イケメンの話

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　――これは私が高校生の頃に体験した、恐怖そのものです。

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　私にはKという幼馴染の友人がいます。

　そいつは、それはもう大層なイケメンで、道を歩いているだけで女性が目を奪われてしまうような綺麗な顔立ちをしていました。

　Kも自分の容姿に自信を持っており、中学の頃はそれを鼻にかけたりもしていたので友達は少なかったように思います。

　しかし、そんなKも高校に入ると落ち着きを見せ、みだらに女性に声をかけるようなことはなくなっていきました。

　いえ……それどころか、今までの反動なのかKは、それまで月一で通っていた美容院を止め、毎朝一時間かけてセットしていた髪をボサボサに乱れたまま登校するようになりました。

　それだけでなく、瓶底のように分厚い伊達眼鏡をかけ、背中を丸めて俯きながら歩き、顔を隠すような生活を始めたのです。

　初めの頃は私も、きっと女性関係で恨みを買ったのだろうと、Kの今までの自業自得だと笑ったりもしました。

　それも、すぐに調子を取り戻すと思っていたからで、ちょっとしたやっかみみたいななものでした。

　しかし、日が経つごとに改善するどころか、Kはちょっとした物音にも声を上げて驚き、常に何かに怯えるようになっていったのです。

　さすがにこれは只事ではないと思い、Kに問いただしてみても、

「違う、俺じゃない……！」

　と意味の分からない返答をするばかりで、会話になりませんでした。

　それからすぐにKは学校に通わなくなりました。

　引き籠って布団を被り、部屋の隅で丸まって震えていました。

　私はよく食事を運んでやりましたが、いつも碌に手を着けられておらず、日に日に衰弱していくKが心配でなりませんでした。

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　数日の後――。

　その日は、学級委員の用事と私事が重なってしまい、帰宅するのが遅くなっていました。

　いつもの通学路も暗いというだけで薄気味悪く感じるもので、私は街灯がチカチカと点滅する歩道を足早に通りすぎ、

「違う！　俺じゃない!!」

　家の近くまで来たとき、Kの悲鳴が聞こえてきました。

　私は急いでKの元に駆けつけました。

　部屋のドアを壊す勢いで開け放つと、Kは何かから逃げるように、壁に背を張りつけながら震えていました。

　私はどうしたのかと肩をゆすりましたが、Kは恐怖に目を見開いて窓の方を凝視したまま、うわ言のように「違う、俺じゃない……違う、俺じゃない……」と繰り返すだけでした。

　私は訳が分からず混乱した頭のまま部屋を見渡した、その時――、

　月明りに照らされて、何か丸いものが床の上でヌルリと光りました。

「違う、違う違う違う！　俺じゃない!!　俺は盗ってない！！！」

　人の眼球でした。

　普通なら二つ一組で眼孔にはまっていなければならないそれが、一つだけ転がっていました。

　虚ろな黒い瞳と目が合い、フッと誘われるように私の視線は窓の方に向けられ……

「「「私ノ目ェ、返シテヨォ!!!」」」

　死体に群がる蛆のように、空っぽになり、黒い穴となった眼孔から血涙を流す女性たちが窓に張りついていました。

　重なり、蠢き、互いを圧し潰し合いながら、呪詛と血を撒き散らしている。

　あまりの出来事に私は全身を襲う怖気に震え上がりました。

（執着心というのはこんなにも悍ましいものだったのか。こんなにも簡単に人を根本から変えてしまうなんて……！）

　そう私が驚いたのも無理はありません。だってそこには、ついさっき目をくり抜いてやった同級生の姿もあったのですから！

　なんてことだ。もう目がないくせに、そこでぐちゃぐちゃなってる醜い奴らは、まだKに色目を使おうとしている。

　そのことを認識した瞬間、私は恐怖より怒りが湧いてきました。

　死んでいるくせに、Kの心に傷をつけられたのが許せなかったのです。

　激情に駆られるまま、近くにあった瓶詰の金平糖を思いっきり投げつけていました。

　――ガシャーン！

　ガラスの砕け散る音が辺りに響きました。

　勢いよく吹き込んできた夜風に、思わず目をつぶりました。

　まるで部屋に溜まっていた淀みが洗われていくようでした。

　風が収まり、目を開くと静かな夜の帳が広がっていました。

　まるで今のことが夢だったみたいで。

　部屋に漂う静かな空気に、私は大きく息を吐いて気を失ってしまったKの傍らにへたり込みました。

　カエルの声が穏やかに聞こえていたのを覚えています。

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　これが私の体験した恐怖のすべてです。

　彼女たちがなぜ消えたのかは分かりません。

　でも、死んだとしても女性ですからね、甘いものにも目がなかったのでしょう。

　だから、貴女のお供えも甘いものを置いておきますね。

　　　☆　　　あとがき　　　☆

　本作は、にじさんじ所属のVチューバ―『月ノ美兎』さんが企画主催した、

「100個怖い話するまで帰れない2020（＃帰れない百物語）」に投降した作品になります。

　残念ながら採用にはならず、供養と思いこちらに上げさせていただきました。

　まぁ、今読み返して見ると、これって『怖い話』じゃなくて『怖い話風の小説』なんですよね。

　そりゃあ採用されないわ。完全に企画主旨から外れてますもんね。

　私個人が気に入ってるライバーさんが主催で、しかも小説系の企画だったので、色めき立って目が眩んでいたみたいです……あれ？

　急に目の前が暗くｎ