第5話 魔法少女はお洒落をする。
女性物の服が多く並んだ店に隆とアリスは入る。
「ほぉ・・・服がいっぱい並んでいるな」
アリスは物珍しそうに服を見ている。
「あぁ、好きなのを選んでよ」
「ふむ・・・しかし、不思議な店だな。サイズ別に同じ服が並んでいるぞ」
「そりゃそうだろ」
「これは・・・全て新品なのか?」
アリスは不思議そうに隆に尋ねる。
「あぁ・・・幾ら節約したいと言ってもさすがに古着屋には連れて来ないよ」
「古着屋・・・つまり・・・ここに並んでいる服の全てが新品なのか?」
「そうだけど・・・何か?」
隆はアリスの質問の意味が解らずに居た。
「いや・・・私の世界では基本的に服は新品となれば、その度に作って貰う物であり、こうして売られるのは古着なのだが・・・まさか、新品をこうして売ってるなんて・・・凄いな」
「そうなんだ。今は大抵の服はこうして、店で買うんだ。むしろ、オーダーメイドは高級品だよ」
「なるほど・・・理解した。この世界の恰好に関してはテレビや街中を歩く婦女子を見て、理解はしたつもりだが・・・露出の多い服ばかりだな」
アリスは服を眺めながら、考えている。
「あのー。彼女さん、何かお探しですか?」
そこに店員が近付いてきた。
「あぁ、この子、外国から来たばかりで、イマイチ、日本のファッションが解らないんです」
隆がそう答えると、店員の表情が明るくなる。
「そうですかぁ?だったら、私がお手伝いしましょうか?彼女さん、すっごくカワイイし。絶対、こっちの服とか似合いますって」
ノリノリの店員を見て、隆はどうせ、自分ではアドバイスが出来ないと思い、いっそ、任せてしまった方が良いかと思った。
「あの、5、6着ぐらい、見繕って貰いますか?」
隆に言われて、店員は調子よく、服を物色し始めた。
それから1時間程度、アリスはまるで着せ替え人形のように色々と試着をさせられていた。その度事に隆は感想を求められるが、確かに美少女であるアリスにはどれも似合っているが、それを口に出すのがとても恥ずかしかった。
来た時に来ていた黒衣を紙袋に詰めて貰い、今風の中高生っぽい恰好になったアリスは何処か垢抜けたようになっていた。
大量の紙袋を両手にぶら下げた隆はその隣を歩く。
「ふむ。露出が多くて恥ずかしいかと思ったが、慣れるとなかなか良いものだな」
「そうかい。まぁ、これで、暫くは服には困らなくなったわけだな」
「あぁ、しかし・・・今風の恰好になったのに・・・余計に人の目が気になるのだが?」
アリスに言われて、隆は周囲を見た。確かに通り過ぎる人々はアリスをチラチラと見ている感じだ。そう思って、改めて、アリスを見たが、やはり金髪碧眼の美少女はそれだけで存在感が高い事に気付いた。
「まぁ・・・仕方がないんじゃない」
隆は諦めたように答える。それにアリスは不満そうだった。
家に戻り、アリスの為に部屋を用意する事にした。
「アリス。ここは妹の部屋だけど、今は両親と一緒に海外に行っているから、使っていいよ」
隆は妹の部屋をアリスに使わせる事にした。まだ、中学生1年生の妹は両親と一緒にイギリスへと行っている。衣服などは無いが、家具の大半は残っているので、机やベッドなどはそのまま、使える。
「ふむ。狭いが機能的で良さそうだな。使わせて貰おう」
アリスは部屋を気に入った様子で、買ってきた衣服をタンスに納め始めた。
その間に隆は夕飯の準備を始める。帰る途中でアリスにスーパーマーケットを教える為に寄ったので、夕飯の準備を買っておいたのだ。
ジャガイモの皮を取り、大き目に切り分ける。人参、玉ねぎを切り、豚肉を炒める。それを鍋に移して、グツグツと煮る。
その間にアリスが食堂へとやって来た。
「んっ?スープか?」
「いや、カレーだよ」
「カレー?」
どうやら、アリスはカレーが解らないらしいと隆は察する。
「カレーという料理だよ」
「ほぉ・・・それはどんな料理だ?」
「肉と野菜をカレー用のルーで煮込む料理だよ」
「へぇ・・・よく分からんな」
「まぁ、楽しみにしていてよ」
そう言われて、料理が完成するまで、アリスはテレビを見始める。どうやら、アリスはテレビをかなり気に入った様子だった。
カレーが出来て、ご飯を更に盛り、ルーを掛けた。
「良い匂いだ」
アリスはスプーンを手に、カレーの匂いを嗅いでいる。
「サラダも用意したから」
「ふむ・・・サラダは私の世界とあまり変わらないな」
「トマトとか解るのの?」
「トマト・・・いや、その単語はよく分からない」
「この赤いのがトマト」
「ほぉ・・・」
アリスはトマトの輪切りをフォークで刺して、口に運ぶ。
「甘いな。フルーツみたいだ」
「アリスの世界の野菜は甘くないの?」
「甘いのもあるが、大抵は酸っぱいか苦いもんだ」
「へぇ・・・野菜を作るのも魔法を使うの?」
「ははは。そんな事に魔法は使わないよ。農民の多くは大した魔法を使えないからな」
「魔法を使える人は偉いの?」
「あぁ、そうだ。私の世界は魔法が全てだ。家を建てるのも土木をするにも魔法が無ければ、不可能だろう。人の力など弱いもんだ」
それを聞いた時、隆は何となく理解した。
「じゃあ・・・アリスの世界は魔法である程度、色々な事をやっちゃうんだね?」
「そうだ。火を点けるのも水を出すのも魔法だ。魔法が無ければ、何も出来ないに等しいよ」
「それで科学とか発展しなかったんだね」
隆に言われて、アリスは考える。
「そうか・・・なるほど、言われてみればそうかもしれないな。とにかく魔法をどうするかばかり考えていたからな」
魔法と言う便利な力のせいで、科学技術への興味が失われてしまったのが、アリスの世界のようだ。その為、いつまでも中世の頃の生活で停滞しているのだ。
「そうか。この世界は魔法が無いから、こうした便利な機械などが生まれたのか。興味深いな。それが解れば、すぐに自分の世界に戻り、一から研究したところだが」
「やっぱり魔法は使えそうにないの?」
隆に尋ねられて、アリスは左手を見る。その時、微かに青白い炎が手に浮かぶ。
「おっ!使える。使えるぞ。魔法だ」
アリスが喜んだ瞬間、青白い炎が消える。
「ふむっ・・・なるほど・・・」
アリスは納得したように考え込む。
「あの・・・魔法が使えたの?」
隆の問い掛けにアリスは頷く。
「うむ。僅かながらもこの世界でも魔力が蓄えられるようだ」
「じゃあ・・・時間は掛かっても、いつかはまた、自分の世界に戻れる?」
その問い掛けにアリスは苦笑いを浮かべる。
「そうだな・・・この調子だと・・・千年ぐらい経てば・・・もしかして」
「千年・・・でも不老不死なんだよね?」
「不老不死は・・・魔法でな・・・」
「つまり?」
アリスは乾いた笑いを浮かべる。
「さすがに不老不死の魔法を発動が出来る程、魔力は無い」
「じゃあ・・・不老不死じゃないと?」
「そうだな。多分、普通に老いていくのだと思う」
「じゃあ・・・使える魔法って・・・」
「火を点けるか。風を起こすか。水を出すか。氷を作るか。ちょっとした魔法ぐらいだろうな。この世界じゃ・・・あまり役に立つように思えない力ばかりだ」
アリスの答えに隆も苦笑いを浮かべつつ、カレーをスプーンで掬うだけだった。
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