小さな夜の夜想曲

ポテトマト

#1

手すりを左手で鷲掴み、右手の指を喉の奥へ突っ込むと、すぐに腹が痙攣して生暖かいモノが込み上げてきた。堪らず口から吐き出してしまったのは、藍色の幕のような深い夜。白い星々や丸い月が混ざった暗い藍色の液体が、街を飲み込む土石流と比較しても遜色ない程の量で吐き出される。吐き続けて数時間経った頃。ようやく収まった。胃や食道は焼けたように爛れ、口の中には酸っぱいものがまだ残っている。フラつく体を持ち上げると、階下に広がるプールは夜空で満杯だった。無数に散らばった星々が白く瞬き、満月が青白い光を放つ夜。それが潔癖と言える程に白い、天井の下に広がっていた。


ああ。また今日も吐いてしまった。


朦朧とした意識の中。後悔と自己嫌悪が私をキリキリと痛めつける。それらが薄れ、消え去った頃には既に、夜は消えていた。眼下に残ったのは、50mプール程の大きさを誇る空洞。その壁や床は、見ていて息苦しさを感じる程に真っ白だ。


その様子を見届けた後、私こと小森小夜こもりさよはベランダの窓を閉め、ベッドの上に倒れ込む。外から聞こえる虫や鳥の鳴き音が煩くなりだしたので、どうやら夜明けの時間帯らしい。


いつになったら治るのだろうか。


そんな不安を抱えながら眠りに落ちる。

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