3.3.45 運命の八英雄
――王国歴 301年 晩春 ガルミッド王国 中央軍本陣
「みんな、遅い時間にも関わらず集合してくれてありがとう。公式の軍事会議ではないので気楽に話してくれ」
金髪の髪に青色の瞳の男性が、集合した士官を前に柔和な表情で迎え入れる。彼は、フランソワ・フォン・シュナイゼン、国王の第一王子にして中央軍の総指揮官だ。
「フランソワ様、こんなに遅くまで働いて無理をなさらないでください」
「何かございましたら我々にご指示ください」
ジェラルド少将とマチアス少将が心配そうにフランソワ王子に声を掛ける。
「好きだから構わないよ。それより東方軍のアリエル中将との交渉はどうだ?」
「アリエル中将は、
「交渉ご苦労様。これで兵数は優勢を保てるな」
フランソワ王子は満足そうな表情で二人を労う。
「戦略会議なの?寝所へのお誘いかと思い、急いで湯浴みしましたのに残念です」
紫色のローブを顔を隠した女性が溜息をつく。
「私もお誘いに備えて全身を体毛を急いで剃りました。あそこもつるつるです」
頭をそり上げて刺青をいれた大男が席に付くと床を揺らしながら大笑いする。
「王子様の御前だぞ。冗談はほどほどにしておけ」
黒髪の鋭い眼光を持つ騎士が大笑いする大男をじろりと睨む。
「まあ、皆さん落ち着いてください。若様が大好物な甘いお菓子を沢山お持ちしました。まずは、お茶でもいかがですか?」
そう言いながら、神官の法衣を着た小柄な女性が合図する。すると、侍女が飲み物とお菓子を運び込み、長机に並べる。
「毒見しますね」
その女性は短い腕を伸ばしお菓子を手に取り頬張る。その様子はまるで子供のようなあどけなさを感じさせる。
「そうだな、ミリアが差し入れてくれたお菓子をみんなで食べよう」
フランソワ王子の一言で深夜の茶会が始まる。
◇ ◇ ◇ ◇
「ああ、甘みが頭に沁みますね。美味しいです」
フランソワ王子は幸せそうにお菓子を食べる。
「王子様、そろそろ我々を招集した理由を教えていただけませんか?」
お菓子に口を付けずに沈黙を続けていた黒髪の男が口を開いた。
「敵の陣容を入手したから皆の意見を聞きたく招集したんだ」
フランソワ王子は記録の魔石に魔力を注ぐ。敵の陣容が卓上に浮かび上がる。
「こ、このような敵国の機密情報をどこから入手されたのですか?」
黒髪の男は驚いて声を上げる。他の同席者は食い入るように敵の陣容を見つめる。
「ハヤテ、この戦争についてどう思う?」
ハヤテと呼ばれた黒髪の男は、
「次期国王を決めるために戦争をするなど馬鹿げております。戦争の実力を測るのであれば、模擬戦で十分でしょう」
と吐き捨てるように答える。
「敵にもそう考える輩がいてさ。内通者から情報提供を受けているんだ。第二王子陣営のみ参加、兵力約三万、そしてこの鳳凰の陣を用いるとね」
フランソワ王子は卓上の陣営を指さす。鳳凰が翼を拡げたように、中央と比べ左翼と右翼が前面に大きく出ている。
「王道の陣でございますな。中央の凹みに我々を誘い込み、血族魔法による戦略魔法で一掃する腹積もりでございましょう」
大男が陣容を見ながら発言する。
「そうだね、ガリム。敵は今頃どう誘い込むかを思案している頃だろう。しかし、我々は逆にこれを利用して、鳳凰の頭部、つまり、敵の本陣を急襲したい。敵の他陣営に支援命令が出る前に決着を付けなくては。そこで、ザキム、君の出番だ。アレの手配はできているかい?」
「ええ、既に城下に運び込んで眠らせています。ヨーク伯爵家に大きな借りができてしまいましたが、十分な数をご用意しています」
ザキムと呼ばれた紫色のローブの女性は穏やかな口調で答える。
「手配ご苦労様……後は、敵の第二王子を戦場ですぐに見つけられるかだな」
「そちらも大丈夫でございます。既に手を打っております」
「さすが、手際がいいね。それでは、詳細を詰めていこう」
彼らの作戦会議は深夜にまで及んだ。
――アデル王子本陣
エルゴ中将を始めとする大佐級以上の士官が当日の戦術を確認している。じっと指揮盤上の陣容を睨みながら考え込む中将に部下が声を掛ける。
「当日の動きは一通り確認できましたが……何かご懸念がございますか?」
エルゴ中将は指揮盤上を見つめたまま、
「そなたは“運命の八英雄”という敵国の慣習を知っているか?」
と部下に問い掛ける。
「王位継承権を持つ敵国の王族は、選抜された八人の貴族の子供と幼き頃から共同生活を始め、死ぬまで運命を共にすることですね。敵国の初代国王が、八名の部下と苦楽を共にして魔王を倒したことが起源と聞いております」
「そのとおりだ。第一王子である
「まさにこの中央で互いの王国の行く末を占う決戦が始まる訳ですね。ただ、我が陣営もナイトレイド(黒)を除く五大騎士団から将来の騎士団候補が集結しています。どんな相手でも勝利は揺るがないかと」
「懸念としては我々の騎士団同士の連携だが、それを上手くまとめるのは私の役目だな。さて、悩んでいても仕方ない。今日は終わりにするか」
◇ ◇ ◇ ◇
エルゴ中将が宿舎に帰宅するとアデル王子からの伝言を従者から受け取る。
『日頃の私に対する忠義、大変評価しておる。その忠義に報いるため、私のお気に入りの獣人の娼婦を一名、其方に下賜する。来る決戦に向けて英気を養われよ。なお、この獣人は背中の黒い斑点の模様が大変美しく、私としては後背位を……』
従者はアデル王子から下賜された娼婦を寝室へ案内していることを伝える。
「このまま眠りたいが、殿下からの差し入れとあらば無下にはできないな」
エルゴ中将は眠そうに欠伸をし、従者に服を預けると全裸のまま寝室へと消えた。
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