第4話 魔法少女は買い物に出かける。
隆が夕飯の準備をしている時、その匂いに釣られて、アリスが目を覚ます。
「うんにゃ・・・晩飯か?」
アリスが起きて来たのを見た隆は「そうだよ」と返事をする。
「良い匂いがするな。何を焼いている?」
「アジの干物さ」
「アジ・・・とは?」
「魚だよ」
「魚か・・・やはり、固有名詞はまったく解らないな」
「固有名詞?」
「あぁ、肉や魚と言ったありきたりな言葉なら、何もしなくても理解が出来る。しかし、アジや警察官みたいなこの世界特有の固有名詞は私の頭では変換されずに意味が解らないのだよ」
隆は出来た料理を食卓に並べながら、不思議そうに聞いていた。
「じゃあ、牛や豚も解らないの?」
「そうだな。正直、それが何か解らない。イメージが出来ない」
「そうか。元々、まったく違う言葉を使っていたって事?」
「そうだ。こうして、お前と会話が出来ているのも不思議なんだ」
「へぇ・・・おもしろいね」
「そうだな。とても不思議な事だ。言語が変換されているのか。それとも私の頭の中で、何かしらの変化が生じたのか。それも世界の壁を越えた事による現象だろうな」
「ふーん・・・正直に言うと、その辺は僕は半信半疑なんだけど」
「何故だ?」
「いや・・・世界の壁って言うけど・・・まるでSFかファンタジー小説みたいな話だから」
「SFとかファンタジーとかが解らないが・・・小説みたいと言う事はまるで、空想した事のようだと?」
「あぁ、はっきり言えば、この世界でもさすがに異世界へ移動する事は出来ないからね」
「やはり・・・そうか・・・魔法が無い時点で何とかなく思ってはいたが・・・」
「君はやっぱり・・・異世界から来たんだよね?戻る方法ってあるの?」
「魔法が無いから無理だ。丸1日が経ったが、まだ、魔力が回復した感じは無い。多分、この世界に元になる力が無いんだな」
「じゃあ、本当に魔法は使えないの?」
「そうだな。仕方が無いから、この世界でやっていけるだけの知識を勉強しようかと思っている」
「そ・・・そう・・・」
隆は不意に思った。ひょっとして、このまま、ずっとここに居座られるんじゃないかと。
「まぁ、言葉は幸いにして解るわけだから、足りないのは単語と文字の読み書きだろう。それさえマスターすれば、生きていく事ぐらい、容易いものよ」
「そ、そうなの?」
「あぁ、伊達に千年の時を生きてはいないぞ。仕事など、どうにでもなる」
アリスは余裕の笑みを浮かべる。
「まぁ、それでも時間は掛かる。悪いが、それまで厄介になるぞ。それまでの費用として、これを出す」
アリスは金貨を2枚、差し出した。
「あぁ・・・解ったよ。あんまり無理をしないでね」
隆はまたしても優しい言葉を掛けてしまったと思った。
翌日は土曜日で学校が休みだったためにアリスを連れて、買い物に出掛けた。
必要な物はアリスの服と下着である。さすがにこの独特な感じの黒衣だけではまずいなと思ったからである。
そもそも、下着の概念が無いのが面倒だ。その辺をちゃんと教えてやらないといけないが、男の隆にそれをしっかりと説明が出来る自信はまったく無かった。そこで、最初に向かったのが百貨店の下着売り場だ。その辺のショッピングセンターにしなかったのは、百貨店の店員なら、しっかりとアリスに下着の必要性を説明して貰えると思ったからだ。
売り場に到着して、恥ずかしながら、女性店員に声を掛ける。そして、アリスが外国人で、下着を着けない文化の人だと説明して、改めて、下着の必要性を教えた上で、似合う下着をそれなりの数、見繕って欲しいと伝えた。
最初、女性店員は怪訝そうな表情をしたが、アリスを見て、すぐにやる気を出してくれたようだ。30分に及ぶレクチャー後、二人で色々と下着を見て回っていた。その間に僕は百貨店の中に入っている貴金属を買い取る業者の所に行く。それは狭い一角にあった。中には小洒落た感じの背広姿の男が居て、僕はアリスから預かった金貨を彼に見せる。
「はぁ・・・見た事の無い金貨ですね」
「でしょうね」
彼は金貨をマジマジと見たり、秤で重さを見たりしている。
「あの・・・正直に言えば、すぐに買い取るのは難しいです」
そう言われて、隆は驚く。
「あぁ、買い取らないという事では無く。これが本物の金かどうか。または混ぜ物がどれだけあるか。その辺がはっきりしないので、今、買い取るのは難しいです。もし、買い取るとすれば、一度、溶かして、金だけを取り出さないと・・・」
「はぁ・・・面倒ですね」
「そうですけど、あくまでも感想としてはかなりの金の含有率だと思うんで、多分、それでも1枚、10万円ぐらいなりますよ」
「本当ですか?」
「多分ですけど」
「じゃあ、半額で良いので、3枚程度、買い取って貰えませんか?」
「5万円ですか・・・んー。解りました。いいですよ」
何とか換金をして、アリスの生活必需品の資金を獲得した。
しかしながら、アリスが持ってきた別世界での資金にするはずだった金貨は思ったよりも金にならないのだけど、あれで彼女はこの世界で生きていけると思っていたのか。それとも彼女の世界では金貨は凄い価値があったのだろうか。その辺は帰ってから聞く事にしようと隆は思った。
隆が戻った頃にはすでに下着選びは終わっていた。やはり、百貨店にある専門店だけあり、10セットも買うとかなりの金額になっていた。だが、資金には十分な余力があったので、隆はそれらの支払いを済ませる。その様子をアリスはマジマジと見ていた。
「なるほど、それがこの世界の通貨か?」
アリスに言われて、お釣りを財布に入れる隆は頷く。
「アリスの世界の通貨は?」
「主に銅貨、銀貨だ。金貨は特別に高く、普段は使わないな」
「やっぱり金貨は特別に高いんだ。僕に渡したあの金貨だと何が買えるの?」
「1枚で家が建つ」
「なるほど・・・」
やはり貨幣価値がまったく違っていたと感じた。
「残念だけど、こっちの世界では家は建たないよ。良いところ、そこそこのホテルに三日ぐらい泊まれる程度かな」
「なんだと?」
アリスは驚く。
「驚くのも無理ないけど、金貨一枚程度の金の重さだと相場がそうなってるんだ」
「で、では・・・私が持ってきた金貨を全て換金しても・・・たいした金にならないと」
「まぁ・・・1カ月か2カ月ぐらいホテル暮らしして尽きるね」
「そ、そうか・・・異世界ならば、価値観が違うのも仕方が無い」
アリスはあまりの事に相当に驚いた様子だ。そもそも換金だってどうやるか解らないのだから、1人でこの世界に放り出されなくてよかったなと隆は思った。
ふと、隆は思った。
「そう言えば・・・アリスは今・・・その・・・下着を着けているんだよね?」
「あぁ、さっきの店員に丁寧に教えて貰った。まさか、こちらの世界ではこのような衣服があるとはな。確かに装着しているととても安心する感じがある」
「そ、そう・・・まぁ、こっちでは常識だからね。それと下着姿で人前をウロウロしちゃダメだからね。衣服には違いないけど、衣服の下に身に着けるから下着なんだから」
「解っている。それもちゃんと店員に教わった。心配するな。幾ら、知らなかったとしても、教われば、ちゃんと理解は出来る」
アリスは嬉しそうに隆の隣で歩いている。独特の黒衣もあるが、金髪碧眼の美少女ってだけで、実は百貨店の中では目立っているのだ。
「次は服を買うよ。それしか無いってのは困るから」
「そうか。それは嬉しいな。やはり、儀式用の衣装ってのは動きづらいしな」
「儀式用なんだ。魔法使いだから、いつもそんな服装かと」
「ははは。普段は普通の恰好だ。こう見えて、お洒落なんだぞ?」
アリスの言葉に、隆は少し安堵する。また、店員さんに頼まないといけないと思っていたからだ。
さすがに資金の問題があるので、服を買うのは比較的安価で販売をしているブランドへと向かった。
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