると主張しているようにも見える。


「おお、リリアーナ様。今日はどういったご用事で?」


「近くに寄ったから様子見を♥」


「それはご足労を。御覧の通り男を抱いてやる毎日です。性に溺れれば容易いもの」


 リリアーナはクスリと微笑んだ。


「楽しんでいるようで良かったわ♥ ショウコちゃん♥」


 

 この女性こそ、『ショウコ』だった者だ。



「あれから2000年、すっかり淫らに染まったわね♥」


「感謝しているぞ。最初は快楽漬けで大変だったが、今では自由自在に男を堕とせる」


「今だとちょっと刺激が足りないかしら?♥」


「そうだな、やりたい事は一通りやってしまったからな」


「それじゃあもう一回やり直してみましょうか♥」


 ショウコが疑問に感じる前に、リリアーナは指を鳴らした。



 次の瞬間、ショウコの景色が暗転した。



「次はただの性の快楽だけじゃなく、ちょっとマニアックな路線で行きましょう♥」



 リリアーナの不敵な笑みを最後に、ショウコの意識が落ちていく。




 ・・・・・・


「リリアーナ様、見て下さい。今日また生まれた我が子です。これで10人目、まだまだ生んでみせます」


 ・・・・・・


「ミノタウロス族に転生したショウコです! 今日も頑張ってミルクを売りさばきます!」


 ・・・・・・


「今年のワールドマッチョレディは、ショウコ選手です! おめでとうございます!」


 ・・・・・・


「この豚に落ちたショウコをもっと虐めて下さいませ!」


 ・・・・・・


「イエーイ! リリアーナ様見てるー!? ギャルピショウコちゃんでーす!」


 ・・・・・・


「女スパイショウコ、快楽3000倍でも耐えてみせますうううううううう!!!!!」


 ・・・・・・


「アイドルショウコ! 今日も歌って踊ります!」


 ・・・・・・


「ありがとうスーパーレディショウコ! 君のおかげで街の平和は守られた!」


 私は


「はーい、ショウコママでちゅよー。いっぱい甘えてねー」



 私は



「グラビアアイドルショウコ、鮮烈デビュー!」



 私、は



「ああん! リリアーナ様、今日も男を抱いていますわあ」



 わ、たし、は、




「まだ終わらないわよ♥ さあ、もう一度快楽の底へ♥」





 わ た し は だ れ ?




 ・・・・・・



「失礼いたします。リリアーナ様」


 ファリハが扉をノックして、リリアーナの書斎へ入る。リリアーナはゾーンとの巡回の準備をしていた。


「異世界人3名、エネルギー供給室に拘束完了しました。リリアーナ様の幻覚魔術を解かれる様子はありません」


 生命エネルギーを吸い上げる装置があるエネルギー供給室。そこでは犯罪を犯した者などが収容され、死ぬまでエネルギー源として拘束される。


 今回の場合、異世界人に眠る強力な生命エネルギーを吸い上げるために拘束した。


「報告ご苦労様♥ ショウコちゃんはどうなってる?♥」


「【無限快楽事変】を掛けられた異世界人は、現在進行形で肉体が変化しています。それに合わせて栄養を与えていますので死亡する可能性は微小です」


「その子はしばらくしたら街に放つから♥ 絶対死なせないでね♥」


「それは、大丈夫なのでしょうか?」


 ファリハが心配した瞬間、リリアーナが目の前に現れた。


「大丈夫♥ もう元の性格は破綻している頃でしょうから♥」


「そ、そうなのですか?」


「【思考加速】を過剰付与した状態で【無限快楽事変】を受けたのだから、こっちの1秒はあの子の中では1000年になっているのよ♥ それがもう何時間も続けば、どうなるのかしらね……♥」


 不敵な笑みを浮かべ、巡回の準備を整えた。


「ところでリリアーナ様、彼女達をいつ捕縛なされたのですか? 警報も鳴っていなかったみたいで……」


「簡単よ♥ あの子達が街に近付いた時点で捕まえたんだから♥」


 リリアーナは彼女達が街の外から壁に偵察に来ていた時点で、幻覚魔術をかけて捕えていた。

 そこからの違和感を感じさせないために、気付かれずに引き返した情景まで幻覚で見せていたのだ。


「無用な心配をかけたくなかったの♥ ごめんなさい♥」


「いえ。こちらこそお心遣い感謝いたします」


「ふふ、ありがとう♥ それじゃあ行きましょうか♥」


「はい」



 リリアーナとファリハは、今日も平和を守るため、街に繰り出すのだった。




 ・・・・・・


 

「え!? リリアーナ様って女性なの?!」


 一方、パシーパとラディオンはリリアーナの話をしていた。


「そうだよ。リリアーナの奴は常に幻覚魔術を発動してるんだ。事前に防護策をしておかないといいように認識を操作されるぞ、今みたいにな」


「あなたは……、大丈夫みたいね」


「一回かかってからは対策済みだ。一回もかかったことないの魔王様とアギパンさん、ヴァンダルさんくらいじゃねえかな?」


「そうなの……。でも幻覚ってそこまで強いの?」


 ラディオンは真剣な顔になった。


「……かかったことないから分からんかもしれんが、リリアーナの幻覚は現実との区別がつかなくなる。五感で感じる物全てが現実と同じ、喋っている相手も記憶と寸分違わない違和感の無さ、それを永遠見せられるのさ」


 部屋の窓から外を見て、遠い目をする。


「そして現実に戻って来た時にこう思うのさ、どっちが現実なのかって」


 パシーパはラディオンの横顔見て、肩に手を乗せる。


「そんなに自信が無い?」


「あれを見せられた後だとな。ちょっと自信が無い」


 そっと、パシーパの手を握る。


「だからリリアーナが負けるっていうイメージができない。心配なんて以ての外だろうさ」


「なるほどね」


 パシーパは納得してラディオンの手を握り返す。


「リリアーナ様の所に行った異世界人はとんだ災難だねえ」


「敵であることに変わりは無いが、同情するぜ」


 

 ラディオンとパシーパは、目の前が現実だと嚙みしめながら、歓談を続けた。




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