しんとりかえばや。
友坂 悠
開幕。
開幕。
それはまん丸い月が一番大きく見えた夜。
西の方と東の方の両方で、それぞれ赤子が産声をあげた。
西の方に生まれた赤子はとても元気で、おぎゃぁおぎゃぁと泣いたと思うと母の胸に縋り付き乳をごくごく飲むという丈夫な子で、もうこれは何も心配はないとお医師も帰っていったくらいであったのだけれど、
東の方に生まれた赤子はひやんとも言わず、乳を与えてもすぐに吐き、血色も悪く、これはもう長生きは出来ないだろうと思われる始末。
このままではこの子は長生きは出来まいと諦めた主人に対し、東の方は泣いて訴えた。
「この子が助かるためには女子として育てよと仏のお告げがありました。旦那様がお見捨てになるのであれば私はこの子と共に尼寺に入ります」
髪を振り乱し、神がかって訴える東の方の圧に負け、藤原のおとどは「好きにするがいい」と、その場を逃げるように去ったのだった。
さて。
反面、西の方に生まれた赤子は女児であったのだけれど、これがまた普通の女児とか比べ物にならないわんぱく者で、とにかく遊ぶなら蹴鞠、木登り、魚釣り、と、周囲のわっぱを引き連れガキ大将の様に成長し、これまたおとどを困らせるので在るが、それはまた次の機会に。
女児として育てられた若君と、ガキ大将のごとく育った姫君が出会うのは、ふたりが五歳になった日のことであった。
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