戦争屋
羽鷺 彼方
プロローグ
戦争が始まってどれくらい経ったのだろう?曽祖父の代から始まったことを考えるに、もう三百年ほど経つだろうか?
引き起こした当人達は既に死に、その尻拭いは自分たち子孫の代になっても収まる気配は微塵もない。
きっかけはなんであれひどい話だ。多くに命を犠牲にして積み重ねた知識や技術は、より多くの人を殺すためにと更なる研鑽を重ねている。
そんな状況で儲かる奴がいるとすれば武器屋か棺屋くらいだろう、しかし前者はともかく後者の世話になることはない。私を想う家族がどこにもいない以上、私の死を弔ってくれる者がいるはずもないからだ。
誰がどうやって死のうが、何万という苦しみの果てに犠牲を払うことになろうとも戦争は終わらない。
「国のために……」
その言葉が繰り返し何度も頭によぎった。共に戦った戦友は皆、その言葉を最後に土色顔のまま死んでいった。
黒い硝煙と砂埃が舞い上がり、一呼吸するだけで嗚咽混じりの咳が胸を潰す。
戦争で余分な思考は死につながる、むしろそれならどれほど良かっただろうか。今の自分に許されたのは塹壕に身を隠しながらどうすることもできない戦争と、自分を庇って死んだ口うるさかった上官の黒焦げの焼死体を眺めるだけだった。
「……いっそ国なんて滅んでしまえば」
やがて精魂尽き果てた末に出たその言葉は、軍人として失格のものだ。
今まで戦ってきたことの否定、自分や仲間の人生を愚弄していると責められても仕方がない。
だけど、それなら私を庇って死んだこの焼死体に私は何ができる?
動かない体に掠れかけの視界、私は守られておきながらそれを次に繋げられなかった。それが悔しくて堪らない。
重くのしかかる脱力感、それが体の自由を奪っていく。
次は自分の番、そう失意に沈んでいる時、
そんな時だった……
綺麗な髪を靡かせながら、軍服に身を包んだあの人を見たのは。
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