1.17 新しい日常

オルガたちを人族から助けて、数か月が経つ。季節は冬が終わり、春が始まろうとしている。村の畑に続く道にも少しづつ緑の芽が出てきた。


僕は四歳になった。三歳に比べて背丈も高くなり約130セメクとなった。ミーシャ、サーシャも同じ時期に誕生日を迎える。オルガとカロル、キリルとイゴールは誕生日を知らないそうだ。家族で話して、秋を誕生日に決めた。オルガは三歳、カロル、キリル、イゴールは二歳だ。母さんは家族が増えて嬉しそうだ。最近では、家族六人が快適に暮らせるように、家の増築について街長に相談しているらしい。


冬の間は、畑仕事もなく、師匠と座学と魔法の訓練に明け暮れた。勉強や手伝いがない日も、師匠にお願いして訓練場を開けてもらい、みんなで訓練した。師匠も暇を見つけては、お昼ご飯の用意と訓練に付き合ってくれた。


■ミーシャ、サーシャ

魔力の出力量の制御、魔力の波長の制御まで終わった。僕が苦労した魔力の出力量の制御は、僕よりも短期間で習得した。師匠によると魔力量の違いが影響しているとのこと。また、訓練当初は、魔力の枯渇に苦しんでいたが、最近では訓練の最後まで魔力を保てるようになった。


属性魔法も並行して勉強している。ミーシャは、土、風、水、光の属性、サーシャは、土、風、火、光の属性が無詠唱で使える。光属性は中級、それ以外は初級まで使える。師匠によると、光属性は街長の一族が持つスキルで、水属性と火属性は父親から受け継いだのではとのことだ。光属性が中級まで使えるのはうらやましい。


立体感覚、糸生成を使った立体移動は、街の集合教育で既に習っていた。それぞれの所作が無駄がなく美しい、踊りのような感じさえ受ける。後から聞いたところ、魔人百科辞典に記載されているとおり、舞踊の練習をしているそうだ。 ラピスとの組手では、最初に比べると粘れるようになったが、最後は地面に伸びている。体力はまだまだのようだ。


街長の後継として魔人語、人族語共に読み書きと会話を勉強していた。そのため語学の授業は受けていないが、人族の文化、特に食事に興味があるようで、料理本や旅行記の書物を借りて読んでいる。


ちなみに、つがいの若鳥を街長の家に譲り、ついでに小屋も設置しておきました。


■オルガ、カロル

ゴブリンの種族スキルである身体強化、超回復を強化するため、魔力の吸収と体内循環を訓練している。師匠によると、魔力の出力量の制御、魔力の波長の制御を習得するのは二人のスキルを考えると難しいそうだ。


カロルは、まだ一歳なので無理せずに少しづつ進めているが、本人は一生懸命やっている。オルガは魔力を体内に循環させ、体表近くに滞留させることに成功した。次は体表に滞留させた魔素を使い、身体強化系の魔法を習得する予定だ。


座学は人族語の勉強している……辛そうだけど、頑張れっ。


■キリル、イゴール

魔法が苦手で組手をしながら身体を鍛えている。助けたときに比べて一回り成長した。訓練用の棍棒を使い、真剣に組手をしている様子はゴブリンとは思えない。


オルガ、カロルと共に会話の練習をしているが、何を言っているのか聞き取れない。ただ、ゴブリンは他種族に比べて存在進化しやすく、存在進化すると知能が上がるらしいので、そのうち話せるようになるかもしれない。


なお、彼らのオルガ、カロルに対する態度は、友情を超えた、何か忠誠に近いものまで感じさせる。ずるがしこくて、粗暴なゴブリンの特徴がまったく見られない。何が彼らをそうさせているのだろうか。


■ザエラ(僕)

僕は、光と闇属性の魔法を覚えたが、属性魔法の習熟度はあいからず初級のままだ。なお、どちらも魔法書は不要だったのでスキルとして覚えていたようだ。人族の父のスキルを受け継いだのだろう。師匠がじっと考えていたのが気になった。


なお、これで一通り物質属性の魔法は習得したそうだ。後は概念属性の魔法が残っている。ただし、概念魔法は、文字通り概念なので、習得はもう少し大きくなってからとお預けをされている。


スキルについては、魔力制御の習熟度が上がり、魔力感知、魔力糸生成を新たに獲得した。魔力感知は魔力を持つ物質・生き物の気配を感知できる能力。魔力糸生成は、魔力を糸のように生成できる能力。


どちらも訓練中に発動し、師匠に話したところ、スキルだと教えてくれた。あとは、攻撃系の初級魔法の威力が高めるため、固有魔法を考えているところだ。


座学は、人族語を習得したので、地理、歴史、動植物、商業、産業と幅広く勉強している。将軍として必要なものとして師匠が選んでくれた。まだまだ、教えたりないそうだ。自分の視野が広がるのが実感でき、楽しくてたまらない。


■魔力回路の紋様

僕は魔術回路の紋様について師匠に聞いてみた。魔力回路の紋様は魔術紋様と呼ばれること、特殊な魔法の素質を持つ血族が魔術紋様を受け継いでいること、その形や属性は血族により異なること、血族の持つ特殊な魔法は血族魔法と呼ばれること、師匠は丁寧に説明してくれた。


僕もオルガもカロルも魔術紋様を継承しているらしい。オルガとカロルの紋様は思い当たる節があり、調査中だと師匠は話していた。しかし、僕の紋様は見たことがないそうだ。逆に、血族魔法として血が覚えているはずなので、何か思い当たる出来事がないか質問された。あの時のことが頭をよぎるが……師匠には話せなかった。


■今後について

僕は直ぐにでも何か仕事をしてお金が欲しいと師匠に話した。戸籍や名字を手に入れる目途はないが、まずは先立つものが必要だ。しかし、師匠は渋い顔をした。お金を手早く稼ぐには冒険者になるのが近道だが、成年になるまで登録できない……人族と判断されると十六歳まで待つ必要がある。あと、十二年も先だ。


師匠はしばらく考えて、勉強を続けて実力が付いたら、非正規の冒険者として活動してはどうかと提案してくれた。北にある地下迷宮で魔物を狩れば、それなりの稼ぎになると師匠は見込んでいるそうだ。僕は師匠の提案に感謝しながらも、直ぐに行動に移せないもどかしさを感じていた。


お金を稼いで、鳥以外の家畜を飼育したり、自家畑の野菜と穀物の種類と収穫量を増やしたい。さらに果樹も植えて果物を収穫したい……やりたいことは一杯ある。


「よし、これからますます頑張らないと」

僕は春の陽気のなか走り出した。


(第一部 「胎動」完)

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