第14話『受け継がれる意志』

ファブロに【猛火】を受け取ってから数日がたっていた。


フリードは、旅の準備を進めながら、この数日間にあったことを思い出していた。


―――

まず、ギルドからオークの素材を売った代金を貰ってそれが思ったよりも大幅に多く驚いたものだ。


(まぁ、旅の経費が増えたから嬉しいんだけどな)


ちなみにオークが変異主だったために高額で売れたとギルド長は言っていた。フリードはギルドからの今回の迷惑料も含まれているじゃないかと踏んでいる。


それから、新しい装備と【猛火】の調子を確かめるため、またあの森まで訪れた。


新しい装備と【猛火】の性能は破格のもので、全く苦戦することなく魔物を刈ることが出来た。


魔物を刈っている最中、オークが出てきた。


今回は普通のオークだったが、先日のことがあるため警戒したのだか、なんのことはなかった。新しい装備のお陰もあるのだろうが、それにしてもアッサリ倒せてしまい、この前のオーク変異主はやはり特殊だったんだなと再確認した。それと同時に、今自分の手に握られているあのオークの素材から作られた相棒【猛火】を見て頼もしく思った。


その後、オーク変異主と戦った場所にも行ったのだが、その場には何もなく一面焼け野原と化していた。その様子を見て戦いの壮絶さを思い出しつつ、良く自分は勝てたなぁと思った。


(そういえば、ヴィントさんも言ってたけど良く俺はあれだけの炎を食らって無事だったよな…俺は火の耐性が強かったりするのだろうか?まぁ勝てたんだからいいか)


―――――――

(この数日間にあった特筆すべきことはこれぐらいか)


考えを打ちきり、旅の支度をしていたその時父親から声がかかった。


「フリード、少しいいか?」


「うん、良いけどなに?」


「ちょっと着いてこい、お前に渡したいものがある」


そういい、父親は部屋を出て行った。フリードは急いでその後を追う。


(ここは、倉庫?)


父親が向かった場所は、家の横にある小さな倉庫だ。


父親は、フリードに入るように促しながら中へ先に入っていった。


その後を追うように、フリードが中に入るとフリードの父は縦に長い箱を取り出している最中だった。


「それが渡したいもの?」


「ああ、そうだ」


そういい、箱の中から1つの物を取り出した。


―――中から取り出した物とは…


「それは?剣?」


――――1本の剣だった


「そうだ、これは剣だ。だが厳密に言うと少し違う、これは刀という武器だ」


そういいながら、父親は鞘から剣を抜き取った。


「刀…なんでそんな物が家に?」


「これはな、俺が昔使っていたものだ」


「え?それって…」


「そうだ、俺も昔冒険者をやっていたんだ、その時使っていたのがこの刀だ」


「父さんが冒険者だったなんて…」


フリードはとても驚いたが、と同時に納得する部分も多かった。

何故、家の酒場には強い冒険者が多く訪れて、その上、異様に父さんと親しく話しているのは父さんが昔冒険者だったからなんだと合点がいった。


「あまり驚いてないみたいだな?」


「いや、十分驚いてるよ、でも同時になんか納得できちゃったんだ」


「フッそうか」


「で、その父さんが使っていたって言う武器を俺に?」


「ああ、いつか渡そうと思っていた」


「でも、なんで」


「フリードお前が冒険者に成りたいといった時、不覚にも笑ってしまいそうになったんだ血は争えないんだなと、俺も昔冒険者に憧れ冒険者に成った、そしてそれなりに功績も残した、だが同時に自分の限界も感じた、だからこそ俺は冒険者を辞めてこの辺境の地で気ままに酒場のマスターをやっている。今俺は妻子にも恵まれとても幸せだ。冒険者を辞めたことに後悔は勿論ない。だが、お前の姿を見て昔の自分にふと重ねてしまった、そしていつかお前なら俺を越える冒険者になると思ったんだ…」


「俺の諦めちまった道をお前は行こうとしてる、その道はとても険しいものになる。だからこの刀をお前に託す。決して折れず俺の道を切り開いてくれたその刀を」


そう言って刀をフリードに手渡してきた。


その剣、刀は全体が漆黒に包まれていた。墨で染め上げたような漆黒の鞘に、同じ色の柄、黄金のつば、そして、闇を型どったような漆黒の刀身。その刀身は、片刃で反りを持っていて普通の剣とは違うのがわかる。


光にかざしてみると、鈍くそして鋭く黒く輝いた。


「これを俺に?」


「ああ、お前に託す。その剣は東の方で良く使われてる剣で、刀という、見てわかる通り片刃の反りがある剣だ、その刀はさっきもいった通り俺が現役のとき使っていたもので、決して折れず朽ち果てない最硬の刀だ。きっとお前の困難を打ち砕いてくれるだろう」


「ありがとうございます」


しばらく、フリードはその漆黒の刀に目を奪われていた。


「そして、最後にそいつの銘を教える」


「はい」


「そいつの名は黒刀【黒硬】だ」


「【黒硬】…」


そう呟き、フリードは再び刀を光にかざした、それに答えるように漆黒の刀身が鈍く黒光りした。

……


「これから、しばらくお前に刀の戦い方そして、俺の職業≪侍≫を納めてもらう」


いきなり父親の職業を知り驚いたのもつかの間、それからしばらくの間父親との修行に明け暮れた。


――――――

フリードは今、生まれ育った街から飛び立とうとしていた。


フリードの側には、見送りに来ていた両親の姿があった。


「じゃあな、頑張れよフリード」


「うん、頑張るよ父さん」


「頑張ってフリード、たまには帰ってくるのよ」


「わかってるよ、母さん」


ふと、最後に今までの記憶が頭を過ぎ去った。


(そうだったな、何時も2人は俺のことを支えてくれてたよな、俺が無能と呼ばれていたときも2人は俺に変わらず接してくれた)


「シュルツ父さん、リンド母さん今まで育ててくれて本当にありがとう。2人のお陰で今の俺があります。いつか2人に恥じないような立派な冒険者になってこの街に帰って来ます。今まで本当にありがとうございました、行ってきます」


そう言って街をでたフリードは一度も振り返ることはなかった。


街を後にしたフリードの耳に、2人の「行ってらっしゃい」という声が聞こえた、その時の声は泣いているように聞こえた。


その声を聞いたフリードも、また涙を流していた。しかし、フリードが街に振り返ることは一度もなかった。


涙が止まった時のフリードの顔は決意に道溢れていた。


――――――そうしてこの日、フリードは新たな決意と共に2本の剣を腰にさし生まれ育った街を旅立った。

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