ミライクライネ
楠木黒猫きな粉
ミライクライネ
常に孤独が隣にあった。誰かと笑い合っていたはずだった。雪の日も雨の日も私は人と共にいたはずだった。けれど今は誰もそこには立っていなかった。
十二月十四日
今日から雑な日記でも書いていこうと思う。といっても後世に残るはずのない記録を無駄につける訳ではない。だからといって有名になるわけでもない。計画書の残骸のようなものだ。
今日の実験は失敗の予定だった。過去に二度失敗していたからだ。しかし成功のような形を保ってしまった。私達の計画に必要なものをそれは綺麗に生み出してしまった。しかし成功したそれは望み通りの形をとってはいたが一旦のところ保管しておくことが決まった。
十二月十五日
今日も実験は順調だ。昨日の成功があったからか皆やる気に満ちていた。そして成功を積み重ねた。しかし何故だろうか。計画は進んでいるはずなのに誰も彼もが焦っているようにも見えた。こういう感情を人は厄介な感情というのかもしれないな。
十二月十六日
今日は失敗の連続だった。第八研究室と第二研究室が壊れてしまった。しかし悪いニュースだけでもなかった。システムの基盤が決まったのだ。これで研究室二つ分の悪いニュースは帳消しにできるだろうか。
十二月十七日
今日は材料調達の為に外回りをしていた。しかしなかなか扱いに困ってしまう。いつ爆発するかもわからないからだ。しかし技術班は喜んでいた。何がいいのか私にはさっぱりだ。
十二月十八日
今日の実験は計画を大きく進めたと思う。私達を許さないものはもういない。だからこそ成功を確約しなければならない。
そして雪で車が埋れていたのは少し面白かったので記しておく。
一月十日
随分と久しぶりに日記を書くことにする。今日のことを書く前にこれまでに起こったことを書こう。端的に説明すれば計画は順調そのものだ。半年後には確実性を持って実行が可能になる。しかし予定より色々が早まっていた。二ヶ月以内に私達はこれを完成させなければならないらしい。
私達は全てが許されるはずだ。
一月二十八日
一人が嘆けば十人が糾弾する。もはや計画は実証の段階に移ろうとしていた。しかし日に日に彼らは不安定になっている。この波はどこからきているのだろうか。わからないものだ。計画は少し進捗が遅くなっても良いが関係性の修復は急がなくてはならない。きっと私達は分かり合えるのだから。
二月八日
雪が降るのが止まない日が一週間続いている。皆は研究所で泊まりきりだ。けれど計画はあと少しで完成となる。それまでの辛抱だ。私達ならきっとできる。そう信じている。
三月一日
雪が降る。それが私達の最後だった。計画は果たされる。きっと明日は晴れる。そうでなければいけないのだ。
三月九日
『未来』がもがくのをやめた。『桜』が泣くのをやめた。『実』が見るのをやめた。『海』が笑うのをやめた。『静利』が祈るのをやめた。『里見』が願うのをやめた。『神奈』が励ますのをやめた。『愛』が歌うのをやめた。『琴梨』が強請るのをやめた。『伊代』が混ざるのをやめた。『憂華』が嘘をやめた。『詩音』が良い子をやめた。『莉羽』が眠るのをやめた。『逢凛』が安定をやめた。
きっと私達は許される為に生まれてきたはずだ。
三月十日
計画は果たされた。人々は楽園に召し上げられ花園にて新たな原罪を与えられる。
そしていつか許しを待つ。私達のように。
孤独が隣人を愛せるのだから。
ミライクライネ 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven
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