第26話 呪術師との語らい


「ここは何処だ?」


 シオンが気がつくと見たこともない所にいた。


「しばらく会わないうちに、身体能力が上がりましたね」


 卑弥呼の声でこれが現実で無いと知る。

 それにしても、相変わらず無機質な空間だ。


「あなたの能力が上がるほど私と話ができると伝えたはずですが・・・」


 そう言えば、そのように言われた事があったような気がするが、シオンはあまり気にしていなかった。

 何にせよ、自己能力を高める事が大切なのだと理解はしていたが、その方法自体は思いつかなかったので、師匠との体術訓練に明け暮れていたのだ。


「式神の能力も上がっているので、そちらも今まで同様に頑張ってくださいね。それと、幻術の使い方は見事でした。幻術で自分の意思を伝えるなど、今までに無い試みです。これからも精進してくださいね。強いて言えば、占い系が弱いようですので、そちらも鍛えるように配慮してください」


 誰にも公表していないが、鳥を形どった式神は絶えずアチコチに飛ばしている。

 情報収集にはこれほど役に立つ術はない。

 つかい続けた事でスキルアップしたらしい。


「占い系を鍛えるとどうなるのですか?」


「能力にもよりますが、予知関係が鍛えられます。そうなれば、いろんな対策ができるのですよ。それ以外にも式神には最終的に人格を持たせられるし、能力の伸ばし方によっては、天候を操ることもできるようになりますから、色んな方面を満遍なく伸ばしてください。一点特化もメリットがあるのですが、あなたの場合は全面的な方がいいと思うのです」


「そう言われても、周りに占いを教えてくれる者も居ないしどうすれば占い出来るのかわからないんだ。何かいい方法はあるのかな」


「こうした時のために、神社に封印してあるものを訪ねなさい」


「それが・・・出てこなくなった」


 シオンは、自分の行ったこれまでの数々の不敬行為で自称神が出てこないのだろうと思っている。


「そうなのですか・・・・それでは、基本であるフトマニから始めてみてください。それが何かのきっかけになるでしょう。その後に占星術を覚え、宇宙のあり方を学ぶのです。あなたの今いる世界はその影響を受けるのですから当然ですし、それがどんな影響をもたらすのか理解を深めるといいのです」


「そうですか・・・トホホ」


 シオンは座学が好きじゃない上に誰からも学べず、手探りで学ぶ事になったのだからへこむのも当然だ。

 卑弥呼様から知識は与えられたが、修行方法やその理論や理屈は全くわからないのだ。


「そろそろ時間が来たようなのでお別れです。また、時が満ちれば会えると思いますが、それまでに自己の能力を上げて私に会うのかベストなのですよ。頑張ってくださいね」


 そう言い残してウインクしながら消えていった卑弥呼さま。

 その本質は意外にお茶目なのかもしれない。

 そして、シオンの意識は遠のいていった。




「ハッ」として「ガバッ」とシオンが起きるといつもの寝具の上だった。

 横ではまだ師匠が幸せそうに寝ている。

 これでも何かあればすぐに目を覚まして戦闘態勢をとるのだから、油断はしていないのだろう。

 師匠の口元からヨダレが垂れているのは見て見ぬ振りをするしかない。





 朝といっても、まだ辺りは薄暗く早朝鍛錬には早い時間のようだ。

 シオンは先程夢で会った卑弥呼さまの事をハッキリと覚えている。

 あれは夢というよりも、あの空間に呼ばれた感じがした。


(フトマニから始めなさいか・・・どうやるんだっけ)


 シオンが自分の心の底に問いかけると、何となく何かをを火で炙りできたヒビによって事の是非を問うもののようだと感じた。

 そうなれば、シオンの記憶では亀甲占いだ。

 かなり前の事だが領地で収穫祭の時に見た覚えがある。

 だが、只の亀裂であるヒビに良し悪しがあるのだろうか?

 こればかりはやってみなければわからない。


(亀って沢山いるのかなぁ。食べられるとは思うけど、美味しいの?甲羅を得るだけの為に捕まえるのはあまり乗り気にならないし・・・でも、食べ応えのあるウミガメのことじゃ絶対ないと思う)


 小川に行って草薮を掻き分け、流れの緩やかな所を見ると・・・居た。

 それも沢山、陸に上がって集まり甲羅干ししている・・・う〜ん、キモい。

 亀好きには応えられない様子だろうが、シオンは生まれながらにして亀やヘビなどの爬虫類が苦手だった。

 あの意思のわからない目が嫌なのである。

 あの感じならワナを仕掛ければ大量に獲れると思うが、気が乗らない。



「何?亀を捕まえる?」


 師匠に亀甲占いしてみたいと相談したら俄然乗り気だった。

 昔はこの里でよく食べていたらしく美味しいらしい。


「亀を捕まえたら糞出しをしないと臭くて堪らん。だが、ちゃんと下処理した亀肉は美味いぞー」


 師匠は、何か思い出したようで、ヨダレをジュルッて飲み込んだ。


「小川に行ったら沢山いるんですよ。種類は知りませんけど、食べられるのですね」


「ああ、この辺にいる奴なら全部食用になる。捌くのが面倒な上に肉が少ないが、味は絶品だし捨てるところはないぞ。そう言えば、甲羅も削って粉にしてゼリーにして食ってたなぁ」


 師匠、アンタ野蛮だね。


「そうですか・・・。それを聞いても食欲は湧きませんが・・・」


「何を言っているんだ。ナイトはスッポンを食べた事があると言っていたろ。アレと同じだ。美味いぞ」


「よくそんな事を覚えてますね。あの時は嫌だったと言ったじゃないですか。確かに味は良かったけど、血まで飲まされたし・・・」


「それじゃあ、俺が食べさせてやろう。ついでに里に来ている連中にも御馳走するかなぁ」


「とにかく、甲羅だけください。あー、想像しただけで嫌だぁ」


「そう言えば亀の甲羅で占いをすると言ったなぁ。それってウミガメだぞ。だから亀甲占いをここでやるのは難しいな」


「えっ?違うの?」


 こうして、数日後に亀の宴が開催された。

 シオン以外には好評で、里の名物料理としての候補となる事が決まったらしい。

 シオンの目的は果たせなかったが、特産物が増えるのはいい事だ。

 師匠は里に貢献できて鼻高々である。


「そうだ。ナイトが占いに興味があるなら、アレをやってみるか?」


「師匠。アレじゃ何のことかわからないから流石にハイとは言いませんよ」


「かなり前だが、この里で豊穣の占いを神社でやっていたんだ。俺の記憶では、その時に神様に奉納した牡鹿を捌いて肩の骨を焼いて占ってたぞ」


「師匠!それだっ」


 師匠もたまには役に立つ!

 何処かのドラマのタイトルみたいな言葉が頭の中に浮かぶ。





 鹿なら里の周辺で簡単に捕まる。

 人が山に入る事で、里山となった周辺では、生活環境が整った為か鹿が増えやすい。

 そうなると鹿の食べ物が不足し、山に残してある大事な木の皮を剥いで食べたりするので駆除を兼ねて適切に狩る必要があるのだ。


 因みにイノシシも同様に駆除対象である。

 2人は山にククリ罠を仕掛け、翌日には鹿と猪を捕獲した。


 この罠は、空振りの多い原始的な仕掛けなのだが、シオンと師匠は狩人としても一流の技能を持つらしく、成果が無い方がおかしい程に腕が良い。

 それほど、獣の通り道と仕草の予測力が優れているのだろう。




「さて、師匠。神社に向かいましょうか?でも、流石に2匹もいると、運ぶだけでも疲れそうですね」


「そうだなぁ。ナイトがいつも作る簡易担架で運ぶにしても大変だから、一度里に向かおう」


「えっ、師匠。ここからなら神社の方が近いでしょ。通り過ぎて里まで運ぶのですか?」


「ナイトは知らないのか?元々の神社は里の向こうにある山の中腹だぞ。お参りが大変だから、分社を建てたのがその場所だ」


(そうか。あの自称神が居たのは分社だったのか・・・)














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