『呪いのベンチ~新~』
U・B~ユービィ~
第1話
夜の九時前。
研究室の飲み会終わり、高橋直也は駅のホームのベンチに座っている。
ホームの中間付近、不自然に設置されている一人掛けのベンチ。
眼鏡姿でいかにも理系的な印象の直也は苦笑いを浮かべて今日の成果を振り返っていた。
慣れないスーツを身に着けて臨んだ研究室の発表会。出来は上々だったらしい。
正直緊張で記憶がないが…
研究発表会が終わると、教授と学生はそのまま居酒屋に移動して飲み会を始めた。
直也は二十歳の大学三年生。まだお酒の味には慣れていない。
だが、研究発表を終えた安堵感からなのか、お酒はいつもより美味しく感じた。
ここ数日の平均睡眠時間は数時間だったため、
いつもと同じくらいのお酒を飲んだのに酔っぱらってしまった。
(この状態で電車に乗って吐いてしまったら大変だ)
幸い明日の授業は午後から。直也はしばらくこのベンチでゆっくり休むことにした。
目の前に同じ世代―大学生―と思われる二人組が立っている。
茶髪の坊主と野球帽を被ったコンビ。
茶髪の坊主が話を切り出す
『後ろに一人掛けのベンチがあんじゃん?スーツ姿の人が座っているやつ』
「あるね。あのベンチがどうかしたの?」
『【呪いのベンチ】なんだよ。あれに座ると死ぬんだって。身体がバラバラになって』
「まじかよ…」
『昔イジメに遭っていた女子高生がこの駅で飛び込んでさ。あそこから』
坊主頭がホームの先頭付近を指で示す。
『駅を通過中の急行電車に轢かれたから、もちろん身体はバラバラ。だけど見つかったのは頭部だけで、それ以外は見つからなかったらしい』
「え?」
『以降、あのベンチに座った人間は彼女のようにバラバラになって死ぬんだとよ』
「うわぁ…まじかよ…てか、あの人やばいじゃん」
彼らの肩越しの視線が直也に向けられる
目が合うと若者たちは気まずそうにすぐ目を逸らし、そのまま学校生活の話題に移った。
「あほくさ…なにが【呪いのベンチ】だよ。非科学的な。
いいよ。持っていきたきゃ持っていってみろよ」
直也は、多少残っている酒の勢いを借りて、少し大きめの独り言を呟いた。
まもなく各駅電車が停まった。
電車は、大学生たちを乗せると、ゆっくりとスピードを上げた。
電光掲示板を確認する。
四分後に急行電車が通過。
その四分後に各駅電車がやってくる。
(気持ち悪さはほとんどないし、次の各駅電車に乗るか)
直也は喉の渇きを覚えたので、自販機に向かおうと立ち上がった。
その瞬間、身体がピタッと動かなくなった。
(え?)
シャンプーの甘い香りがした。
ゆっくりと直也の身体が勝手に動く。誰かに後ろから押されているような感じ。
(なんだよ…これ…)
状況を把握しようにも頭部以外のコントロールが効かない。
視線をキョロキョロ動かして、周囲を見渡す。
ホームには乗客がちらほらいるが誰も直也の異変に気付いていない。
助けを呼ぼうにも、喉に圧迫感があって声が出せない。
やがて身体はホームの先頭付近で止まった。
(ここ…女子高生が飛び込んだ場所だ…)
さっきの大学生達の会話を思い出す。
断末魔のような叫び声を上げながら急行電車が駅のホームを通過している。
その音はこちらにどんどん近づいてきている。
気が付いたら直也の身体は線路の上に浮かんでいた。
線路の上に制服姿の人間たちがいる。
警察と消防関係者がバラバラになったであろう肉片を探している。
ベテランの警察官が尋ねる。
『見つかったのはどこの部分だ?』
若手の警察官が答える。
『頭部だけです!!』
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