第9話 世界の命運を決める15分(2)
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孝弘達にとって最後の戦いが始まった。
彼等が着陸した際に転移門基地にいた神聖帝国軍は約五五○○。対して璃佳の率いる部隊は二六○。
その兵力比、約二一対一。
数的優位は圧倒的に神聖帝国軍側にある。
だが神聖帝国軍の将兵達は、自分達がたった二百数十名を相手にしているとは思えなかった。同数兵力、もしくは自らを上回る兵力の奇襲を受けていると錯覚していた。
その原因の一つが、圧倒的な法撃火力投射量。孝弘達が誘導型マト弾が転移門に放たれるまでの一五分に全ての魔力を注いだ行動によって、神聖帝国軍は大部隊に奇襲されたと思い込んでしまったのである。
いくら精鋭揃いの本国軍が基地周辺にいたとしても、混乱しないわけがなく。わずかな時間だが大きな隙が生まれ、これを日本軍は見逃すはずが無かった。
「目標、弾薬庫! 距離約八五○の九時方向! 火属性爆発系に統一! 第一中隊、統制法撃、放てェ!!」
川越の力がこもった命令はすぐに伝わり、一個中隊が神聖帝国軍基地弾薬庫へ法撃を行う。
正確な法撃は可燃物が保管されている倉庫に引火し大爆発を引き起こした。
「目標命中です中佐!!」
「よし!! 復興の手間省きも兼ねて周辺も徹底的に焼き払ってやれ!! 連中の兵器から物品に至るまで全部燃やせ!!」
『了解!!』
神聖帝国軍への恨みが人一倍強い北特団の隊員達は先にも増してあちらへこちらへ火属性爆発系魔法を放ち、辺り一面を火の海へと変えていく。この過程でマジックジャミング装置も破壊された。
彼等の法撃は容赦無かった。故郷の自然を焼くのは忍びないが、侵略者共の痕跡を残さない為にはこれくらいしなければ心が納得しなかった。
「次!! 一○時方向の建造物!!」
弾薬庫が爆ぜたあと、神聖帝国軍士官宿舎も爆ぜ、続けて食料庫も大爆発を引き起こした。
ただ神聖帝国軍も一方的にやられているわけではなかった。
『警告。光属性光線系魔法多数探知。射出まで五秒』
「クソっ、小隊全員回避行動!!」
北特団のある小隊が虚ろ目エンザリアの法撃ロックオンを受ける。数が多く、どう避けても誰かは死ぬ可能性が高かったのだが。
「『
「『
二つの詠唱が聞こえた直後、生物がいくつも潰れる音がした。重力喪失魔法から逃れられた意思なきエンザリア達も、続けて発動した上級風属性魔法の餌食となりバラバラの肉と化した。
「七条閣下!! 熊川中佐!!」
「あと一二分でブツは着く!! 死ぬんじゃないよ!!」
「魔力は使い尽くせ。勝てば味方が助けてくれる。気にするな」
「了解!!」
とある小隊を助けたのは、たまたま彼等がロックオンされているところが視界に入った璃佳と熊川だった。二人は法撃を終えると、元々いた方に戻りながら敵を次々と屠っていく。
「速達の到着まであと七一○秒か。残存兵力は」
「二四七人です」
「一三人も……。流石は転移門基地に展開する部隊だね。もう立て直してきたか。――熊川、悪いけどもっと無茶するかも」
「普段ならば承服いたしかねますが、最後の戦いですから仕方ないです。ただ、閣下」
「なに?」
「閣下こそ死なないでくださいよ」
「あったりまえでしょ。さぁ、ギアをさらに上げるよ!!」
「了解!!」
璃佳は既に一の鍵を開いたから魔力の消耗が激しい。その証拠に彼女の頬には冷や汗がつたっていた。
(残存魔力は四九パーセント。うん。まだいけるね)
闇属性魔法の
(とっておきの切り札はまだ使わない。万が一に備えて、ね。)
彼女は思考を巡らせながらも続々と敵を倒していっていた。
璃佳と熊川のコンビによる戦闘は圧巻の一言に尽きた。互いに死角を埋め、互いの隙を作らせず、その上で近づく敵どころか数百メートル先のエンザリアや能力者まで的確に吹き飛ばしていた。
それでも二人が全てをカバーできるわけではなかった。
『警告。転移門の西側で強力な召喚生命体の出現を感知。魔力波長特定。出現したのは脅威ランクA+『オーガロード』及びロードの配下たるオーガ数十。召喚術式特定『オーガロードレギオン』。オーガロード及びオーガロードレギオン、南下を開始』
「ちっ、戦術級召喚魔法か……! 言ったそばから万が一はツイてないなあ!」
フラグを立てたつもりじゃないんだけど、と悪態をつきながら璃佳は転移門から三百数十メートル西側を睨む。
現れたのは全長十数メートルのオーガロード。オーガの中でも非常に強力な個体だ。その周囲にはロード種を守るかのように全長数メートルのオーガが数十体いた。異形の軍勢とはまさにこのことであろう。
「グオオオォォォォォォ!!!!」
『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!!』
オーガロードは『ススメ』と配下に号令の咆哮をかけると、オーガたちは雄叫びを上げながら南下を始めた。
『SA3よりセブンスへ。オーガロードとその軍勢はオレが引き受けます。ただ一つ希望があるんすけどいいですか』
「叶えられるものなら」
『閣下の
「だって」
「んむ、任せよ。妖狐の力、存分に使うが良い」
「ありがとう、茜」
「ならそっちは任せたよ。ただし、終わり次第アカネは私のとこに向かわせて。抜けた分は私が無茶してなんとかするけど、なるべく一一分持たせたいから」
『可能な限り早く倒します』
「よろしく」
(デカいのにはデカいのを、ってことね。頼んだよ、川島中佐。)
璃佳はデスサイズを振るい兵士をなぎ払いながら、大輝の方に視線をちらりとだけ向けて、すぐにまた戦闘に集中した。
「さぁ、いっちょやるか」
大輝は左の拳で右の手のひらを叩いて気合いを入れる。彼の前にはつい先程まで近くで戦っていたゴーレムジェネラルとゴーレム一○体が集まっていた。彼が召喚可能なゴーレムの最大数が集結していた。
「ジェネラルにゴーレム達。これが最後の戦だ。オレに力を貸してくれ」
「大輝よ、来たぞよ」
「茜、オレも無茶をするから背中は預けた」
「あいわかった。背後は気にせず存分に戦うが良い」
茜が微笑むと、大輝は感謝の意を込めてニカッと笑って返す。
表情はすぐに真剣なものに変わった。
「さァ、突っ込むぞ!!!!」
「うむ!!」
世界の命運が決するまで、あと一○分三○秒。
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