其の拾陸
「ん~」
鼻歌交じりでクルクルと踊っているレシアを眺め、ミキは思考する。
サーリと名乗った女性……否、少女の言葉の真偽を。
ただ残念なことにレシアが『嘘は言ってません。本当ですよ~』と言い出したので事実なのだ。
「復讐だけなら楽だったのにな……どうしてこうなった?」
「ミキが色々と首を突っ込むからです~」
「そうだな。でももう少し違った意味での変化を期待していたんだがな」
出来たらグーズン兄弟の復讐の対象者である"ブジムバ"の関係者辺りが仕掛けて来ることを期待していた。だが掛かったのはそんなブジムバのことを見張っていたサーリだった。
彼女には敵の敵は味方……と言う発想はなく、自分の行動の邪魔になるからという理由でミキを襲った。ミキを選んだ訳は、『資金提供者だと思った』と、その部分だけは予定通りだっただけに腹立たしい。
「それでミキ。どうするんですか?」
「どうするって言われてもな……」
「助けてあげるんですよね?」
ベッドに駆け寄って来たレシアがミキの顔を覗き込みその目を見ようとして来る。
安易に楽をして答えを得ようとする馬鹿に彼は手刀を叩き込んだ。
「助けたいんだが厄介だな」
「ぶ~」
「本当に厄介だ」
頭を押さえて頬を膨らませる彼女を抱きしめて引き寄せる。
その類稀な運動神経で掴みに来た腕を払い彼の腹の上に座ったレシアは、相手の顔を覗き込んだ。
「助けてくれますか?」
「……助けないとは言ってないだろう?」
「はい。でも厄介って」
「その通りだから、それしか愚痴が出ないんだよ」
そう。ブジムバは確かにシャーマンらしき女性を狩り集めていた。ただしその送り先がアフリズムの王宮では無くて、海路を使い西のファーズンへと送られていたのだ。
ならブジムバの悪行を訴えれば一件落着……ともいかない。事実アフリズムの王都でもシャーマン集められ王宮送りにされているのだ。
「どうしてそんなにシャーマンを集めるんだ? 意味が分からんな」
「ミキが分からないなら私に分かる訳ないです」
何故か偉そうに胸を張るレシアにイラッとして、ミキは彼女の腹部に手を伸ばした。
「にゃっにゃにをっ!」
「肉だな」
「うふふ。この体勢なら負けないはずですっ!」
だがあっさりと返されて逆に組み敷かれたレシアは……そのまま次の日の朝を迎えた。
「ミキさん。どうかしたんですか?」
剣の方はからっきしなアムートは、素振りを止めて物思いにふけているミキに声を掛けた。
少し離れた場所では弟がレシアを相手に狂ったように練習用の木剣を振っている。
最初は『女性だから』と言って軽く剣を振っていたが、全くかすりもしない彼女の回避に次第と熱くなり不毛な戦いが続いているのだ。
本気で舞うレシアを捕まえられるのは"ミツ"ぐらいなので、ミキは意味もなく頷き視線を兄へと向け直した。
「俺の方の問題でな……悩んでいるだけだ」
「悩む?」
「ああ。どうしてシャーマンを集めるのかが全く分からない。西も南も何を考えてあれを欲しがる?」
「ミキ~。あとでギュ~ってしますからねっ!」
苦情は飛んで来るがそれだけだ。
余裕でカムートの攻撃を回避しているレシアは少し物足らなさそうだ。
「少しは当てろ。もしかすらなかったら素振り千回な」
「死ぬってっ!」
泣きながら必死に木剣を振るうカムートを眺めミキは思案する。
「確かに踊りや音楽には精通しているそうだ。腕の良い者なら俺たちには理解できないことをやらかす。だがその程度だ。必死に集めて飼い馴らすにしては悩む所だ」
「だったら殺しているんじゃ?」
「それも考えた。だがそれなら連れて行く理由が無い。楽しむならその場で済ませて殺せば良い。なのにどうして集める?」
「……」
年齢は自分よりも年下のはずだが、どこかミキの達観した言葉にアムートは眉を寄せる。
もう少し年相応の油断と言うか甘さを見せても良いと思うが、彼にはその手の隙は全く無い。
「やはり厄介だな。たぶんとんでもない薮を突いた気がする」
「薮ですか?」
「ああ。こっちには薮は無いな。なら砂漠でちょっと気になる小山を突いたら、そこからトカゲが這い出て来て襲ってきた感じだ」
「それは嫌ですね」
「そうだな」
だがミキとしてはその厄介をどうにかするしかない。
今朝方寝ぼけ眼で甘えて来たレシアとつい約束をしてしまったのだ。『助ける』と。
「今回のことが終わったら、やはり王都に殴り込むしかないな。そうと決まればお前たちの復讐を済ませて南に向かうとするか」
気合を入れて立ち上がったミキは、優雅に回避し続けるレシアと疲労困憊で倒れそうなカムートの元へと近寄る。
後ろの腰に差している十手を素早く抜くと、それを両手で構えてレシアと向き合う。
「何ですかミキ~。今の私は絶好調ですよ?」
「知ってる。だから俺の攻撃がかすらなかったら……今夜は少し面白い場所に連れて行ってやろう。何でもこの辺では中々お目にかかれない"踊り"を見せてくれるらしいぞ」
「本当ですかっ!」
より一層集中力を増したレシアが、つま先立ちして踊り出す。
「ああ。だから全部避け切ってみろ」
全力でミキはレシアに襲いかかった。
(C) 甲斐八雲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます