シオン 時を超えた呪術師

小碓命

第1話 剣と魔術の世界


 剣と魔術の世界。

 僕は王国の端ではあるが、領主の長男シオンとして生まれた。

 これは僕にとって、とてもラッキーな事だった。

 辺境の地とはいえ、領主の子どもであればそれなりに教育が与えられるからだ。


 国の中では貧乏な領主であるが、ほぼ自給自足が基本であり、領民のほとんどが物々交換と相互扶助での生活をしている。

 だから生活するのにお金はほとんど必要無いのである。




 僕の住んでいるところが他の領地と違うのは、領民の気質として脈々と受け継がれてきているのが、生活する上で自分ができることを行なって持つべき者が持たない者を助けているという事だ。

 僕のいる領地は、ある意味社会主義国に近いのである。

 規模は違うが、出来立ての集落のように共同生活をしているような感じがするのだ。


 だから極論としてだが、腹が減れば街の食堂で金がなくても食べさせてくれるのだ。

 これは、領民の数が少ないためにみんながほとんど顔見知りで、一つの家族みたいなものだから出来る事なのかもしれない。

 昔からこの領地では、税は街や村ごとに物納してくるので領地でまとめて商人に売り換金している。

 そのお金が公共的に使われていくのである。




 この地の領民の中で公的な仕事をしている者も、それだけでは食べていけないので、なんらかの形で第一次産業に関わっているのが普通だ。

 実際に、領主である父母も農作業に従事しているので、僕でさえも、たまに畑仕事などの手伝いをさせられているのだ。


 だからなのか、領主の倅であるにもかかわらず農業の大変さと収穫の喜びも知っているのだ。

 父によると、平和な領地であれば領主の仕事は片手間で出来るらしい。




 農作業の手伝いだけてはなく、時々は領主の仕事として護衛たちや父とともに領内を見回るのだが、どこに行っても僕を領民が歓迎してくれる。


 その僕が5歳になってからは、護衛たちと馬に乗り、領内を父に代わって見回る事も多くなった。


「おやっ。シオン坊っちゃん。ちょっと待って」


 領民に気づかれると、僕が仮に馬に乗って通り過ぎようとしていたところだとしても、無理やりにでも呼び止められる事も多い。

 僕としては、父の代理として領地内の見回りをしているだけなのだが。

 それは単なる巡回なのに、領民が沢山の野菜や果物をくれるので、帰りは荷物が多くなり大変だ。

 自分たちの暮らしも貧しく、贅沢ができていないのに、本当に気のいい領民たちである。




 だが、いくら顔を知っていても領民が節度を持っているので、僕が同じくらいの歳の子と遊ぶことはなかった。

 子どもは遠慮がないので、将来の領主に対して失礼のないようにしていたらしい。

 このことを心配した両親は、家臣の子ども中で、僕と歳が近い者たちが遊べるように配慮してくれた。

 中でも騎士団長の息子コオタと魔術師長の娘ヒスイとはよく遊んだものだ。




 若干、父の代わりができるようになったそんな頃、僕は父に王都へ連れていかれた。

 馬に乗っているのだが、子ども連れの旅なので時間もかかり、何日もかけて王都へ着いた。

 初めての長旅であるし、僕にとっては旅の途中も王都へ着いてからも驚く事ばかりである。


そう、僕は気がついたのだ。

同じ国内で暮らしていても、その場所により住居の作りや作法が違うだけでなく、食べ物や人の暮らしぶりも違う。


良いか悪いかは別として途中の町や村もそれぞれに個性的なところがあるのだと。

そして王都で何より驚いたのは人の多さだった。

王都では、全てが貨幣を対価にしている事も初めて知った。


「父上。王都は領地と全く違います。世の中にはこんな世界もあるのですね」


「いや。これが普通なのだよ。家の領地が変わっているだけだ」


「でも僕は家の方が好きだなぁ。領地と違ってここの食べ物は味付けが塩だけで、オマケに旨味が全くない。ここの人達はダシとか知らないのかな?食べるものが美味しくないとそれだけで嫌になる」


「そうか。そうだな。味については慣れの部分もある。王都には物や人が集まるのでいろんな物が溢れているのだが、食べ物の味付けに関しては全くダメだと思う。それに人の質も低い。ここはみんながヨソヨソしいからな。自分が優れているわけでもないのに何を勘違いしているのか地方を馬鹿にする愚かな者が沢山いる場所だ。それでもこの国の中心だからな。無視するわけにもいかん」


「そうですね。それなら僕は領地に引きこもります」


「ハッハッハッ。そうきたか?確かに引きこもれればいいのだがな。なかなかそうもいかないのだ。お前が領主になれば俺はゆっくりできるから早めに家督を譲ろうか?」


「それは勘弁してください。それなら僕は王都の事が好きになるよう努力します」


「そうか。それなら仕方ないな。でも後数年経てばわからないぞ」


「もう。今日の父上は意地悪ですね」




 王都へ着いた翌日、僕は父と共に国王へ謁見し次期領主として顔見せを行なった。

 他の領主も数人が同じように子連れで来ていたので、国にとって決まった行事らしい。

 初めて目にする国王は、この行事に慣れているのか、特に気にすることもなくことは終わった。


 『領主の跡継ぎが、国王への挨拶するため』との名目だが、実際は次の領主となる者へ国王の顔を覚えさせるための行事なのだと思う。

 謁見の終わった後は、時間があるし、せっかくなので父と王城内を観光した。

 離れた領地からはるばるやってきたので、こんな事でもない限り城の中へ入る事は難しいのである。


「父上。ここは城の中に闘技場があるのですね」


「ああ。普段は騎士の訓練場所として使われているはずだが、今日は模擬戦をしているみたいだな。武術大会が近いからかな?」


 ギャラリーとしての取り巻きに囲まれる中心部分。

 そこにちょうど見えるのは3人の騎士。

 2人が木剣と木盾を持っているので、今から手合わせが始まるのだろう。

 残った1人は審判のようだ。


「家の領地では見られない光景だ。よく見ておくといい」


 父に言われて一段高い観客席から模擬戦を眺める。

 模擬戦なので、木剣と木盾を使うらしい。

 戦いが始まると、木剣が激しくぶつかり合い、木剣なのに火花が散る。

 父が横から、お互いが木剣に魔術をかけて強化しているから火花が出るのだと説明してくれた。

 技術や技が拮抗しているのか、なかなか勝負が決まらない。


「凄い。凄いですよ、父上」


 訓練と思えない激しい打ち合い。

 魔術なのか、時折空中が光輝き爆音が響く。

 なかなか決着のつかない激しい戦い。

 それを離れたところから見ているシオンの血が騒ぎ、精神的に高揚する。


「父上。いつか僕もあのように戦うことができるでしょうか?」


「そうだなぁ。シオンの剣の才能はわからないが、少なくとも魔術は使えると思うぞ。シオンが生まれた時に魔力鑑定をしてもらったので、魔力があることがわかっているからな」


 王専属の鑑定師に領主名で頼めば、有償ではあるが魔力の鑑定をしてくれる。

 父がシオンの生まれた時、国王へ跡取息子のお披露目と合わせてついでに鑑定を頼んだらしい。


「家の騎士団長と魔術師長は、王都の大会優勝経験者だからな。帰ったらシオンの事も頼んでみよう」


 こうして、僕に机上学習以外の勉強が増えた。

 領主としての帝王学に武術と魔術が加わったのだ。

 それで、それまで遊び相手と認識していた家臣の子供2人が、シオンの対人訓練のために共に学んでいる。




 


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