3.4.26 神樹(ロマーニ)

物語はシャーロット一行がシュバイツ伯爵領の主都へ向けて南下する時に戻る。


――王国歴 301年 初夏 イストマル王国 第一王女一行

――深夜 ザエラの天幕


 シュバイツ伯爵の主都に着くまでのあいだ、ロマーニはザエラの寝所をたびたび訪れた。不思議なことに、彼女が夜這いに来るときは、襲撃者の報告がない静かな夜を過ごした。

 

 月夜に浮かびあがる彼女は、昼間のあどけなさは姿を消し、妖艶な表情を見せる。ザエラに接吻キスをすると、彼の全身を愛おしそうに撫でながる。そして、焦点の定まらない瞳を恍惚とさせ、股から愛液を滴り落とす。


 目の前で揺れる彼女の豊満な胸をさわるとひんやりとした感触が両手に伝わる。ロマーニを寝かせて上になり、彼女の胸に顔を埋め、水枕のような感触を楽しみながら、手を彼女の秘所へと伸ばした。


 指を差し込むだけで愛液が音を立てて溢れ出し、手を濡らす。「うん、あぁ」、ロマーニが喘ぎ声を抑えながらザエラに抱き付く。腹部が波を打つように痙攣しているのが伝わる。


「貴方様のお好きなように愛でてくだ……あっ」


 ロマーニが耳元で囁くより早く、自らの男根を彼女の体の奥深くに突き立てた。濡れた百合の花びらに包まれたような感触が快感となり全身に伝わる。ザエラは貪るように彼女を突き上げ、天幕には二人の激しい息遣いが響いた。


◇ ◇ ◇ ◇ 


 情事が終わるとロマーニはザエラをうつ伏せにさせる。そして、彼に跨るとその背中を撫で始めた。陶酔したように顔を紅潮させ、口元から涎を落とす。


「エマリス少佐は私の身体に興味がございますか?」


 ロマーニの内股の筋肉と柔らかな秘所が腰に当たり、再び身体を重ねたい衝動に駆られながら、ザエラは彼女に問い掛けた。


「私のことはロマーニとお呼びください。貴方様の身体は神のみが創造しうる芸術でございます。このような美しい魔術紋様は見たことがございません」

と言いながら、彼女はザエラの背中を指でなぞる。


 ザエラは素早く身体をひねらせて仰向けになり、彼女の顔を引き寄せる。

「なぜ、私の背中の魔術紋様を見ることができる? 血族魔法を発動させない限り、外部からは見えないはずだ。私のことを神樹と呼ぶことに関係するのか?」


 ザエラが血族魔法を使えることはサーシャとソニアしか知らない。混魂魔法はエグゼバルト家の血族魔法だが、まだ見ぬ父親の出自と関係するか不明だ。また、軍部に知られ、不要な詮索を受けたくない。


 そのため、精霊の力を借り、スキルに表示されないようにしていた。そこまでして隠していた事柄を、ロマーニに気づかれ、彼は動揺した。


「私の瞳は魔力の流れを見ることがでます。貴方様に初めてお会いした時、身体全体に張り巡らされた魔力回路に驚きました。特に、胸から延びる太い魔力回路が枝分かれして背中全体へと広がり、精緻な紋様を形成している様は、まるでその身に神樹を宿しているかのようでした」

ロマーニは穏やかにザエラの目を見ながら話す。


「それでは、私の身体の秘密にも気づいているということか?」

ザエラはため息をつきながら彼女に問い掛ける。


「秘密と言うのは魔石のことでしょうか? それとも胸に刻まれている従属魔法の魔法陣でございますか? ……あるいは貴方様の瞳に」


「もういい、それ以上、話すな」

ザエラは思わず、彼女の首を掴み、話を遮る。


「ご、ご安心ください。貴方様の秘密を暴露するつもりはございまん。ただ、貴方様のお側で神樹の成長を見守りたいだけです。ひ、必要でしたら従属魔法により私を奴隷にしていただいても構いません……ひぃ……はぁ」

 

 首を掴まれながら、ロマーニは必死に訴えた。ザエラはしばらく見つめると手を離した。彼女は咳き込みながら息を深く吸い込む。


「それでは今すぐ従属魔法を行うが良いか?」

「畏まりました。ただ、こちらを鎮めてからに致しましょう」


 ロマーニは再び怒張したザエラの男根を自らの秘所に招き、腰を振り始めた。 


――王国歴 301年 晩夏 エマリス子爵家


 ロマーニが父親の部屋から出ると目の前に弟が現れた。


「姉様、次期当主を辞退され、アルビオン騎士団へ移籍されると父様より伺いしました。その話、本当でございましょうか?」

弟は半信半疑の表情でロマーニに問い掛ける。


「ええ、事実ですよ。先ほど、氏族会議にて承認された旨、父様より報告をいただきました。来年の春、この屋敷を出て、騎士団長様の元へ参ります」


 ロマーニから移籍の希望を聞いたとき、父親は激怒した。エマリス家に稀に誕生する神眼を受け継ぐ娘が、どこの馬の骨とも解らぬ騎士団へ移籍するのだから当然だ。


 しかし、しばらくすると父親は彼女の希望を受け入れた。シュバイツ伯爵がシャーロット公女と移籍者について合意したが、その人選が難航しているらしい。娘を差し出せば、両者に大きな借りを作ることができると考えたからだ。


「今後は私が次期当主として父様を支えます。ご安心ください」

弟は頬を緩めながら自信に満ちた表情でロマーニを見つめる。


「そう、貴方には期待しているわ。話は以上かしら?」

ロマーニは興味がなさそうに話を受け流し、手を上げて二人の侍女を呼ぶ。


「姉様は、アルビオン騎士団長の配下として戦場で活躍し、中佐に昇進したそうですね。移籍先にて、功を焦り、戦死ならさらぬよう、せいぜいお気をつけください」

 

 いつものように視線を合わせず、自分に興味を示さない姉へ、精一杯の嫌味を込めて弟は別れの挨拶をした。


「……何か勘違いしているようね。私は本物を見つけただけよ。肩書など興味はないわ。偽物に囲まれて暮らす貴方には理解できなと思うけど……失礼するわ」


 そう言い残すとロマーニは二人の侍女と共に弟から離れ廊下を歩き始める。弟は彼女の後姿が見えなくなるまで睨みつけていた。

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