ボトルメール

鳳雛

第1話 拝啓 どこかの誰かさんへ』

Side.???


「拝啓 どこかの誰かさんへ」


HBの鉛筆を手に取って、一言。


そのメッセージを丸めてボトルに。


フタをして、日が昇る東の海へ・・・


********************************************


Side.湊


ザザァーーー・・・


「・・・綺麗なぁ」

ここから見る夕日は、嫌なこと全部忘れさせてくれる。

喬木に隠れたこの浜辺は、私しか知らない秘密の場所。


「・・・ハァ~」

もう帰ろ。

おなかすいた。

今日はお魚いっぱい食べよ。


・・・って、ん?

夕日に照らされて、何かがオレンジ色に光っている。

なんだろう、ゴミでも漂流してきたのかな?

でも、島々の決まりで海へのポイ捨ては固く禁じられているから、少なくとも私が生まれてから今までで、この浜辺でゴミなんて見たことはなかったのになぁ。


いつからあったんだろ?

ずっと夕日を見ていたから 気づかなかった。

漂流物があまりにも珍しいから、恐る恐るそれに近づいてみた。


「・・・」

ゴミにしてはキレイ。

手に取ってみると、漂流物の正体は透明なボトルビンだった。


ん、中に何か入ってる。

開けてみよっ。


パカッ

ボトルの中には紙が一枚、丸まって入っていた。


え、なんだろう、もしかして手紙?!

なんだろ~ドキドキしてきた!

私が中身を見ていいのかわからなかったけど、生まれて初めて見る漂流物の中身が気になってしまい、誰かの許可を待つことができず、気づけば中に入っていた手紙を手に取って広げてしまっていた。


クルクルクル・・・


「っ!?」


胸を高鳴らせながら手紙の中身を見てみると、短く一言、『消えたい』とだけ書かれていた。


********************************************


「いやダメでしょ!!」


日が沈んで、私は家に帰った。

紙とボトルも持ち帰った。

こんなものを拾って、どうしたらいいかわからなかったから、、、とりあえず大量に魚を食べた。おいしかった。


「・・・」

『消えたい』って、一体何があったんだろ?

よっぽどつらいことがあったのかな?


それとも・・・また、イタズラ?



・・・ダメダメダメ!

本気で悩んでたらどうするの!

私だって、嫌なこととかいっぱいあるよ。

でも…でも、いなくなってしまったら、嬉しいことも楽しいことも全部おしまいだから・・・!


「っ手紙書こう!」

これ書いた人に、ちゃんと届いて読んでもらえるかわからない。

それに、私なんかの言葉がその人の心に響くかもわからない。

でも、何もしないよりマシだ!!



・・・とは言ったものの、何書こう?汗


パターン① 『消えたらダメだよ!』

って、ストレート過ぎる?

捉え方によっては、逆に責められているような気もするし…


パターン② 『はじめまして。手紙読みました。いいですか?人生とは・・・』

って、うっとうしいな私。何様だよ。


「う~ん・・・」

こういう手紙だから、相手の顔も性格も、名前もわからない。

そんな相手に、どういう目線で書けばいい?

一番伝えたいことは…?


パターン③ 『お元気ですか?』

…元気なわけないでしょ。消えたいんだから。


パターン④ 『あなた誰ですか?』

いや向こうからしたらお前が誰だよって感じだよね!汗

っていうか、もう何の励ましにもなってないじゃん!!


「・・・(-_-;)」


********************************************

 

ザザァーーー・・・


「・・・朝に、なってるじゃん・・・」

朝日は反対側から昇るから、この時間の秘密の浜辺は薄暗い。

寝ないで夜中ずっと手紙の内容を考えていた。

手紙のパターンは94まで考えたけど、しっくりきたのはこのたった一言。


私が拾った時と同じように、返事を書いた紙を丸めて例のボトルの中に入れる。

「よし、これでいいね」

ボトルのふたをしっかり閉めて、このボトルがちゃんと手紙の主に届くよう祈りを込めて、

いつもの夕日の方向、

日が沈む西の海へ、ボトルを手放した。

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