マクガフィン
白と黒のパーカー
第1話 冗談
赤や黄色に色づいていた葉っぱたちはすでに抜け落ちて、吐く息が白い。
寒い寒いと言いながら両の手をこすり、なけなしの摩擦熱を感じる。
マフラーに埋もれた頬は赤く、少し乾燥しているようでカサカサだ。
「ねえ、リコちって好きな人……いる?」
私はこの手の質問が嫌いだ。
好きな人なんて特別いないし、そもそも好きだという感情がどういったものなのかがわからない。
だからといってそれを正直に言ったところで誤魔化すなだの、ノリが悪いだのと批判されるのだ。
面倒なことこの上ない。自分にとっての正解がないのだから。
そんな風に思っていても別に友達と真向から喧嘩をしたいわけじゃないので、少し茶化したように「カノコ」って答える。私に好きな子を聞いてきた本人の名前だ。
答えて一拍ほど間があってから「え、マジ?」と少し焦ったような声が聞こえてくるので「冗談だよ」と笑う。
別に私はレズビアンではないし、まさか本気になんてしないだろうとは思いつつもしっかりと否定しておく。
「そ、そうだよね」
しっかりと否定したのにも関わらずなぜだかソワソワと下を向きながら返事をしてくるカノコに、不思議な気持ちを覚える。
何気なくついた嘘だった。ただめんどくさい質問にいつものように茶化して返しただけ。中学の頃の友人たちにも何度となく使い、そのたびに呆れられてきた私の常とう手段。
だからそこに一粒も本当の感情なんてなくて、その一言が誰かを少しだけ傷つけてしまうなんてこと、まったく想像できなかった。
翌日カノコが住んでいたマンションの屋上から飛び降りたと、担任から聞かされるまでは。
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