第13話 修行と成果と目指すもの
シオンが、ラタカナで受け取ったもの。
それは、シオンと同化してしまったらしく、シオン本人も何が変わったのかさえわからないのだが、シオンの深層心理部分は大幅に変化したに違いない。
シオン本人は、何か試すものはないのかと考えるのだが、何も思いつかないのだ。
だが、確かに膨大な知恵や技術を授かった気がする。
それに、スキルまで受けとっているらしく、大概なことは数度体験するだけで上手にできるようになっていた。
スキルを発現させるためには、シオンの経験値が必要らしい。
多分、この知識やスキルを譲渡する技もシオンの頭の中のどこかに存在しているのだろうが、今のシオンの状況では何ら知らないのと同じなのだ。
ただ、ラタカナに行って確実に変わったと思えるものもあった。
それまで不明だった里の祠の存在意義がわかるし、謎の文字も読めるようになったのだ。
そして数日かけて里の祠を復旧したおかげなのか、この里もラタカナで感じた神々しさに満ち溢れている。
里にある木々や温泉、流れる水までが神の祝福を受けたようだ。
これが里の本来の姿なのだろう。
シオンの生活も少し変わった。
毎朝の武術訓練に合わせて、舞の動きを取り入れることにしたし、寝る前に草で作った人形が動くように術をかける訓練を行うのだ。
訓練自体のやり方は分かるから、記憶にあるのだろう。
(えっ。これではダメなのっ?)
人形の訓練はまだ早かったらしい。
シオンは立体での訓練を断念し、平面訓練に替えた。
草を煮込んで叩き、繊維を取り出して細かくしたものを水に溶かし、細かにした竹を編んだ簾のようなもので漉いて作った紙が材料である。
紙漉きは、記憶上完全に覚えているので、紙に合う植物繊維を見つける苦労だけが大変だった。
そして出来上がった紙を切り抜き、人形にする。
念じるだけでは動かなかったので、人形にヲシテ文字を書き込んでみたのだが、それが上手くいったようだ。
だてに何体も里の祠を修復したわけではない。
石工としてのスキルに加え、文字の解読スキルも上達していた。
ちなみに、こんな使い方は、シオンのオリジナルらしい。
呪術として、文字を使うにあたり、御札の使い方はあったのだが、シオンのように魔法陣を展開する発想はご先祖様たちになかったのである。
そもそも呪術は、激しい攻撃に乏しいものだから、この発想は大発見なのだが、この世界でそれを使えるのはシオン唯一人。
誰も評価しないし、褒めてもくれない。
それどころか、シオン本人もその有効性を理解していなかった。
(以外に魔法との相性がいいな。魔術の基本を教えてもらっていてよかった)
と、人形の紙が動いたのに喜んでいる。
全く、呑気なものである。
(さて、何体動かせるのかな?っと)
シオンが試すと、3体がやっとだ。
4体目も動くが、制御できていない。
普通、式神使いはここまで動かすのにも何年もかかる。
魔法陣の支援があるとはいえ、それをシオンは数時間でやってのけたのだが、誰もその凄さを知らない。
卑弥呼がシオンに渡した能力は、それほど計り知れないものだった。
シオンに足りないのは経験だけなのである。
数日後には、人形から鳥形になり、空を飛ばせるまでになった。
その数日後には、鳥の目線で空から物を見ることができるまでになる。
そして今のシオンは、式神使いの上位術である、実体化の訓練に明け暮れていた。
(いやあ。楽しい。この場に居ながら式神で空を飛べるし、遠くの音も聞ける。後は、制御距離を伸ばす訓練と実体化だな。流石に紙が動いていると目を引くし)
いろんな形に切り抜いた紙を携帯していることで、シオンは沢山の斥候を持ったことになる。
攻撃力はないが、これは狩りをする時にかなり便利だった。
今までのように獲物を求めて、山の中をウロウロとさまようこともないのである。
それに、体術や武術もかなり上達していたのだが、相手の存在しないシオンにはわからなかった。
今は、式神に火魔法の魔法陣を書き込んでいる。
「ボッ」と一瞬燃えるくらいの攻撃力でしか無いが、将来、起爆札の知識を応用すれば、爆裂魔法の威力ぐらいは期待できるのだ。
それから数日後には、シオンは10体の私設軍隊を持っていた。
シオンの命令があれば、その遂行のために自由意思で動く式神だ。
実体化も上手くいっている。
欠点といえば、制御範囲がシオンを中心に数十メートルであることと攻撃力に欠けること、それに雨などの水に弱いことである。
それでも狩りでシオンの元へ獲物を追い立てる役には立っている。
このお陰で、シオンが今まで、苦労して罠を駆使していたのが嘘のように肉にありつけた。
食材が増えればその分、食生活も豊かになるし、調理スキルも上がるのだ。
相変わらず人との接触はないのだが、シオンの生活は安定し、余った時間で呪術訓練と魔術との融合技の開発に余念がない。
楽しい呪術訓練に明け暮れていると、一定レベルに達したのか、封印術が何となく分かるようになった。
それは初めに霊が見えるようになったことから始まった。
自称神とのように、相互が繋がって見えるのとは違い、単純に景色のように見えるだけである。
見える霊は、それが人とは限らないし、世間で言われるように、悪意を持って攻撃してくるわけでもなく、単にフワフワ浮かんでさまよっているだけだ。
里自体が、祠で、守られているのだから、悪意のある霊などは弾かれているのだろう。
そこでシオンが学んだのが、除霊と浄化である。
霊をあるべき場所へと誘ったり、穢れを祓う術なのだ。
これは、言霊や御札を使うか、神降ろしによる技が大半を占める。
無害な霊が、何らかの影響で悪霊や妖怪いになることもあるらしいので重要な技なのかもしれない。
この除霊や浄化の上位に位置するのが封印術である。
除霊や浄化が出来ない場合に使用する技だ。
封印術の基本は、生命の根源に関わる秘術らしいのだが、今のシオンには関係なかった。
なぜなら単純に相手の魂を無理やり取り出して、物の中に押し込める技術なのであるから。
おそらく、あの自称神も封印術を使ったものだろう。
神として意思を示せるのだから、神社の周りに配置した岩のように、大掛かりとなるのも頷ける。
シオンはある日、鳥形の式神に命令を書き込み空へ放った。
それは、空中で小鳥へと姿を変え、遥かにそびえる山の向こうへと飛んでいく。
シオンの脳裏に映る懐かしい景色。
心配していた領地は、無事である。
領民の会話からも、虐げられている様子はない。
シオンは、式神を使い、暫く懐かしい領地内を調べて回った。
どうやら、スズタカは新たに領主を定めたらしい。
それは、遠い血縁であるスズタカの親族のようだ。
何らかの事情で優遇をしなければならなかったらしいが、スズタカにとってこの辺境地はそこまで魅力的ではなかったのだろう。
あれ程の虐殺をしておきながら勝手なものである。
この新領主は、スズタカの親族とは思えないほど好人物だった。
領民を気遣うあたりは、シオンの父に重なるようだ。
以外に領民の受けも良かった。
そして、この新領主は、シオンの家族と家臣のために新たに立派な墓を立て、シオンに変わって供養してくれていた。
領民たちも毎日のように墓参りに来てくれているようだ。
そこの墓の入口には、あの虐殺のことが石碑に刻まれ、あるべきことか新領主名でその謝罪すら彫り込まれていたのである。
これを知ったシオンの中では、この領地を取り戻す戦いはしないことに決めた。
昔のように幸せに暮らす領民に、また、あの忌まわしい出来事を経験させたくないし、スズタカとシオンの争いに巻き込みたくなかったのである。
シオンは、力をつけたら、王都にいるスズタカにキッチリとケリを付けることを墓前報告した。
もちろん、式神による代理墓参りである。
領地と違い、王都には何の遠慮もいらないだろう。
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