第九課 対決 その3
外堀が埋められては、流石の総大将も形無しと言う奴だ。
おたついているのがはっきりと分かる。
景山が横目でニキビ面を睨み、舌を鳴らした。
”お前行け!”と言ってるんだろう。
だが、ニキビは新一に目線を向け、明らかに怖気づいているのが分かる。
『おいおい、ここはもうボスの出番だろう?景山君とやら、君が出てくるところじゃないのか?』
『くっ』
景山が悔しそうに顔をゆがめ、前に出て学生服を脱ぎ捨てる。
『・・・・しかたないな。どうなっても知らないぞ』
彼は顎を引き、右の拳を顔の前で構え、左をそれよりやや引き気味にし、足は前後に開き、半身の構えをとった。
こいつも空手でもやっているんだろうか。
しかし流石に前の三人とは違う。
余分な力が抜けている。
やっぱりボスとなると違うな。
だが、新一も負けてはいない。
彼も力が抜けていることに変わりはなく、多少違うところがあるとすれば、肩で息をしていることくらいだろうか。
ここまで来て、彼も今までとは違うと思ったんだろう。
次の瞬間だ。
景山が気合と共に前蹴りを放ってきた。
危ない、
そう思ったが、間一髪、後ろに飛びのく。
同じ攻防が何度か続いた。
だが、後ろは背の高い叢、その後ろは川である。
後がない。
景山は残忍な笑みを浮かべた。
更に距離を詰める。
正拳が腹に食い込む。
前のめりになったところを、膝が鳩尾に当たった。
新一が地面に膝をついた。
そこへ景山は大きくかぶさるようにして、猿臂を縦に食らわせた。
だが、その一瞬前に、
彼は景山の太ももの付け根を両手で抱え込むと、景山を仰向けに引き倒した。
そのまま二人の身体がもつれ合って地面に倒れた。
景山が身体を起こそうとするが、起きることが出来ない。
それどころか、奴は倒れたまま、苦悶の表情を浮かべている。
新一の右手が、何時の間にかしっかりと奴の股間を掴んでいたのだ。
『は、離せ!』
景山が絞り出すような声を、喉の奥から上げる。
『離さん!』
『離せ!』
そういう度に、新一の指は奴の股間により深く喰い込んで行く。
『おい、色男、王子様、あんまり我を張ると、お前さんの大事なところが潰されるぜ?そうなったら女を口説くどころじゃないだろう?』
たまりかねて・・・・というか、半分笑いながら、俺が助け舟を出してやる。
『わ、分かった・・・・分かったからもう、止めてくれ・・・・』
景山が半べそをかきながら、哀願するように言った。
『止めてくれ?言うことが違うなぁ?』
『ま、参りました・・・・だから止めて下さい!』
その言葉に、新一がはっとしたように顔を上げ、俺の顔を見た。
俺は、軽い笑みを浮かべて指を立ててやる。
新一の指は、やっと景山の股間から離れた。
奴は股間を抑え、前の二人と同じように白目をむいて痛みに耐えているようだ。
『さて・・・・後一人は』
俺はそう言ってニキビ男の方に目を向ける。
だが、その時にはもう奴の姿は、這いつくばるようにして土手を昇って行ったところだった。
『逃げちまったぜ。王子、哀れなもんだな』
俺がそういうと、奴は痛みに耐えながらようやく起き上がったが、俯いて肩を震わせ、泣き出してしまった。
『ケリはついた・・・・な』
俺はそう言って、新一にシナモンスティックを渡す。
ビター・スイートの香りを味わうわけでもなく、ぼりぼりと一本、丸ごと齧ってしまった。
俺は地べたにへたり込んで泣いている景山君の前にしゃがみ、
『いじめって奴がいかに馬鹿らしいか分かったろう?君がどんなに力を持っていようが、結局最後はこんなもんだ。これに懲りたらもう二度と馬鹿な真似はしない事だな。』
新一が闘った連中は三人とも、別に大事なところに異常はなく、間もなく息を吹き返した。
『さあ、行こうぜ。』そう言って俺は新一の肩を叩く。
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