4.2.8 親善試合(オルガ)
――王都 宮殿 室内闘技場
――フランソワ王子陣営
場内が騒然とするなか、マチアスは拳を握りしめ、悔しそうに呟いた。
「ジェラルド、さぞ無念だろう……私が代わりに仕留めてやるからな」
その言葉を聞いたフランソワ王子は憮然とした表情でマチアスを見る。
「だめだ、君は出場させない。非公式とはいえ、両国王が観覧している御前試合だ。殺し合いなど相応しくない」
マチアスは不満そうな表情をして黙り込んだ――。
「ふう、ジェラルドの左目は治らないかもしれませんね……あら、どうしました?」
ミリアが血の付いた手を布で拭きながら場内から現れた。フランソワ王子とマチアスの間に流れる只ならぬ雰囲気に気づき、声を掛ける。
フランソワ王子はミリアに事情を説明する。
「そうでございますか……マチアスの気持ちは分かりますが、若様の仰る通りございますわ。さて、となると、次は私の出番ですわね」
ミリアはそう言うと革鎧を身に着け始めた。
――ザエラ陣営
オルガはキリルの治療をしているザエラに声を掛ける。
「ザエ兄、キリルの調子はどうだ?」
ザエラはキリルの腕を縫合しながら答えた。
「腕は問題なくつながりそうだ。しかし、何が起きたのだろうな?」
「突然、身体の自由を失い、倒れ込んだように見えたけど……まるであの時のザエ兄のようね」
「ヒュミリッツ峠でガルミット王国軍に夜襲したときのことだな。俺も同じことを考えていた。あの時の魔道具が設置されているのか……場内だけ有効ということは、指向性を強化した改良型なのかもな」
ザエラとオルガが話をしていると、キリルが意識を取り戻した。
「兄者、姉御……俺は負けたのか?」
「まだ、喋るな。引き分けだよ。胸の紋様が盾となり、相手の一撃を防いだのさ」
「……姉御に助けられたな。すまない」
オルガの説明を聞くとキリルは言葉少なく謝る。
二人のやり取りを聞きながら、胸の紋様が武具に変形するとき、オルガの魔術紋様が発光したことをザエラは思い出した。そして、キリルが動けない状況で発動できたのはオルガの魔力のおかげかもしれないと考えた。
しばらくして、フランソワ王子から伝令が届いた。ジレンの試合を中止し、オルガとザエラの二戦で終わりたいとのことだ。
「いよいよあたしの出番だな。対戦相手はどんな奴か楽しみだ」
残念そうにするジレンを横目に、オルガは嬉しそうに場内へと入る。
――第四試合 オルガ(人族・
「けっ、冗談じゃねーよ。こんなチビな小娘が相手かよ」
オルガは対戦相手を一目見るなり叫んだ。
「初対面の相手に失礼ですわ。こう見えてあなたと同じくらいの齢よ」
ミリアはむきになり言い返す。
「はいはい、とりあえずお家に帰りな。あんたにあたしの相手はつとまらねえよ」
オルガは面倒くさそうに手を振りながら帰るよう促した。
「そういう訳には参りません。ようやく黒騎士に出会えたのですから」
「……誰から聞いた?」
ミリアの言葉を聞くと、オルガは表情を変え、問いかける。
「さあ、誰からでしょうか? 忠告するなら、自軍内とはいえ、軽率な行動を慎むべきですわ……模擬戦での賭け事とか……ね」
「ちっ、あの時の模擬戦か。ジレンの野郎が賭けなんてしやがるからだ、全くもう」
オルガはエキドナ大佐との模擬戦を思い出し、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「私の試練に相応しい相手かどうか見極めさせていただくわ。“
ミリアは神威を唱えると光り輝く
「面白いじゃないか。相手になってやるぜ。“
オルガが大天使を睨みつけながら黒騎士へと変身した。
黒騎士は両腕の刃で大天使へ切りかかる。大天使は大盾で防ぎつつ、剣で応戦するが反応が追い付かない。オルガの無駄のない動きが的確に相手を追い詰めていく。
「ハァァ、タァ」
オルガは気合の声を出すと刃を槍のように連打し、相手の急所を狙う。
ミリアは大盾を前面に出し刃を防ぐ。そして、大盾から手を離すと同時に後方へと飛び上がり、大天使の羽で滞空する。
「……飛べるのかよ」
オルガは刃の連打で大盾を砕き、ミリアを見上げた。
「“
ミリアが戦技を唱えると幾つもの光の刃がオルガに降りかかる。
オルガは浮遊盾を展開して光の刃を防ぎながら、その場を動かない――相手を見上げたまま思案しているようだ――。
しばらくして、オルガは足元に黒槍を出現させるとミリア目掛けて蹴り上げた。軽やかな
「キャアァァ、お、落ちるっ」
黒槍が大天使の翼を直撃し、ミリアは地面へと落下した――。
「降参したらどうだ?」
オルガは右足を引きずりながら立ち上がるミリアに近づく。
「嫌ですわ。“
大天使の剣から光があふれ出し、オルガを包み込む――。
黒騎士の鎧兜は光が当たると音もなく崩れ、オルガの身体が露出した。
「あたしの神威が解けていく……どうしてだ?」
「隙あり」
ミリアは戸惑うオルガへ剣を突き立てる。
「なんてね」
オルガはミリアの剣を躱し腕を取ると、身体を捻らせて地面へと叩きつける。
「ぐはっ」
ミリアは背中から地面に落とされ、呻き声を上げる。間髪入れず、オルガが止めの拳を振り上げた。
「ま、参りしました」
止めの一撃が来る前に、ミリアは神威を解いて降参した――。
オルガはミリアに手を差し延べ、引き上げながら問いかける。
「なんで、私の神威が解けたんだ?」
ミリアは微笑みながら答える。
「貴女の神威は闇属性なので、聖魔法で浄化されてしまいますの。ですが、あの程度の魔法で浄化されるとはまだまだ未熟ですわ」
「小娘、負けたくせに偉そうだぞ」
オルガはミリアの頭を軽く叩いた。
「私の名前はミリア・フォン・アレンスタインです。以後、お見知りおきを」
ミリアは丁寧に頭を下げて挨拶した。
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