魂の守り人

拉麺美味

第1話 終わりからの始まり

人間には魂があり、魂は色々な経験をして魂のレベルを上げる為に輪廻転生を繰り返している...


ある日、俺の人生は唐突に終わりを迎えた。

真っ暗で暗闇だけの世界、音も光も何もない、ただただ暗い。


そうかぁ、俺は死んでしまったんだ...。



いつもと変わらない朝だった。

妻が先に起きて朝食を作ってくれる。

俺は包丁のトントントンとリズミカルな音が心地よい目覚ましとなり穏やかに目が覚める。目覚めると同時に子供2人を立て続けに起こし、両腕で抱っこしてリビングに連れていく。

朝食を食べ、支度をしてから保育園に子供を預けてから会社に向かう、そしていつも通り仕事を終えて帰宅する...はずだった。

いつもと変わらない日常が続いて行くのだと勝手に思い込んでいたのかもしれない。


保育園に預けた後、車で会社に向かっていた。信号が赤になったので、当たり前のように停まり青になるのを待っていた。

いつも通りの朝だった。


今日も朝から良い天気だと感じていた次の瞬間、前方からスピードを上げたままの車がこちらに向かって突っ込んでくる。


[これはヤバイ!早く避けなければ!]

咄嗟にハンドルを切ったが間に合わなかったようだ。

恐らく衝突したのだろう。

衝撃を感じた瞬間に意識がなくなったのか

少しだけ刹那といえるだけの時間を過ごした後なのかはわからない。 だが、意識を失う直前に俺は相手の顔をはっきりと見た。


正直、人間の顔とは思えない顔だった。

憎悪が取り憑いているというか、鬼というか

あまりにも禍々しいその顔は自分が知っている人間の顔ではなかった。


これから意識を失うというのに人間の頭はわずかな時間でこれだけのことを把握出来るのかと恐れ入る。


ここはどこだろう...。

静寂の中で声が遠くで聞こえる。

俺の名前を叫ぶ声。

[パパ~!パパァ~!うわぁ~ん!!]

全て悟ることが出来た。


そうか、俺はあの事故で死んだのかと。

どうか泣かないで欲しい。

そんなに悲しそうな声を聞くと俺も悲しい。


子供が成長する姿をもっと見たかった。

どんな道を選ぶのか、どんな人と家庭を持つのか、それにもっと妻と一緒に過ごしたかった。

でも、もうそれも叶わない。

せめて家族にはこの先も明るく幸せに生きていって欲しい。俺はいつもみんなを見守っているから。


幸せな日々をありがとう。

本当にありがとう。


その時、暗闇だらけの世界にまばゆい光が差し込んできた。

俺は光に包まれた。

これが死後の世界かと感じた。

不思議な感覚だった。


全て包みこまれているような暖かな光、そこには不安も恐れも何も感じない、そこはかとなく、安心感に満ち溢れている優しい光。

表現するならば、母に抱かれているような

すごく安心出来る感覚。


その光に包まれてからどのくらいの時が経ったのだろう。

時間という概念があるのかもわからない。


そんな中、声が聞こえてきた。


[あなたは無事魂レベルの課程を修了しました。永きにわたるカリキュラムお疲れ様でした。]


誰が語りかけているのかわからない

そこにあるのは光だけだ。


[あなたは色々な人生を歩み数え切れない程の経験と試練を乗り越えてきました。


あなたはこれから修了者として転生をせずに穏やかな幸せな悠久の時を過ごす権利があります。]


そうか、聞いたことがある、人には魂があり

死んだらまた別の人間として生まれ変わる。

だからその時の記憶が残っている子供が前世の自分について話す等のテレビも見たことがあった。


本当だったんだ。

目に見える世界だけが全てではないんだ。


どんな存在が何の目的で魂のレベルを上げることを行っているかわからないが、その人として生きる人生はかけがえのないものなんだ。


以前本で読んだことがある。

魂は生まれ変わる時に寿命や試練を予め選んでくるが、生を受けた時には忘れていると。


魂とかそれを管理(?)している側は気にしないかもしれないが生きている人間にとってはたまったもんじゃない。


ひとつ聞いてもいいでしょうか。


[何でしょう?]


私は今までどんな人間の人生を歩んで来たのでしょうか。



[そうですね、いくつかお教えしましょう。

貧困層に産まれ、奴隷として死ぬまで働いていましたね。

ある時は裕福な家庭に産まれて、指導者として皆を導いた時もありました。


ある時は冒険家として世界中を旅した時もあったようですね。

決して恵まれた環境ではなかったのに企業して財を成したこともありますね。

産まれる前に亡くなったこともあります。


優秀な魔法の才能に恵まれながらも大切な人を守って命を落とした人生もあったようです。]


色々とあったんだな。

というか、最後の魔法って何だ...!?

一気に胡散臭いものが出てきたな...。

ゲームじゃあるまいし、実は俺は死んでないのか?


[あなたは確かに死にました。]


うわぁ、聞こえてる!


[あなたが思っていることも全てわかります。ここはそういうところですので。]


はい、どうもすみませんでした。


[魂が転生する先は現在の地球と呼ばれている星だけに限られたことではありません。


あなたは既にありとあらゆる人生を積み重ねてきました、今世では家族みんな幸せで穏やかに暮らし、老衰で寿命を全うする予定でしたね。]


え!?


老衰って!俺は事故死ではなく、老衰の予定だった!?

だとしたら俺は何で死んだんだろう。


[予定とは異なりましたが、無事、魂のカリキュラムは修了ですね。良く頑張りましたね。]


いや、待てよ。

待ってくれよ!


そうしたら本来はまだ生きていられたってことじゃないか。


もっと家族とみんなと笑ったり、怒ったり悲しんだり、一緒に生きていけたってことだろ。もっと側にいれたってことだろ!


修了しました、お疲れ様でした...

ふざけるな!

あなたはそれで良いかもしれないが、こっちはそんなことも知らず、毎日一生懸命に生きてたんだ!

そしてこれから先もうちのチビ達が迷った時は一緒に悩み、危険な時は守ってやりたかった。

困ってる時は助けてあげたかった。悩み迷いながらも夫婦で子供の成長を見守りたかった!見届けたかった!


それを予定とは違ったとか簡単なもので済ますんじゃねぇ!ふざけるな、ふざけるなよぉ!!

俺はこんなところでは終われない!!

終わらせない!!

子供が大人になるまでは俺が家族を守るって約束したんだ!!


[...わかりました。

あなたにはもうひとつ選択する権利があります。]


ん...?

選択する権利?


[あなたにはその資質があるようですね。

ひとつは先程にも伝えた、悠久の時を穏やかに幸せに過ごすという選択。


そしてもうひとつは...

健全に魂が成長出来るように魂達の指導者となる道です。]


魂達の指導者...、それは一体?


[魂が成長する上で、色々な経験や試練があり、当然それを乗り越えなければいけません。それを放棄する魂や、迷う魂をより良い方向に導いてあげるのです。

もちろん、魂は喜びを得なければいけません。試練を乗り越えながらも、幸せを感じて欲しいのです。人生に幸せや、やりがいなど心踊るものがあるからこそ、魂は輝き成長するのです。

どうかその手助けをしてくれませんか。]


よくわからないけど、何となくわかった。

指導者になったら、俺はどうなるんだ?


[修了時の人間の姿のまま、今まで通り暮らすことが出来ますよ。]


本当か!?

だったらそうしてくれ!


[但し、指導者である以上、魂を守り、 導いてあげる役目がありますので、今まで通りの人間とは少し異なります。]


どういうことだ!?


[修了者は寿命というものは存在しません。

魂は永遠にそこにあるもの、死という概念は存在しないのです。]


それはつまり...死なない身体になると。


[その通りです。

あなたは合格したのですよ。

カリキュラムを修了したほとんどの魂は楽園行きを選択します。

すべて満たされ、思い残すこともないので当然のことながら受け入れ楽園に行きます。

満たされているので、それ以上のことは望まないのです。

私は立場上、直接人間に干渉することは出来ないので、指導者として魂を導いてくれる存在が必要です。

そこで、楽園行きを選択しない修了者に対して、指導者になる選択を与えています。]


[それに気になることがあります。

あなたもそうだったのですが、本来の寿命を迎える前に突然の事故等で亡くなられる方が増えております。

魂には人間界で経験を積んではほしいのですが、同時に寿命が来るまで幸せに生きてほしいのです。恐らく何らかの理由で殺されてしまうのでしょう。

本来ならば私が直接救えれば良いのですが直接的な干渉は出来ないので、あなたのような方に救っていただきたいのです。]


俺もその何かに殺されたということなんだ。

幸せに暮らしている人から突然命を奪う何て許せない。

守れる力が自分にあるのなら自分と同じように未来を奪われる人を守りたい。

素直にそう思った。


そうだ...思いだした。

子供の頃、大好きだった近所に住むお姉ちゃん。

俺よりも4つ程年上だっただろうか。

いつも気にかけてくれ、いっぱい遊んでくれた。今思えばあれは初恋だったのかもしれない。


見渡す限り晴天で暖かい日だった。

ぽかぽかして気持ち良かった。

学校帰りウキウキしながら、少し寄り道してに家に帰ると両親がとても悲しそうな顔をしていた。

(落ち着いて聞いてね、お姉ちゃんね、亡くなったんだ。)


え...。

大事に握りしめた小さくて綺麗な花が力の抜けた指からすり抜けて地面に落ちた。


(歩道を歩いていたら車が急に歩道に飛び込んできたらしいの)


目の前が真っ暗になった。

俺の初恋は大好きなお姉ちゃんの死という形で終わった...。


大好きだったお姉ちゃん、今でも覚えている学校の先生になりたいって言ってたな。


そうだ!


知ってたら教えてほしい。

もしかしてお姉ちゃんも寿命ではなく、殺されたのか?


[わかりました。

その魂を追ってみますね。

......

その方が亡くなるのは85歳だったようですね。

希望通り教職員になり、たくさんの教え子に慕われる先生になる予定だったようです。]


悔しい思いが込み上げてきた。

もっと生きたかっただろう。

教師という夢を抱いて進んで行きたかっただろう。

悔しくて寂しくて無念だっただろう。


[覚悟があるようでしたら、彼女の最後の光景を見せることも出来ますが、どうしますか?]


...はい、お願いします。


また暗闇に戻ったかと思えば、まばゆい光に包まれて暗闇だった世界に

色が付いてきた。


俺は当時見慣れていた風景の中にいた。

アパレル系や雑貨、スーパー等が並ぶこの街の大通りだ。

現在は閉店していて、別の商業施設になっている。


前方から中学生くらいでポニーテールの女の子が歩いてくる。


お姉ちゃんだ。


この後に起こる事故を知っていても、お姉ちゃんの姿を見れることがたまらなく嬉しかった。


お姉ちゃん!こっちに来てはダメだ!

今すぐ建物に入るか、別の道に行くんだ!

お姉ちゃん!こっちはダメなんだ!!


いくら叫んでも声は届いていないようだ。


[これはあくまでも記憶なのであなたの声は聞こえませんし、姿も見えません。

理を越えた状況で私達はその場に実体なき形でいさせてもらってるだけなのですから。]


何となくわかってはいたけれど、叫ばずにはいられなかった。


程なくすると、遠く前方からスピードを上げた車が近づいてくる。


車道ではなく、歩道を走っている。

近づいてくる車にお姉ちゃんは気づいていない。


お姉ちゃん!ダメだ!避けて!避けてくれぇ!!


お姉ちゃんが車に跳ねられて宙を舞う瞬間、車を運転していた男の顔が見えた。


復讐心に取り憑かれたような、鬼のような禍々しい顔をしていて、とても人間のような顔ではなかった。


!?

あの顔は!!

俺が事故にあった時に見た顔だった。


その男と目があった気がした。

男はこちらを見るとにやりと不適な笑みを浮かべた。


なっ!!

明らかに俺を見て笑っている。


この場所には今の俺は存在しないはずだから目が合うなんてことはあり得ないはずだ。


その時、男の身体から黒い霧のようなものが

抜け出したように見えた。


男はハンドルにもたれかかるようにぐったりとしている。


お姉ちゃんはどうした!?

お姉ちゃんが飛ばされた方向に急ぐ、あの衝撃だと即死だったかもしれない。


祈るような気持ちで横たわっているお姉ちゃんの元に駆け寄った。


血だらけで全身を強く打っているだろうと見ただけで分かった。


痛いだろう、お姉ちゃんの目からは涙が出ていた。

まだ息はあるようで、何か話しているようだ。


(...ちゃん、ごめんね...。

お姉ちゃん......約束守れ...なくて。

本当にに...ごめん...ね。)


お姉ちゃぁぁぁーん!!


俺は意識だけの存在で身体はないのに自分が泣いているのに気付いた。


そうかあの日は俺の誕生日が近いからお祝いしてあげるって、一緒に夕御飯を食べる約束をしていたんだ。


俺はお姉ちゃんが喜ぶと思って、学校帰りに寄り道して出来るだけ綺麗な花を摘みに行ったんだ。


くっ!こんなことって!!

おねえちゃんが亡くなったことは俺にとっては忘れることが出来ない出来事だった。

俺も中学生になった頃、親にお姉ちゃんの事故状況を聞いたことがあった。

スピードを出した車に跳ねられて即死状態だったと聞いていた。


だが即死ではなかった。

自分が死ぬとわかっていながら俺との約束が守れないことを気にしていたなんて…。


なんでこんなことになるんだよ!

お姉ちゃんが何をしたっていうんだ!

あまりにも報われないじゃないか!


くそ!くそぉぉぉぉぉぉ!!

目から涙がとめどなく流れている気がした。



[…そろそろ戻りましょう。]



また暗闇に包まれ、その後にまばゆい光に包まれた。



…。

少し気持ちの整理をする時間が欲しかった。


[いかがでしたか。

やはり黒い霧のようなものに殺されてしまったようですね。

何者かは存じ上げませんが、魂をさらなる高みへ上げることを良く思っていない存在があるようですね。]


やはり、お姉ちゃんは殺されたんだ。

しかも俺が殺された時と同じ状況だ。

同じ存在に未来を奪われたんだ。


怒りが込み上げてきた。

絶対に許せない!

同じ目にあわせてやりたい!!


他にも同じように殺される人がいるのであれば同じ思いはさせたくない。

魂の健全なる向上を邪魔したいのであれば、俺が阻止してやる。

俺が止めてみせる!!


死んで身体の感覚もなく、何も根拠がないのにやれる気がした。


[ちなみに色々調べるとあの黒い霧は殺したい対象の魂を追跡しているようです。]


…どういうことだ?


[同じ魂を狙って殺しているようですね。

その時、殺すことを失敗しても、また機会を見つけては殺しています。

彼女も先ほど見た事故で亡くなりましたが、その2か月前にも事故にあっています。

その時は、ケガなくすり抜けたようですが…。]


まるで殺し屋じゃないか。

狙われたら殺されるまで追いかけられる…。


1つ教えてほしい。

お姉ちゃんの魂は転生してこの世で別の人間として生きているのか?


[はい。既に転生して暮らしていますよ。

名前と年齢、住んでいるところも知っています。]


教えてくれ!今どこにいるんだ!!


[それは……]


!!!


そうか、そうだったのか...。


お姉ちゃんの転生後の人間は俺の娘だった。


涙が止まらない感覚に陥った。

複雑な感情が押し寄せてくる…。

安堵感、嬉しさ歯がゆさ、切なさ、それに愛しさ。


[彼女だった魂はあなたに子供が出来るまで転生をせずに待っていたようですね。

あなたとずっと一緒にいたいと願っていたようです。

それであなたの娘として生まれ変わることを決めて転生しました。]


そうか、そうだったのか。

だとしたら俺はここで楽園なんかに行くわけにはいかない。

娘をおねえちゃんを今度こそ守るんだ!!


同じ魂を繰り返し狙っているということは今までの人生も幾度となく殺されてきたってことだ、何度も何度もお前に愛しい人を殺されてたまるか!


お姉ちゃんの魂も家族も殺されてしまうかもしれない魂も全部俺が守る!!


決めた!!

俺は指導者として生きたい!!

俺が守るんだ!!!


[指導者として進むことを選択したということでよろしいですか。

死ぬことが出来ないことは現在生きている人間が寿命を迎えたとしてもあなたは生き続けることになり、悲しい思いをたくさんすることを意味します。

それでも魂の指導者として、守る役目として力を貸していただけますか。]


はい…。

やります。

やらせて下さい!!


[わかりました。

よく決断しましたね。

指導者として多くの魂を導いてくれると信じています。

指導者は他にもいるので後程連絡が来ると思いますから、待っていて下さい。]


[それではよろしくお願いしますね。

私の愛しい子供達、愛していますよ…。]


...あなたは

神様なんですか!


[あなた達の言葉で言うのであれば家族です、命あるものはみんな私の大切な家族ですから。


さぁ、みんなが待ってますよ。]



まばゆい程の光が遠のいていく...。

辺りは真っ暗で何も見えないが不安は感じない、むしろ暖かく感じる。


...、...!

パ...!

パパァァー!!


娘の声が聞こえてきた。


身体の感覚がある。

動かせる。

血が流れていて、心臓が動いていることもわかる。


そして俺は、ゆっくりと目を開けた。


妻も娘もだいぶ泣いたのだろう。

目は赤いし、疲れているのがわかる。

そんな家族の姿がぼやけていく...。

堪えきれずに涙が頬を伝うのがわかった。


さっきの光景は夢だったのだろうか。

夢にしてはやけにリアルに感じた。


どちらにせよ、俺は帰ってきたんだ。

家族のもとに。

そして、この世界に。

俺は今、生きてるんだ。



過去は未来を作らない。

未来を作るのは今なんだ。

未来を生きる権利をもらった俺は大切な人がいて、笑い合うことが出来る世界を守る。

俺の望む世界を作っていこう!


この時は自分が何故そう思ったのか、どういう存在になっているのか想像出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る