3.2.8 捕縛(3)
――王国歴 300年 晩夏 ザルトビア街道
太陽は西に傾き始め、台座にいる見張り達の影は長く伸びる。その影の中から漆黒の闇を身に纏う生き物が音もなく現れ、彼らの口を塞いで首を掻き切る―カロルの‟
《見張りと魔獣調教師の排除完了。魔獣調教師は一人だけ捕縛しました》
カロルから任務完了の報告が来る。
《了解。魔獣の暴走が始まるから触手から放出される毒に注意。攻撃部隊は胴体まで接近。オルガ隊は触手の根元を絞めて紫色の液体の流れを遮断。サーシャ隊とカロル隊は胴体の毒袋が破れないように頭部と胴体の境目を切断》
ザエラが指示すると攻撃部隊は一斉に魔獣へと突撃を開始した。
魔獣は触手を波打たせ、先端から
《サーシャ、大蜘蛛が興奮しているね。どうしてだろう?》
《
《肉は遠慮したいけど、魔石は吸収してみたいね》
ザエラは後方から隊員に‟
「ジレン、
「だめだ、呼吸が止まって心臓の音がほとんど聞こえねえ」
ザエラは毒で倒れた鬼人に胸に手を当て雷魔法で心臓に刺激を与える。しばらくすると彼らの顔色が良くなり呼吸が戻る。
(人族なら手遅れだが、鬼人の生命力は強いので何とか間にあったな)
「中隊長……すまねえ、助かった」
ジレンは恥ずかしそうに小さい声で感謝を伝える。
「彼らには上官の命令無視という軍紀違反の罰を受けてもらわないとね」
ザエラは真面目な表情を崩さずに答える。上官の命令無視は部隊の規律を乱し作戦遂行に悪影響を及ぼす。彼は今回の件を非常に問題視していた。
◇ ◇ ◇ ◇
キリルとイゴールが魔獣の頭部に鉈で切れ目をいれて直径一メルク程度の巨大な水色の塊を抉り出す。蜃気楼竜の魔石だ。皮膚と身は固く、頭部の中心にあるため、|大牙二匹がかりでようやく取り出すことができた。「ドスン」という音と共に巨大な魔石が地面に下ろされる。
この魔石は石というよりも粘土に近く、刀で斬れて形を変えることができる。ザエラは大片に切り分けて隊員全員に配る。体内に吸収して経験値を得るためだ。魔石と波長を合わせるというコツが必要なので、サーシャに実演させる。
「まずは手のひらに魔石を包み込むの。そして波長を少しづつ変えて魔石へ流し込むと光り始めるわ。これが限界固有波長よ。この波長の魔力を流し続けると魔石が崩壊して体内に取り込まれるの」
魔力制御の練習のようなものだ。簡単にできたアルケノイドと黒エルフは、手間取る鬼人やホブゴブリンに教える。成功するとあちこちで歓声が上がる。キリルが特大の塊を頭上高く両手に握りしめて光を放ちながら吸収したときは全員が叫んだ。
「魔石を吸収できたものは一旦休憩だ」
隊員同士で雑談が盛り上がる中、彼はオルガとカロルの元へと近寄り魔石を渡す。三人は手慣れた様子で魔石を吸収する。彼らはヒューマンでありながら魔石を見に宿す種族―
「体中に力がみなぎる。興奮して鼻血がでそうだ」
(今日の疲れが吹き飛び、頭が冴えて来る。滋養強壮の効果があるのだろうか)
「予備で携帯しておこうかな」
ザエラが残りの魔石に目をやると、大蜘蛛が群がり黒い塊を作る。周りには食い散らかした肉が散らばる。肉に飽きて魔石を食べだしたようだ。魔騎竜と白髪狼は、大蜘蛛のおこぼれに預かろうと肉片をついばみながら周りを取り囲む。
(まだ半分以上残っていたから少しは余るだろう)
ザエラはみんなが食べ終わるまで待つことに決め、二人と話し始めた。
――――魔獣との戦いの余韻に浸る中、突然、悲痛な叫びが聞こえる。
「ベロニカが死んでしまう。私が手塩にかけて育てた魔人なんだ。誰か助けてくれ」
捕縛された仮面の男が突然泣き始めたのだ。
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