桜が散る前に、君と
笹原 巳波
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気になる人ができました。
身長はどちらかというと低い方かもしれない。けど、綺麗な顔をしている。
大きな目に長いまつ毛。さらさらの黒髪、ずっとリップ塗りたてみたいなぷるぷるの唇。
声変わりはまだなようで、少しまだ声が高い。
彼のことが気になり始めて、観察を始めた。
春川くんは窓際の前から2番目の席。私は真ん中の列の1番後ろ。観察するにはもってこいのロケーションだった。
もし、春川くんのことを見すぎていたらクラスではやし立てられるかもしれない。だから気を付けながら春川くんのことを見ていた。
春川くんは、幼いのか大人っぽいのか分からない。
クラスの男子が間違って買ってきたブラックコーヒーを飲んで顔を歪めていたときは、年相応の顔だった。けれど、換気なんて言って開け放たれた窓から入ってくる風に目を細めていた顔は、大人びていた。
春川くんは弓道をするためにこの中学に来たらしい。
小学生のときに近所の弓道教室で弓道に出会い、弓道を続けるために、幼稚舎からずっと持ち上がりのこの学校へ、中学受験をして入ってきた。と、自己紹介で言っていた。
綺麗な顔で人当たりもよくて、よく笑う。幼稚舎からずっと一緒で完成しているグループの中に、春川くんは簡単に溶け込んだ。
「春川くんかっこいいよね」そう言う女子も少なくはなかった。
私は春川くんについて、みんなが知っているようなことしか知らない。授業中に観察していても、春川くんに関する情報は入ってこないのだ。頬杖をついている。暇そうに外を眺めている。風に髪がさらわれている。そんな見た目のことしか分からない。
だから、自己紹介で話したこと、他の男子と話しているときに漏れ聞こえた内容、くらいしか知っていることはない。それは、みんなが知っていることで、春川くんについて知っているとは言えない。
ちょっと、悔しい。
綺麗な顔をした、中途編入の子。その肩書きに興味があるだけなのかもしれない。
少女マンガで読んだことがあるように、恋に恋しているだけなのかもしれない。
この感情が恋なのか、そうでないのか分からないけれど、春川くんのことが気になっていることは確かだった。
そんなわけで、私は今日も観察を続ける。
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