平均よりちょっと下

@toshiaki10

第1話

女の子は美しいおバカが最も幸せ。


とある映画を見た時にこんな言葉が出てきたんだ。でも僕は少したりとも共感できなかった。なぜかってそれは、僕の好みが自分よりも知的で頭のいい人だからだ。

ただ、


「突然だが、君の性癖の話をしようじゃないか。」


こいつと出会ってからは今までしてきた自己に対する認識を改めなければと、本気で思った。


「おやすみ」

睡眠っていうのは言ってしまえば寿命を意識の外で消費する行為だけど今なら寿命を浪費するのにも抵抗がない。


「冗談だよ、冗談。ほんとは君のタイプについて聞いてみたかったんだ。」


「お前と出会うまで僕は自分より知的で頭のいい人が理想だったんだけどね。おかげで自己認識に疑いがかかったよ。」

結局のところ、僕はまだ自分のタイプってやつが分かっていない。異性と遊びに出かけたって心躍るような経験はもうしばらくしていない。


「君の認識は全く持って間違えていないよ。つまり君は私を愛しているのさ。」


「たとえ僕の認識が間違っていないにしても、何事にも例外は存在するんだよ。」


「その言葉は矛盾しているよ。例外の例外という存在によってね。」


「じゃあこの件に関しては、お前が例外なだけだ。」

近頃、例外と聞くときには言い訳にしか使われてない気がする。

探せば例外の当て字に言い訳と書いてある漫画がありそうなくらいだ。


「まあ、君が僕を愛しているのは僕が一番わかっているからね。それについてはいいとしよう。

じゃあ、なぜ知的で頭のいい人が好きなんだい?」


なんだかストーカーみたいなことを言っているが、こいつの発言は正しい自己認識からの自信からきているからストーカーの心理とは違う気がする。

知ったような言葉使いになってしまうけど、ストーカーの場合のそれは依存からくるものだろう。


「経験からくるものが一番大きいだろうけど、もう一つあるとしたら僕の頭の出来が良くないからかな。」

良くて平均、平均よりちょっと下が僕の頭の出来だと思ってる。


「私の経験から言わせてもらうと、馬鹿な男ほど自らよりも頭の出来が悪い、おバカな女を好むように思えるけどね。

君はなぜそうじゃないんだい?」


「多分それは平均への認識が少し周りとずれてるからじゃないかな。

生きていくうえでいろいろな能力が数値化されて比べられるけど、どの数値も大雑把なものなんだ。これ以上ないくらい厳格に値を求めて、同じ値の人が一人もいなくなったときに平均値と同じ値の能力を持つたった一人は全体の半分の数よりも優れていて、全体の半分の人より劣っていることになる。

僕は通りがかる人の半分より優れているなんてとてもじゃないから思えないからさ。

だから僕は自分の頭の出来を平均よりちょっと下だと思ってる。

そんな僕が自分より頭の悪い人がタイプだと言ったら平均より普通にしたの人がタイプってことになってしまうからな。」


つまり


「面白いな。いろいろな人を見てきたけど自分の好みを消去法で決める奴は君が初めてだよ。」


そう、つまりこれは消去法だ。


「まあそうなるから最初に言ったんだよ。経験からくるものが一番大きいと。」

さっきも言ったけど結局僕は自分自身の好みすらよくわかっていない。


「君は自分自身に疑いの目が向きすぎている。普通なら感覚的に分かったと判断するところで感覚に対しての対処ではなく疑問を向けるのはなかなかできるものじゃない。

だけどそれをするにはまだ知恵が足りない。年期が足りない。

もう少し多くの才能を持っていたら話は変わったのかもしれないけどね。」


「才能?」

天才とは自分と他人との違いを明確に知るものだと聞いたことがあるけれど、だとしたら僕は天才ではないのだろうと思った。


「そうさ、才能。感覚的に自身の欲のありかがわかってしまうような能力。

君の天才の定義で行くと天才なりうる才ってやつさ。

でも、僕は君の才能が欠けている部分が好きなんだ。だから君のままでいてほしい。

生きがいだとか人生の目的だとか、考えることを放棄しないで納得できる結論が出るまで悩み続けてほしい。」


「苦しい道を選べと言われている気分なんだが」

好きだとか言っておいて酷い話もあったもんだ。


「そうとも。生きて苦難を乗り越えると人はいかれてしまうけれど、君のその普通とのずれが生じた原因には、君がいかれてしまった原因には何かしらの苦難があったのだろう。

だけど、それでも僕は君にまた苦難を乗り越えてほしい、ずれてほしい、いかれてほしい。」


僕は彼女をいかれていると思うけれど、彼女からしたらみんなが思う普通ってやつがどうしようもなくいかれているんだろう。


「ただ、私は君を愛しているからな。一つアドバイスをあげよう。

君は結果に対して疑問を抱くあまりに結果をないがしろにしすぎている。

もっと結果を大事にしたまえ。そうすればその下った思考ももう少しはましになるだろう。」


「結果を、大事に、」

僕は他人に自分のことを知った風に言われるのが大嫌いだ。

僕が疑問に疑問を重ねて考えている自分についてを感覚のみで口にされるとどうしようもなく腹が立つ。

でもこいつと話していると自分が知らない自分のことを他人が発見するなんてことは普通にあるんだって思う。


「なあ、なんで俺のタイプなんてものを聞いてきたんだ?」

多分だけどこいつは俺のタイプなんてすでに知っていたのではないかと思う。

ならなんで


するとニヤニヤした顔で

「なんでだと思う?」


やっぱりそうか。

こいつは僕以上に考えたうえで納得する結論が出ている。いわゆる天才ってやつだ。

だから僕はこいつの言葉をこんなにも聞き入れてしまうんだろう。


「お前のアドバイス、とりあえずはやってみるよ。結果を大事に。」


「他人を頼るのは悪いことじゃない。それしかできないのは問題だけどね。

だから原因が分かっていなくても結果だけでも口にするのもいいことだと思うよ。

まあ君はそもそもがシャイな奴だからな、それにはそう少し時間がかかるか。


さて、私は眠くなってきた。そろそろお開きにしようか。」


「そうだな。

いや、ちょっと待ってくれ」


「なんだい?」


せっかくだアドバイスを実践してみよう

「僕はお前がきらいだ。」


「やれやれ、もう少しじか「でも、」ん?」


「僕はお前を愛しているよ。」


「もちろん、知ってたさ。」


でしょうね。







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