忘却

七星奈星

第1話 山瀬蒼介

山瀬 蒼介 17歳。


僕はこれだけ生きておきながらしっかりと記憶があるのはこの2年の間だけ。


そう僕は記憶喪失を経験しているのだ。


それはある事故が原因だと言うが僕はその詳細を知らない。


両親が言うことには塾に行くのに急いで赤になってすぐだったのでそのまま横断歩道を渡ったところ、車にはねられ全身打撲と記憶喪失に陥ったらしい。


だから僕の記憶は寝たきりで動けずにもどかしいという感情から始まっている。


それから1年。高校2年生に上がるのとほぼ同時に僕は退院し学校へ行くことができるようになった。


前の僕は高校には数回しか行っていなかったようだが友達はすぐに作っていたらしい。


今の僕は不安に心を支配されて、新しい環境に胸を高鳴らせ希望に満ち溢れさせることは出来なかった。


僕は心臓が口から出てしまうのでは、というくらい緊張していた。


今の僕になって初めて会う担任の先生と一緒に今の僕になって初めて入る教室に入る。


「お前ら山瀬が退院した。暖かく迎えてやってくれ。」


先生の一声で教室のみんなは拍手を始めた。


先生は親切でやってくれているつもりだろうが僕のアウェー感をさらに属増幅させるだけだった。


僕はあまりみんなのことを気にしないように足を進める床だけを見て教壇の真ん中に立った。


「山瀬 蒼介です。記憶喪失をしているので…優しくしてくだ…さい。」


隣のクラスから聞こえる朝の挨拶にかき消されながら僕は精一杯の自己紹介を済ませる。


僕が話終えると先生はすぐに拍手を始めた。

先生を追うようにクラスのみんなも拍手を始める。


僕は拍手の音に紛れながら先生に自分の席の場所を尋ねる。


先生は窓際の空いている席だ。

と1番後ろの窓際の席を指さす。


僕はそこは授業中に野次を飛ばす陽キャが座る席だろうと恐れ多く感じたが今はみんなの前に立っている方が苦痛だったので僕は早足で自席に向かった。


僕が席につき先生が連絡事項を伝え終えたところで朝のホームルームは幕を閉じた。


嵐が過ぎ去るも落ち着くのも束の間、隣の女子が僕に話しかけてきた。

しかもいきなり下の名前で。


「蒼介…私の事覚えてる?」


かなりデリケートな質問のようで覚えてないと答えるのはあまりにも無愛想に感じたので

ああ、覚えてるよ。とやや曖昧な返事をした。


彼女は僕の返事を聞くと気が済んだのか前を向いてその後は話しかけてくることは無かった。


僕の嵐続きの一日は終わり家に帰りベッドに寝転がると疲れていたのか気づいたら寝てしまった。


次の日も、そのまた次の日と学校へ行くにつれて僕は男子たちから話しかけられるようになった。


友達が多かった前の僕はこんな気持ちだったのかと調子に乗り始めた。


僕は人気者になってるんだと思っていた。


ドッキリや無茶振りをたくさん仕掛けられて僕の反応を見て男友達は笑ってくれる。


僕は幸せなんだと思っていた。


でも違ったようだった。

それを気づかせてくれたのは初日に話しかけてくれたあの女子だった。


「蒼介、随分変わったんだね。」


僕は彼女のその言葉の裏側に興味をそそられ話を聞くと前の僕はどちらかと言えばいじめる側の人間だったらしい。


いわゆる陽キャでクラスの陰キャに無茶振りをしてはその反応を囲いの男友達と楽しんでいたという。


その時の僕はまさにスクールカーストの頂点。誰も逆らうものはいなかったという。


僕は初めは彼女の話を信じようとはしなかったがだんだん辻褄があってきて信じざるを得なくなっていた。


思えば自分の部屋にはゲームが沢山あり、花火や派手な洋服もあった。

前の僕はどんな人間だったのだと不思議に思いながらも全て処分したのだ。


この女の子は僕のガールフレンドなのかと思ってしまうくらい僕のことを気にかけてくれていた。


僕と君はどんな関係だったの?


聞けばよかったがセンシティブな質問だと僕の口にブレーキがかかった。


僕は次の日から学校に行かなくなった。

幸せだと思っていたのに実は悲劇が始まっていだなんて、知らぬが仏とはまさにこのことだろう。


僕がひきこもり始めてから3日、彼女が僕の家を訪れた。


どうして場所を知っているのだろう。

そんな疑問を彼女は吹っ飛ばしてくれた。


「誕生日おめでとう。」

僕はかなり動揺した。

今の僕になってからまだ誕生日がいつだとか認識すらしていなかったのだ。


僕は彼女が手に持つ紙袋を受け取りなかを見てみる。


それに入っているものを見て僕は頭を抱え唸り始めた。

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忘却 七星奈星 @miyamotominesota

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