3.3.13 開戦前 弱点

――王国歴 301年 晩冬 貴族連合討伐軍 第一王女陣営


ザエラは新しく入団した白エルフ二百名を二グループに分けた。回復系の魔法に秀でた百名は、ティアラを医院長とする診療所に配属した。


今は魔力循環不全の患者を治療しているが、戦争中はどの陣営の負傷者でも受け入れるつもりだ。既に各陣営に通知している。距離を考えると利用できるのは隣のシュナイト陣営だけだが、閉鎖的な白エルフの印象を変えることが主な目的だ。


残りの百名はララファ、フィーナ部隊に編入した。アルケノイドと白エルフは二人一組で巨大蜘蛛デビルジャイアントスパイダーに騎乗する。白エルフは弓による遠距離攻撃と聖魔法による回復・身体強化を担う。


今まさにヒュードル大尉の重装歩兵と白エルフを加えたララファ、フィーナ部隊の模擬戦が行われている。


マーク! 構えステイ! 強化プロテクション!」

ララファとフィーナの掛け声が辺りに響き渡る。


マークの掛け声で、前方の重装歩兵の防具に赤い魔法陣が浮かび上がる。そして、構えステイの掛け声と同時に白エルフが弓を構え、強化プロテクションで強化魔法を唱える。強化魔法を付与された弓矢は光を帯びる。


発射ファイア! 追跡チェイシング!」


一斉に放たれた弓矢は突進する重装歩兵を追跡し、赤い魔法陣へと吸い込まれるように突き刺さる。しかし、重装歩兵は弓矢に怯むひることなく前進を続け、ララファ、フィーナ部隊と混戦となる。


(模擬の弓矢とはいえ、威力が弱すぎる。重装歩兵の防具を貫通できなければ、追尾できても意味がないな)

模擬戦を観察しながらザエラは新しい戦力の分析をしていた。


キュトラ中尉によると、白エルフは総じて近接戦が不得意なため弓に特化しているそうだ。弓で敵に致命傷を与え、短剣ダガーで止めを刺すのが彼らのやり方だ。本戦場では、始めこそ軽装歩兵に対して戦果が見られたが、すぐに敵兵が重装歩兵、重装騎兵に切り替わり、苦戦を強いられたらしい。


(弓だけだと相乗効果は期待できない。何か新しい戦術を編み出す必要があるな)

ザエラは目を閉じて考え始めた。


――第一王女陣営 ヨハン少将宿舎


「何度お願いされてもいやだ、人族には頭を下げたくない。我々は幾度となく彼らに騙されて来た。私にも自尊心プライドがある」

とヨハン少将は首を横に振りながら頑なに拒否をする。


目の前に座る女性は心配そうに、

「では、にどのように対処するの?これまでと同じだと犠牲者が増える一方よ。士気に影響するし、敵軍とまともに戦うこともできないわ。このような無様な戦功のままでは副大将である兄さんの進退問題に発展するわよ」

とヨハン少将に問いかける。


進退問題という言葉を聞くと、ヨハン少将の表情が青ざめて苦そうな表情に変わる。


ヨハン少将の様子を伺いながら、女性は悲しそうな表情を見せ、

「兄さんがお父様に叱責されるのを見るのは辛いわ。私が王女シャーロット様からあの方ザエラ中佐に話していただけないか相談してみます。だから、何か支援を頼まれたら素直に聞くようにしてください。わかりましたね?」

と子供に言い聞かせるように優しく話しかける。


「ああ、すまない」、ヨハン少将は力なくうなずいた。

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