4.2.7 親善試合(キリル・イゴール)
――王都 宮殿 室内闘技場
――フランソワ王子陣営
フランソワ王子はハヤテに拍手をして迎えた。
「ご苦労様。神速騎士の名に恥じない瞬息の勝利、見事だ」
ハヤテは余裕の表情で答える。
「多重魔法には驚きましたが、
「そうか……まあ、そうだな」
フランソワ王子はハヤテの足に絡まる蜘蛛の糸を拾い指に巻きながら曖昧に答えた。
相手の控え席からイゴールが場内に現れる。
「さて次は水魔法を使う
「承知した。魔人ごとき、一刀両断してご覧にいれます」
丸坊主の男――ガリムが兜を手に立ち上がる。
「あはは、頼もしいね。ところでヨーク伯爵から渡された魔道具はどうした?」
「あのような玩具は不要でございます。ふははは」
兜を頭に押し込みながら豪快に笑い飛ばした。
――第二試合 イゴール(神巨人)vs ガリム(両手剣・剣聖)
ガリムは両手剣を構え、対戦相手のイゴールを睨みつける。
「おい、魔人ごときが俺様の前に立つな」
「……」
イゴールは、右手に盾を、左手に
ガリムはイゴールが表情を変えないのを見てさらに嘲る。
「言葉がわからないのか? ふはっ、魔人はおつむが弱くて可哀そうだ」
「戦いに言葉は不要だ。剣を交えれば分かる」
イゴールは青碧色の瞳をガリムに向け、言葉少なく呟く。
「けっ、偉そうな口を叩くな。まあ、その通りだがな」
ガリムはニヤリと笑う。
試合開始の合図が出るとイゴールは盾を前面に突進し、ガリムに体当たりをした。
「ドゴオオーン」、二人のぶつかる音が鈍く響く。
「残念だが、俺には届かねえ」
ガリムは巨大な両手剣を地面に刺し、イゴールの突撃を防いだ。そして、イゴールを蹴り飛ばし、剣を地面から引き抜く。
イゴールは再び距離を詰め、ガリムへ手斧を振りかざす。ガリムは両手剣を盾のように使い、イゴールの怒涛のような攻撃を器用に受け流していく。
「なんて馬鹿力だ……腕が痺れたきた。そろそろ仕掛けるか」
ガリムは両手剣で手斧を防ぐと同時に、イゴールの腕を蹴り上げた。手斧がくるくると宙を舞い、地面へと突き刺さる。
「“炎熱収束・居合”」
ガリムが、イゴールの一瞬の隙を突き、戦技を唱える。両手剣が熱した鉄のように真赤に燃え始めた。
「てええい」
ガリムは気合を込めて叫ぶと同時に両手剣をイゴールに向けて横に切り付けた。
イゴールは息を吸い込み、白い息を吐く。すると、盾に埋め込まれた青い魔石から魔方陣が発動し、氷柱がメリメリと音を立てて伸びていく。そして、両腕で盾を支え、氷柱を両手剣に向けた。
両手剣が氷柱にめり込むと悲鳴のような音を立て水蒸気が立ち込める。
「くっそ、氷のせいで威力が半減したが。しかし、このまま押し切ってやる」
ガリムは歯を食いしばり両手剣に力を入れた。
――とその時、「ドコン」という音が聞こえた。その音は繰り返し聞こえ、次第に間隔が狭くなる。
「がはぁ、は、腹が痛てえ。奴は俺の剣を防ぐのに精一杯のはずだ……なぜ」
ガリムは口から血を吹き出しながら身体を上下に揺らす。
水蒸気が晴れると、イゴールが二本の腕を生やしてガリムの腹に打ち据えているのが見える。拳の回転はさらに早まり、音が連続して聞こえ始めた。
「降参だ、もうやめてくれっ」
両手剣から手を離し、ガリムは両腕を上げる。そして、そのまま仰向けに倒れた。甲冑の腹部はイゴールの拳で凸凹になり、兜からは血が滴り落ちている。
イゴールは拳を止め、盾にめり込んだ両手剣を引き剥がした。
――フランソワ王子陣営
「今すぐ回復魔法をかけてきます」
ガリムが倒れると
フランソワ王子は素知らぬ顔で視線を対戦相手の控え席に向ける。
「次の相手は火魔法を使う神巨人のようだ。ジェラルドよろしく頼む」
ジェラルドはフランソワ王子の前に跪く。
「畏まりました。仕留めて参ります」
フランソワ王子はジェラルドの胸に光る魔道具に気づいて話かける。
「君はヨーク伯爵の魔道具を使うんだね。賢い選択だ」
「先の戦役において、アルビオン大佐の部隊に多くの部下が倒されました。雪辱を晴らせるのならば、何でもやります」
ジェラルドは懐中時計のような魔道具を固く握りしめた。
「そうか……武運を祈る。ただし、相手を殺してはだめだよ」
フランソワ王子がジェラルドの尋常ならざる様子を見て釘をさす。
ジェラルドは返事をしないまま、場内へと駆け出した。
――第三試合 キリル(神巨人)vs ジェラルド(
「“聖光千突”」
ジェラルドは戦技を発動し、槍を高速に繰り出す。
槍がキリルを避けるかのように軌道を変えた。キリルは身体を揺らしながら、両腕から繰り出される拳を槍に当て、じわり、じわりと距離を縮める――。
キリルは赤銅色の瞳をジェラルドに見据え、大きく一歩を踏み出した。そして、もう一対の腕を出現させ、殴りかかる。
ジェラルドは盾で拳を防ぎながら、槍を手離し剣に切り替える。しかし、剣で腕を切りつけても傷一つ負わせることができない。必死の形相で拳を防ぐが次第に押され始めた。
「ドガン」
キリルの拳が当たり、兜が跳ね飛ぶ。ジェラルドが態勢を崩すと畳みかけるように四本の腕から拳が矢継ぎ早に繰り出され、頭部に命中する。
「ジュ、ジュウ」
焼き
――ジェラルドの顔はみるみる火傷と打撲で赤く腫れあがる。地面に腰を落とすと盾を前面出して、拳を防ぎながら後退する。
キリルは盾を奪い取ると縦に引き裂き、雄たけびと共に拳を振り下ろした――。
「ドスン」
突然、キリルは膝を突き、拳はジェラルドを捉えることなく地面に突き刺さる。
「ようやく効果がでたか……腕が抜けぬなら手伝ってやろう」
ジェラルドは起き上がり、剣を拾う。そして、キリルの腕を切り落とした。
「う、うぐぁぁ、ぐぅ」
キリルは歯を食いしばり、顎を鳴らす。
「身体が動かないだろう……いい気味だ」
首筋を立て全身を震わせるキリルを見つめながらジェラルドは不気味に笑う。
「我が部下の恨み、貴様の死で晴らしてやる。“光子収束・一極”」
槍に持ち替え戦技を唱える。そして、光り輝く槍をキリルの胸元へと刺し込んだ。
「ガキン」
キリルの胸の紋章が漆黒の盾へと姿を変え、光る槍を弾き返す。
「なんだと? くそ、もう一度だ」
ジェラルドは再び槍を構える――しかし、槍が放たれるより早く、漆黒の盾は吹き矢に姿を変え、矢を放つ。それは、ジェラルドの左目を貫いた。
「うぐぁぁぁ、なんだこれは……」
ジェラルドは、血が涙のようにこぼれる左目を手で押さえ、呻き声を上げる。
「試合続行不能。引き分けとする」
判定者の言葉で試合が終わると双方の控え席から人が飛び出した。
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