第13話

「ロン君…」

翌朝手早く朝食の用意をしていると厨房にある勝手口をノックする音がしたので扉を開けるとロン君がいたのだ。


「ユーコさん、おはようございます。」

とってもいい笑顔で立っているロン君だが、仕込みは昼過ぎからなのでいくらなんでも早すぎでは…

「ロン君、お昼後からでいいのよ?」

「楽しみすぎで目が覚めちゃったので気にしないでください、それに色々なことを教えてもらいたいので給仕だけでもいいので手伝わせてください!」


えぇ、何この頑張り屋さん。

「まぁ来ちゃったのに追い返すのもなんだから、手伝ってもらおうかしら。」

「ありがとうございます!」

普段は料理をしたことは無いそうだけれど、パンとチーズくらいなら自分でスライス出来るのでと言うのでとりあえずトースト用のパンを切り分けてもらう。

その間に鶏がらスープを取り出して葉物と卵のスープを作る。


「ロン君味見してみる?」

「いいんですか!?やったー!」

なんだかロン君見ていると子犬みたいで可愛いのよね。

「はい、どーぞ」

小皿にすくったスープを渡すと味わいながら飲んで、

「うーん、卵とケーンルの葉は分かるけどスープの素が何で出来てるかさっぱり分からないです。」

「ふふ、後でまた作るからその時に教えるわね。」

この世界には出汁の発想が無いのできっとびっくりするんだろうなとクスッと笑ってしまう。


「楽しみです!」

「それじゃ、お客さんに朝ごはんを出しましょうか。」

ぞろぞろと朝食の時間になり人が食堂に集まってきているので今日も1日頑張りましょう。


「それではユーコさん、ロンをよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそお言葉に甘えてロン君をお借りしますね。」

タスマニアさんは朝食の時にロン君が手伝っているのを見て上機嫌だった。

「ロン!しっかり学ぶのだぞ。」

「はい!」

「それではユーコさん、また近いうちに泊まりに来ますのでよろしくお願いします。」

「はい、お待ちしてますね。」

タスマニアさんは王都に帰りたくないとゴネたらしいけれども仕事なのでこれ以上はこちらにいる訳にも行かず泣く泣く今日出発とのことで用事が終わり次第またこちらに入り浸ると宣言して帰っていきました。


タスマニアさんの為にもロン君には早々に独立してもらわないとかしら…

とにかくロン君が料理人として向いているかどうかの問題もあるからやってみない事に始まらないわね。


咲百合もこの生活に慣れてきたのか、私が料理をする間はミチェさんと遊んでいるか私のそばで大人しく人形遊びやお絵描きをしているし、正直いい子過ぎるのも心配にはなるけれど生活を安定させることの方が今は大切なのでできる限り時間は作ってあげようと思っている。

まずは今日の買い出しだが、ロン君を連れて行ってそのうち代わりに買い物をしてもらったりする時間が空くと咲百合との時間に充てられるのでまずはそこからやっていこうと思うの。


幸い、タスマニアさんの商会で鍛えられていて、トーク力に人懐っこい性格、地元出身という事もあり知り合いであったりすることも多く早々に買い出しを1人でお願いすることも出来そうだったのはとっても幸先の良い事かもしれないわ。

マーサの八百屋でサツマイモに似た芋を見つけたので個人的に買って見たので後でオヤツにスィートポテトでも作りましょう。

最後にレガシィさんのお店に寄ってみる、頼んでおいたものがどれくらい出来たのかも気になるし、出来上がったなら次の道具も頼みたいのよね。幸い売上も良くて手持ち資金も増えてきたからやっぱり使い慣れた道具がどうしても欲しくなってしまっているし。


「こんにちは!レガシィさんユーコです。」

「おー今行くから待っててくれ!」

お店に入ると奥でガタガタ音がしていたので大きめの声で呼びかけたらスグに返事がきた。

ちなみにロン君は先に宿に戻っていていいと言ったんだけどせっかくなのでって付いてきてくれている。

「またせたな、例のヤツを見に来たのか?」

「ええ、頼んだものがどうなってるのかちょっと様子を見に来ちゃいました。」

私が応えるとレガシィさんはニカっと笑ってカウンターの下から泡立て器を取り出してきたの。

「ほれ、ためにしに使ってみて改良点が有ればまた言ってくれ。」

見た目は泡立て器そのもので、ちょっとワイヤーが太めである事以外は問題なさそう?と思って手に取ると、ちょっと重たかったの。

「レガシィさん、コレってもう少し軽く出来たりしませんか?」

使えないこともないけど長い時間使っているのは難しそうね。


「うーん、そしたらちょっと待っててくれ。」

そう言ってレガシィさんは泡立て器を持って店の外に出ていってしまった。

「ユーコさん、さっきのは一体何に使うんですか?」

横で見ていたロン君が気になって仕方がなかったようで聞いてきたけど、料理に包丁とまな板、鍋、フライパン位しか使わない世界ではあの形状のものは未知の存在ね。


「あれは料理に使うものよ、他にも色々作ってもらう予定だから出来上がり次第ロン君も使い方を覚えてもらうから待っていてね。」

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