クマムシ人間

@Amatsukaze0re

第1話  めでたき日の朝












「よし、最後のページだ」

この本には、生きる上での知識、最低限度覚えた方がいい基礎学力、困難にぶつかった時の考え方などなど沢山のことが書かれていた。

内容はそこまで難しくないことなのだが、漢字だとか習ってない点が多々ありスラスラと読むことはできなかった。これも勉学が十分にできる環境でなかったからだと思う。でも自分なりに解釈をして理解することが出来た。序章から最終章まで読み終えるまでに2週間も経過してしまった。

「叔父さん。ありがとう。行ってくるね」

そう口にすると、最後のページを閉じてカバンの中にしまう。

そして、長く座ったことにより猫背になりかけていた上半身を持ち上げた。

今日は、人生で一度しか無い出来事が待ち受けている。それは、15歳の9月9日に行われる儀式である。人生のパートナーが選ばれる日だ。そのパートナーは主の命が尽きるまで助言や手伝いをしてくれるという。そのパートナーは生き物の守護霊だと言われている。しかし、哺乳類、爬虫類、両生類、鳥類など書いてみるだけで、一冊の本になるほどの種類の生き物がいる。それほどの命があるということは、それほどの命も無くなっているということ。その数えきれない程亡くなった生き物の中で一匹だけ自分のパートナーになるという。


契約書に書くための万年筆を服の内ポケットに入れると、玄関へと向かった。

「隷?もう行くの?」

「あぁ」

母親は、晩御飯の仕込みをする手を止めて、水で手を軽く洗い、タオルで拭きながらついてきた。

「そんな早くなくていいのに。」

少し呆れた表情をした母親はそう言い、靴を履いている俺と同じ高さになるまでしゃがみ、耳元でこう言った。


「せめて、家のことを手伝えそうな守護霊がつくといいわね。」

左目でおそるおそる母親の顔を見ると、目は充血していて、シワを寄せている。 

「あぁ。わかってるよ」

視線を下に落とし、太もものアザを撫でながらそう答えた。

「もし使えなさそうなら、お父さんに鍛えてもらうからね。びっしりと」

薄気味悪い表情を浮かべて、肩に優しく触れてきた。

「やめてくれ!」

肩に触れられた瞬間、アレルギーを起こすかのように跳ね除けた。自分でもびっくりしているが、とにかく睨んだ。

「俺は‥」

すると、そとから声が聞こえ、玄関に近づいてきた。

「おはよう!隷とお母さん」

幼馴染の七海と健太郎が入ってきた。

「どうしたんですか?」

健太郎は俺と母親が対面しているのを不思議に思い聞いてきた。

「なんもないよ。今日の天気聞いてただけだよ」

健太郎たちに知られて巻き込みたくない。知られて巻き込んで何かあったら耐えられない。その気持ちが平然な嘘をつくった。


「そっか」

少しうなずき、納得したように見えた。

じゃあ行こうかと続けて健太郎が言った。

「じゃあね、隷ママ!。行ってきまぁす!」

七海は後ろ向きに歩きながら手を振っていた。

「いってらっしゃい♪」

後ろを振り向くと笑顔の母親がそこにいた。

そのあとは後ろを見ることはなかった。いや、見たくなかったんだ。

「話は後で聞くからな」

ふと健太郎を見ると、真剣な眼差しでこちらを見ていた。

「なんのこと?」

とぼけるがその時は何も答えてくれなかった。

しばらく歩くと教会が見えてきた。

「そういえば隷ってなんで私たちと朝に会った時は普通の体格なのに、家離れたら体格が良くなるの?」

少しの沈黙を得て口を開いたのは七海だった。

「これは親をいつか驚かせようと思ってるだけだよ」

「なんか嘘っぽい」

「ほんとほんと」

そこに健太郎が話題に入ってきた。

「まず体の大きさを変化させるなんてことできるの?」

「これは叔父さんが作ってくれた特別な薬を投与したからだって言ってるじゃん」

「そんなんほんとにあるの?まずどこまでがほんとの話かわかんないし」

七海は俺のこの話を信じていない。

「あと、どうして隷ママとかには聞いちゃダメなのかを教えて欲しい」

そこにまたまた疑心暗鬼な健太郎が割り込んできた。

「だから、それは親は反対していたから薬を投与したことがバレたらやばいからって言ったじゃん?」

「ほんとー?」

2人は同じように俺の顔を覗き込む。

「は、ほんとだって」

そしてまぁいいやと言うように話題を七海は次にした。

「それで隷にはなんの守護霊がつくのかな?」

「そりゃ、この体格ならゴリラとかマントヒヒとかが妥当じゃね?」

そう、俺は体が他の同級生よりひとまわり大きい。

「でも、この体格でコアラが守護霊なら逆にギャップ萌えしてなんか良くない?」

2人は想像しているのかふざけた笑いをしている。この2人には俺をいじるのに躊躇がない。

「さっきから好き勝手言いやがってー!」

「やばい!逃げろー!」

2人は一斉に逃げる態勢を取り猛ダッシュで走り出した。

追いかけてはや3秒ほどで

「くそ!追いつけなぁなぁー。待ってー」

戻ってくるのも早く2秒で戻ってきた。2人の額が汗ばむことがないのがすごいところだ。


教会にはたくさんの青年が集まっていた。その数ざっと300人。誰の目を見ても生き生きしている。今から起こることに希望を抱いているようだった。


俺以外は。


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