主人公になりたい!~主人公に憧れた凡人が本物の主人公を倒すまで~

宮本武蔵

主人公の定義

第1話 主人公に憧れた男1

 物語の主人公になりたい……それは一度は誰しもが考えることだ。

 しかし、物語の主人公のような抜けて高い能力(高い知力、高い運動能力)や生まれながらにして与えられる容姿や社会的地位といったものは限られた人しか享受できない。

 大抵の人は「自分には才能がなかったんだ」「生まれが悪かったんだ」と諦め、身の丈に合った生き方をすることが多い。

 中には諦めきれずに主人公になろうと足掻く人もいるだろう。「才能なんて関係ない」「生まれなんて関係ない」と。

 だが、そうやって足掻いた人は紛い物ではない本当の主人公に出会ったらどうなるだろうか?

才能や生まれによる差に絶望して諦める人が多いのではないだろか。


 そうーー今説明したように本物の主人公になるのは並大抵の事じゃない。

 まずは、足掻いて足掻いて足掻いた先にようやく本物の主人公の世界の一端を知る事だろう。

 そして、本物の主人公との差を明確に理解することでより絶望する。

 そこを乗り越えて、また足掻いて足掻いて足掻いた先にようやく主人公と同じ世界に立つことが出来る。


 世界は不公平だ。同じ時間、同じ場所で生まれたとしてもこんなにも差が生まれてしまうのだから。

そこまでして主人公になりたいと思う人が果たしているのだろうか。

 いるのであれば普通じゃない。逆にそこまでして主人公になりたいと思うことが主人公たる所以の一つなのかも知れない。

 この物語はそんな普通じゃない、主人公になりたい憧れがひときわ強い少年、佐藤光希のお話。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 二月の下旬、寒さも落ち着き始めたころ草薙学園高等部一年生の廊下に人混みが出来ていた。


「俺にもみせろよ!」


「ちょっと!おさないでよっ!」


 廊下の壁には大きな紙にびっしりと人の名前が書かれており、この人混みはその紙を確認する為に出来ていた。

 そうーー今日は先日行われた学年末テストの結果が張り出される日であり、毎回テスト結果が張り出されるとこのように騒がしくなるのだ。

 この学園では今では珍しく、テストの結果を張り出す習慣があった。何でも、結果を張り出すことにより生徒の向上心を煽る目的があるとかないとか。

 現にこの学園の学力は非常に高く、この学園の卒業生が何人も某有名大学に進学している。


「あんたは結果を見ないわけ?」


 そう聞いてくるのは、同級生である柊香澄だ。誰が見ても美少女と言う容姿で、肩までの桃色の髪をツーサイドアップにしている。

 ただ、背が低く所謂ロリと呼ばれる体型をしており、綺麗と言うより、可愛いと言える。目が悪く、勉強するときはメガネをかけているが今はかけていない。言動から分かる通り負けず嫌いで勝気な性格をしている。


「人混みが引いたら確認するよ」


 気にはなるが、急ぐ理由はないしと答える。


「はっ、流石学年一位様は余裕ね。見てなさいよっ!今回は絶対私が一位なんだからっ!」


 柊はテストのたびに勝負を挑んでくる。しかも、「勝ったら何でも言うこと聞くこと」と言って賭け事まで仕掛けてくる。

 しかし、今のところ柊は俺に勝ったことがなく、毎回自滅している。もしかしてMなんじゃないかと勘繰っている。


「はははっ、今回も勝ってジュース奢って貰おうかな」


 こうは言ってるが内心冷や冷やもんだ。柊はめちゃめちゃ頭が良く、毎回ギリギリで勝っているのが現状だ。正直に柊がいなければ今の勉強時間を二時間は短縮できると思う。

 今日の結果次第では勉強時間追加しないといけないと思うと胃が痛い。


「ぐぬぬぬっ!生意気ねっ!」


 柊が何か叫んでるがそれどころではない。人混みが引いてきたみたいだ。


「おっ、空いたみたいだぞ」


 そう言って張り紙の元まで向かった。


「あっ、待ちなさいよっ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一位 佐藤光希 472点

二位 柊香澄  470点

三位 …


「どうやら今回も俺の勝ちのようだな」


 内心ホッとしながら柊に話しかけた。


「~~~~~~」


 柊が顔を真っ赤にしてプルプル震えている。余程悔しかったのだろう。しかし、俺は普段から色々言われている仕返しに追い打ちを掛けてみる。


「早速で悪いが賭けのジュースでも奢ってもらうか。地域限定の抹茶ソーダーでもお願いしようか。もちろん賭けの約束を破ることはないよな?」


 ニヤニヤしながら畳みかけるように言ったら、お腹に衝撃と共に暴言が飛んできた。


「佐藤のばかーーーーーーーーーーっ!」


「ぐはぁっ」


 柊はそのままは走り去ってしまった。俺はというとお腹を殴られたせいで死にそうになっていた。


「流石に言い過ぎたかな」


 すまん柊、学年一位を死守できたことに安心してつい柊を弄ってしまった。また会ったら謝ろうと心に誓い俺はお腹を押さえながらその場を去った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 後日談


「佐藤、ちょっといい?」


 クラスの自分の机で自主勉をしていると柊が訪ねてきた。


「どうした?柊が俺のクラスに来るなんて珍しいな」


 柊は俺とは違うクラスで、普段であればわざわざ別のクラスにいる俺の元に訪ねてくるなんてあり得ない。


「この前の賭けの件だけど……あげる」


 そう言って差し出してきたのは、俺が冗談で言った抹茶ソーダーだった。


「どうしたんだこれっ!?まさか、わざわざ買ってきたのかっ!?」


「ち、ちがうっ!通販で買っただけよっ!」


 顔を真っ赤にして否定してきた。冗談で言ったのに律儀なヤツだなとほっこりしながらお礼を伝えた。


「そうか、わざわざありがとな」


「ふんっ!約束だから仕方なくよっ!そ、それより、飲まないの?」


 そこで俺は衝撃な事実を思い出した。この抹茶ソーダーとんでもなく不味いと評判なのだ。わざわざ買ってくるとは思ってなかったから適当に言ったのが失敗した。

 ここは取り合えず話をそらして後で感想言って乗り切ろう。


「昼休憩の時にでも飲むよ。それより…」


「そう……」


 柊は被せ気味にシュンとした声で返答してきた。イカン!柊が悲しんでいる!ここは男として飲むしかない!


ごくっごくっごくっごくっ


「う、上手い、柊が買った抹茶ジュースは格別だ」


「と、当然よ、これで賭けの件はチャラだからねっ」


 そう言って柊はクラスから出て言った。俺はこの後トイレに籠ることになったのは言うまでもない。

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