婚約破棄で、北へ行く

桜泉

第0話 プロローグ(改)

 見上げれば蒼穹。

 見渡せば雲海。

 只中に佇む亡国の女王と、低頭した騎士と、守り立つ白竜。。


 確かに、これは夢だと思う。

 そう納得して、アンリはひとまず落ち着こうとした。


 中空にいる主従の正体は、正確に理解できる。

 疑問すらおこらない。

 なぜなら、自分が見る夢だから。。


 アンリが見守る中、ためらいながらも立ち上がった騎士が、畏れるように両腕を広げた。

 その分厚い胸板に女王が縋りつき、少女のように……はにかむ。


 想い人を抱きしめた騎士も、ふたりを懐に守る竜も、ゆるゆると溶け合わさって、煌めく塊になった。


 アンリの内を絶え間なく苛んでいた焦燥感が、消える。

 ふうっと、深い安堵の息が漏れた。


(終わったんだな……)


 何千年と焦がれ続けた逢瀬も。アンリも。そうして、すべてが。。

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