第5話 この世界の片隅で俺は。
マウンと初めて出逢ったあの日から12年後。
真人は、異能犯罪に対処する国内唯一の治安維持機関『異能対策局』の捜査官となっていた。
「今日も、『収穫』なし……か」
天園真人はボソリと呟く。
日本の首都、東京都内のとある公園。
まだ午前中だからか周りには子供もおらず、真人はベンチに寝そべりながらスマホで『何か』調べものをしていた。
マウンと出会い、彼のように誰かを救いたいと思って異能捜査官になった真人だったが。彼には、3年前に起きた———どうしても頭を離れない『事件』があったのだ。
東京で起きた史上最悪の異能テロ「ドミネイター・アグレッション」。
この事件で、彼は初めての相棒を『失った』。
望月白宜(もちづきはくの)元・四等捜査官。色素異常があるらしく、雪のように白い綺麗な髪が特徴的な———いわゆる『アルビノ』の女性だった。
それ以来、真人は元・相棒の死の真相を知るため、惨劇を引き起こした張本人とされている『奇妙な刀を持った女性』を探している。
その女性の振るっていた刀は、白兎(しろうさぎ)の体毛のように真っ白な刀身に、兎の瞳のように赤い線が描かれていたらしく、真人はこの『白兎の刀』を手掛かりにしている。
しかし、今日も全く収穫はない。
聞き込みの成果も無ければ、ネットを開いても特に関連のありそうな情報もなかったのだから。
「……さて、今日も仕事を始めるか」
彼はとりあえず『今日は』観念して通常の業務に勤しもうとベンチから腰を上げた。
すると。彼の言葉を『聞き捨てならない』と思ったのか、横のベンチで資料を読んでいる女性が怒った顔をしながら話しかけてくる。
「くそ先輩……いや、天園三等捜査官? それいつも言っていますけど、仕事は私に任せて喫茶店や漫画喫茶でだらけてますよね? あれは流石に殺したくなりますよ? わかってるんですか?」
そう悪態をついた上に殺意までほのめかすのは現・相棒の唯切愛示(ただきりあいじ)。階級は四等だ。
肩まで切りそろえた綺麗な黒髪に愛くるしい顔をもつ可愛い女の子。品行方正かつ業績も優秀で、局内での評判はとても良い。
しかし実のところはかなりの毒舌家で、文句を言っても問題ないと判断した相手にはこのように容赦(ようしゃ)なく罵声を浴びせてくる。
局内においては真人の後輩の捜査官にあたる存在だ。
(……一応、事件のことを調べていたりするんだがなぁ)
心の中で言い訳をこぼす真人。
確かに彼は喫茶店や漫画喫茶に行っていたりするが、それは店の人やネットサーファー達に3年前の当時に何かおかしな事はなかったかと聞き込みをしているのだ。
(……けれど。本当にサボってるときもあるから強く否定できない……)
とはいえ。基本的には聞き込みで訪れる真人だが、彼は休みたい時……つまりはサボりたい時に入ることもある。
しかも運悪く。この間、丁度サボっていたところを愛示に見つかったばかりなので尚更否定しづらいのだ。
ゆえに、素直に謝罪することにした真人。
「あー……すまん。確かにそうだよな。今度は別の場所へ行くよ」
しかし、その回答は愛示にとってお気に召すものではなかったらしい。
「違いますよ! 仕事を! してください!! ぶっ殺しますよ!?」
「ひえっ!?」
イライラが頂点に達した愛示は資料の束で真人の顔面を殴りつけ、怒りの表情を向けた。
そんな彼女の威圧に、震えて縮こまる真人。
(……一応俺は先輩のはずなんだが。この後輩、先輩に対してボロクソやり過ぎではないだろうか)
そう思ったがやはり旗色が悪い。真人は素直に改めて謝ることにした。
「ごめんなさい、ゆるしてください。ゆるして」
弱った体(てい)を『装って』謝罪する真人。
(どうだ。先輩がこんな情けない声で言ってるとさすがにいたたまれなくなるだろう? 計算されきった対応。これが年季の違いというやつだ)
彼は心の中でどや顔を決めながらごちる。
しかし残念ながら。
そんな真人の意図を微塵も介すつもりはないようで、辛辣な視線を向け続ける後輩。
「はー……。もういいです、うざい。次やったら粉微塵にしますからね。覚えておいてください」
そう言うと、ため息をつきながら資料を広げ直した。
(……。)
許されたようだが、なんか予定と違う。
(まあいいや……)
そう心の中でつぶやくと真人は本日のスケジュールのすり合わせを行った。
「さてと……。じゃあ今日の予定について確認するか」
無理矢理やる気を出して真人はタブレットを立ち上げ、本日の巡回エリアを確認する。
タブレットの画面に本日巡回する東京西エリアのMAP、そのエリア内で最近発生した事件の情報などといった大量の文字や図形が表示される。
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