第6話
直也の葬儀から一月ほどが経った六月上旬。
隆二は喪失感が少しずつ和らぎ始めているのを感じている。
月曜日。
デスクに置かれているデジタル時計は午後一時過ぎを示している。
雑誌記者モードである隆二の瞳に映るのはパソコンの画面。
「お盆特集の記事」のネタ探しをしている。
もっと言えば、夏の風物詩である「心霊特集」のネタ探し。
ネットサーフィンをして心霊情報を探していると【呪いのベンチ】という言葉が隆二の目に留まった。
『【呪いのベンチ】に座った人間はバラバラになって死ぬ』
(昔こんな話を聞いたことがあるような…)
隆二は妙に惹かれたので検索してみた。
【呪いのベンチ】の噂は心霊好きの間では結構有名なようでいくつものまとめサイトがあった。
十件ほどのサイトで情報を集めた結果【呪いのベンチ】についていくつかの事がわかった。
・【呪いのベンチ】は「〇✕駅」にある
・その駅では昔イジメられていた女子高生が飛び込み自殺をした。見つかったのは頭部だけだった。
・【呪いのベンチ】は死ぬ直前彼女が座っていたベンチで、それに座た者は電車に轢かれてバラバラになる
・見つかるのは遺体の頭部だけ
隆二は投稿されたコメントに一通り目を通す。
『遺体が頭部だけだったのが今までに三十人ほどいるらしい』
『この前実際に人身事故あったよね』
『俺事故があった直前に【呪いベンチ】に座っていた人見たんだよ。死んだのあの人かな』
『あそこのベンチはマジでヤバイ。近づくと空気が変わるんだよ。ひんやりする』
『シャンプーの甘い香りがしたら要注意らしい』
「〇✕駅」
直也が電車に轢かれて死んだ駅。
(もしかして、直也の死に【呪いのベンチ】が関係しているのか?)
そんな考えが隆二の頭に浮かんだ。
電車に轢かれてバラバラになる事は珍しくないらしい。
しかし、頭部しか見つからないというのは不自然な気がする。
見れば見るほど直也の死は【呪いのベンチ】での死に方にそっくりなのだ。
もしかしたら直也が死んだ真相がわかるかもしれない。
隆二は上司にこのネタを追いかけていいかお伺いを立てるとゴーサインが出た。
隆二はさっそく「〇✕駅」がある鉄道会社に取材の申し込みの電話をした。
「【呪いのベンチ】の取材をさせてほしい」、単刀直入にそう告げた。
担当者もこの噂を把握しているようで、あっさりOKをもらった。
正直相手にされないと思っていたので、隆二は拍子抜けした。
おそらく鉄道会社としても【呪いのベンチ】の噂への対応に苦労してきたのだろう。
(しっかり取材してもらって噂はデマだとはっきりさせてほしい)
そんな期待を隆二は電話越しに感じた。
日程調整はとんとん拍子に進んだ。
取材は二日後。水曜日の午後二時。
場所はもちろん【呪いのベンチ】がある「〇✕駅」だ。
隆二は予定を更新済みのスケジュール手帳を閉じて、上半身を伸ばす。
身体は良い感じに脱力し、ついあくびが出る。
その時、デスクの上に横たわっているスマホがバイブする。
身体に緊張感が走る。
『市川美貴』
発信者を確認すると
母親からの着信だった。
(めんどくさい)
隆二は無視した。
呼び出し音が何度も鳴っている。
なのにやっぱり息子は出ない。
いくら仕事が忙しくても折り返しくらいできるでしょ。
一言二言くらい話したいだけなんだから。
市川美貴は苛立つ。
(この私をバカにするなんて…)
美貴は久々に不快な気持ちになった。
脳裏にあの女の顔が浮かぶ。
はにかんだような笑顔の女。
ピンポーン。
来客の音で美貴は我に返った。
インターホンの受話器を耳に当てる。
『今行きます』
宅急便の荷物を受け取るため印鑑を手に持ち、
美貴は玄関に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます