その24 『フキシオの町・出発』
キイー、と、教会の扉を開く。
そこには、いつものように信者たちと、それに教えを説くアンドレ司祭の姿があった。
「おや、あなたは……ん?」
ウェスタの姿に気づいた司祭。声をかけようとした瞬間に異変に気付く。
少女は教会の中へゴロゴロと台車を転がしてきていた。
「え、えーと……ウェスタさん……? それは、いったい?」
やがて司祭の前にたどり着くと、のっそりと倫が手を伸ばし、台車の中から挨拶した。
「ドーモ、神父サン。勇者デス」
「ゆ、勇者様!? そ、そのお姿はいったい……ハッ! ジェガンたちはどうしました!?」
「ジェガンさんたちなら、チクーニで養生してます。俺たちの方が早かったみたいですけど、すぐに文で報告が届くんじゃないかな」
「養生……一体何が……?」
「まぁ見ての通り、いろいろと。細かいことはジェガンさんたちからの報告を読んでね! 俺たちが今日来たのはちょっと別に聞きたいことがあって。せわしなくてすみませんけど、町の入り口で馬車の御者さんと待ち合わせもあるんで、手短にさせてもらっていいですか?」
「わかりました。なんでしょう?」
「実は……」
なんとなく、ウェスタに聞かれないよう神父さんを耳元に呼びつける。
詳細は濁しつつ、実は昨日の晩、自分のニンフに10発くらい射聖してしまったんですけど、ということをコショコショと打ち明けた。
「……10発!?」
「シーッ、声が大きい」
ウェスタは何の話かな? ときょとんとしている。
「……で、どう?」
「どう、と申されましても……一般的には、2回入れれば、2回分の力を蓄えられるというのが回答ではありますが……いかんせんあなたはその枠からは外れています。そもそも1日に10発以上も射聖できるお方というのは他にいませんし……それに以前ジェガンたちに入れたときのことを思い出してください」
倫の強すぎる聖力をジェガンたちに入れた結果、1発ですら耐えきれず彼女たちはヘロヘロになってしまっていた。いかに倫の正式なニンフであるとはいえ、セレスにはそれを10発も入れてしまったのだ。何が起きるかは誰にもわからない、ということのようだ。
「うーむ……わかりました。ちょっと状況注視しながら進むことにします」
「進む……というと、王都へ行かれるのですか?」
「はい。ついでに胸属性のニンフを見つけて体を治してもらえるとラッキーかなって」
「そうですか……あなたの進む道に、神の御加護があらんことを」
「ドモドモ」
そうして、手短な会話だけ済ませると倫たちは教会をあとにした。
彼らの後ろ姿を見送るアンドレ司祭。
(……あのふてぶてしさ……以前のどこか子供っぽい雰囲気がほんの数日で消し飛んでいる。男子三日会わざれば刮目して見よとはいいますが……何か、彼を根底から変える出来事があったようですね)
体は大変なことになっているようだが、そこに悲壮感はない。
実際以上に大きく見えるその後ろ姿に、司祭は大器を予感した。
→ * → * → * → * → * → * →
宿屋に様子を見に帰ると、セレスはすでに目を覚ましていた。
まるで二日酔いか何かのように、気分が悪そうに水を飲んでいる。
「あ、セレス。目ぇ覚めたんだね」
「どこへ行ってたんですか……」
恨みがましい目で見てくる。
「あー……ごめんごめん」
セレスも同意していたとはいえ、自分の昂りに収まりがつくまで好き放題しておいて、朝になったら放置して他の女とさっさと出かけるというのは冷静に考えるとなかなか酷い男だな、と内心苦笑した。
「今日はもう1日ゆっくりしていこうか。御者さんには出発は明日にするって連絡しておくよ」
「いえ、私は大丈夫です……それより勇者様のお体を一刻も早く治さないと……」
セレスがフラフラと立ち上がると、ウェスタがその体を支えに入る。
「ムリしないでください、セレスさん。リンくんの言うとおり、今日は休みましょ?」
「大丈夫と言ってる……」
なかなか強情だ。倫はふーむ、と思案した。
(たしかに、俺の体を治すというのは急ぎっちゃ急ぎなんだよな。俺がこんなになってる期間が長ければ長いほどこのパーティは余計な危険に晒されかねないし……)
(それに、10発入れちゃった状態のニンフというのがどうなるのかというのも今後のために確かめておきたくはある)
「……よしわかった! 今日は予定通り出発しよう」
「ありがとうございます……よかった。私はお荷物にはなりたくなかったので……」
ピクリとウェスタの眉の角度が上がる。
(あぁもう! なんでそう余計なこと言うかな!)
「あぁ~、それにしてもこの台車、寝心地いいなぁ。ウェスタが俺のこと考えて見繕ってくれたんだよな。下に敷いてる布団とかもやわらかくて床ずれしないし……嬉しいなァ。なんならずっとここに寝ながら移動してたいよ」
と、あからさまなフォローを入れておく。
ちょっとわざとらしすぎたかな? とチラッと横目で見ると――
「そ……そうですかぁ? ウフフ。リンくんさえよければ体が治った後でも私が台車に乗せて運んで差し上げますね♡」
と、ニマニマと口元を緩めながら喜んでいる。
(結構、単純だな……)
人のことは言えないが、そう思う倫であった。
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