第十三話 イチャでラブなおっぱいを!
眩しい日差しと小鳥のさえずり。起床を歓迎するかのような大盤振る舞いに私は遠慮なく目を開いた。
睡眠から目覚めたにしては随分とはっきりと覚醒した意識。私は窓の外を見るでも、スマホの時計を見るわけでもなく、感覚で察知した。
「寝過ごした」
だいぶ寝てたに違いない。脳がこれ以上の休息はいらないと判断し強制的に起こすことをしなければ未だに眠っていただろう。
「んしょ」
あくび一つせず、私は体にかかっていた薄く大きな高級そうな布団をひっぺがす。そして体を起こして凝り固まった体をいっぱいに伸ばした。冷えた末端神経に血が通っていく感覚。そして同時に。
「あれ?」
不思議な違和感が私を襲う。
そのモヤモヤとした違和感は、やがて形を帯び、私の脳内で形成、そして認識される。
高級そうな布団。大きな窓。装飾の施されたピンクの部屋。裸にワイシャツとスカートを着ているだけの私。
私は。
「なんでこんなところにいるんだっけ」
とりあえず私はスマホを探す。時間だけでも確認しないと。
ふにっ。
「むむっ!?」
枕元に落ちているだろうと思い手を伸ばすと、予想外の感触が返ってくる。とても柔らかい、お饅頭のような感触が。
私はゆっくりと首を回して感触が伝わってきた方へと視線を送らせる。
「すぅ……すぅ……」
そこには、規則正しく寝息を立てているとても、とても。とても可愛い女の子が寝転んでいた。
私の中のピースが全て繋がっていく。
「そうだ、私ひよりちゃんと……ラブホテルに来たんだ」
夢か現か。そんな疑問はもはや野暮というもので。今目の前に広がる光景は昨日の出来事を決定付けていた。
「これが、朝チュン……!」
巷では聞いたことのある朝チュン。まさかそれを自分が体験することになるなんて。
「excellent……」
思わず日本語を忘れてしまうほど朝チュンというものは素晴らしかった。
だって目を覚ましたら横で可愛い女の子が寝てるんだよ? 寝息を立てて無防備に。そこへ太陽の日差しと鳥のさえずり。これが幸せ以外の何というのか。
「んんっ……」
私が悶えていると寝息が止まり、ひよりちゃんの目がゆっくりと開いた。
「あっ、おはようひよりちゃん。ごめん起こしちゃった?」
まるで恋人のようなセリフ。「カハァ〜ッ! 言ってみたかったんだよねコレ!」と心の中で歓喜している私。
「ぁ、うん……おはよ」
ひよりちゃんは目を擦りながら体を起こした。だけどその目はどこか虚ろで、まだ寝ぼけているようだ。その姿は普段とはまるで正反対で覇気のない、小さな子供みたいで。やばい、可愛い。
「よく眠れた? 私いびきとかかいてなかった?」
「ん、だいじょぶ……ふわ……」
返事に力はなく、大きなあくびをして涙を浮かべている。
「もしかして、ひよりちゃん朝弱い?」
「んー……別に」
明らかに弱そうだった。やはり意識がまだ夢の中のようで、どこか遠くを見るような顔でぼーっとしていた。
もしかして、これはチャンスなのでは?
こんな無防備なひよりちゃん、滅多にお目にはかかれない。この状態なら、ひよりちゃんのおっぱいを触れるかもしれない。
え? 唐突に何を言うんだって? いやだなぁ、おっぱいだよおっぱい。おっぱいを触りたいのなんて男女共通。それどころか全生物共通のDNAに刻み込まれた行為なんだよ。
「というわけで失礼して」
というわけがどういうわけなのかは自分でもわからないけど、私は自分の遺伝子に従い汗が滲む手を開いて。
「ああっ! こんなところに虫があああああああああーーー!」
私が繰り出したのは掌底打ちとも言える音速のパイタッチ! いや! 仕方がない! 虫がいたのだから仕方がない!
ソニックブームすら纏いかねない私の腕はやがてひよりちゃんの胸へと——!
パチン。
振り払われてしまった。いとも簡単に。
しかし私は手を緩めない。さらにギアを上げて攻撃の間隔を極限まで短くする。
パチン。
パチン。
パチン。
「はぁ……はぁ……ば、バカな……」
私の猛攻を簡単にいなして見せるひよりちゃん。
「んん……ふわぁ……」
当の本人は気持ち良さそうにあくびをしていた。
「まだだ……まだ終わらんよ!」
一度は言ってみたかった決めゼリフと共に私は通常の三倍の速度でひよりちゃんの胸目がけて腕を突き出した。
そして、それに反応するひよりちゃんの腕はほぼ自然体。無重力とも言える柔らかさで、しかし驚くほどのスピードと的確なディフェンシブタクティクスで私の攻撃を防ぎにかかる。
「かかった!」
だが、私はそれを先読みして腕の軌道を変える。
そう、私の標的は最初からひよりちゃんのおっぱいではなく。
「その鎖骨、貰い受ける!」
朝の日差しに照らされた彩色の明るい綺麗な鎖骨に向けて、私の腕が猛進する——!
防壁を超え、伸ばした私の指先がひよりちゃんの鎖骨に触れる。触れる。触れた、はずだった。
「なっ……!」
しかしそれは視覚でのみの認識。指先からは鎖骨の感触がいつまで経っても伝わってはこない。やがて、眼前の景色がブレる。
「残像!?」
質量の無いひよりちゃんは瞬く間に空気へと同化していき、見えなくなった。
「なにしてんの」
「うわああ!?」
背後から声。振り向くとそこにはすっかり目が覚めたのかいつも通りのひよりちゃんが座っていた。
「あ、わ! ち、違うんだよひよりちゃん! 別に私はひよりちゃんが寝ぼけている隙におっぱいを触りあわよくばその艶美な鎖骨をこの指先でなぞり上げようなど思ってはなくて!」
何とか弁明の余地を探すも、ひよりちゃんは無反応。やめて! 反応無しが一番つらい!
「はぁ……別にいいけど」
呆れたため息をつくひよりちゃん。
「だけど、あんたはそれでいいんだ。無防備な女の子の胸を触って、それでいいんだ。安藤、あんたの求めてたものはそんなものなんだ」
「……ッ!?」
はっとして私は顔を上げる。ひよりちゃんは私を真っ直ぐに見つめてくる。小さな唇から真を問うかのように不純物のない声が、私の耳を射抜いていく。
私の、求めてたもの?
私は今、今まさに胸を触ろうとしていた手を見る。その手は一体、何を掴みたいのか。
胸に手を当てる。私の心は何を欲するのか。
おっぱいを触れさえすれば何でもいい? 無防備で無反応な人形のような女の子のおっぱいでさえ、触りたいと? おっぱいを触ることによって自身の欲求だけを満たし、相手に不快な思いをさせようとも? そこまでして、おっぱいが触りたい?
私は——。
「う、うぅ……よくない、よくないよぉ……。わた、私は……合意の上でおっぱいを触りたい。ひよりちゃんに嫌がられることなく、後腐れのないおっぱいライフを送りたいよぉ……うぅ……」
「そう、じゃあそれ目指して頑張りな」
「うん……うん、ありがとうひよりちゃん。私、ようやく自分に答えを見出せた気がする……」
目元に浮かぶ涙を拭う。べッドから降りて窓から外を眺め、下界を照らす太陽と蒼く大きな空へと手を翳し、決心する。
私が目指すのは相思相愛。一方的な愛は捨て、両者の想いが交差した時。はじめて肉欲の世界へと足を踏み入れることができるのだ。
そう、私の戦いはまだ始まったばかり。
私たちの戦いは、これからだ——!
「ひよりちゃん、おっぱい触らせて!」
「やだよ」
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