第14話 奇襲

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 大崎古川の空域付近まで到達し滑空を始めた孝弘達はCT群所在ポイントや神聖帝国軍の哨戒網を上手くかいくぐり、夜闇に紛れて目標地点から二キロの場所に着陸した。

 付近は田園と住宅が疎らにある地区で、日の出までまだ一時間近くあるからか巡回に兵力を割いていないからか人は全くいない。

 だとしても随分と無防備だなと孝弘は思いつつ、防衛兵力二〇〇が本当なら限界があるかと考え直し部下達に指示を送る。


「案の定、付近に小型マジックジャミング装置があるみたいだが端末間無線通信は問題なさそうだな。知花、そっちは頼んだぞ」


「了解したよ。装置は屋敷の北東にあるから奇襲攻撃と一緒に潰しておくね」


「よろしく。皆、後で会おう」


「アンタ達もね」


「ああ。もちろんさ」


 孝弘は作戦通り部隊を二手に分かれる。知花を隊長とする陽動攻撃隊は先行して司令部付近の攻撃ポイントへ向かった。


「俺達も向かうぞ」


 孝弘達司令部奇襲隊はなるべく音を立てず、目標地点のある屋敷に接近していく。

 途中、二名の巡回兵士を発見しこれを誰にも悟られないよう殺すと、比較的容易く屋敷のすぐ前までたどり着いた。


「知花達の第一撃まであと六〇から一二〇だぜ。念の為に全員魔法障壁を付与しとくぞ」


「助かる」


「あと、今のうちにシノビを五人出しとくぞ」


「了解」


 陽動攻撃隊の法撃が始まる前に大輝が保険用の魔法障壁を二枚ずつ全員に展開し、忍者型の小型ゴーレムを召喚し終わった頃だった。静寂に包まれていた地に突如として大きな爆発音が発生した。


「おうおう初っ端から派手にぶちかましてんなあ」


「その方がありがたい。てか今のでジャミング装置までぶっ飛ばしたのかよ。凄いな」


「お陰で通信が楽になるぜ」


「ホントな。さ、仕事に取り掛かるぞ」


 孝弘と大輝とアルトが先頭、佐治と河田が中衛、金山とカレンが後衛で屋敷に入る直前、孝弘は無線が回復したので璃佳司令部へ奇襲開始の合図である『今から朝飯を貰いに行く』を送ると、速やかに全員が敷地内へと侵入した。


「護衛兵力、一〇。即鎮圧するぞ」


 屋敷の中は突然の大爆発音で蜂の巣をつついたような有様になっていた。その最中に新たな侵入者である。対応など出来るはずも無かった。

 孝弘とカレンが銃とコンパウンドボウで初撃を与えると、大輝やアルト達近接武器持ちが吶喊。さらに現れた二名も金山がまとめて吹き飛ばす。


「一二人沈黙。護衛がこの程度の腕ならなんとかなるな」


 夜間巡回組以外は起床前の奇襲ということもあるのか第一目標の護衛部隊は全力を出せず、早々に推定五分の一の護衛兵士を潰した孝弘達は敷地内の中央へと進んでいく。


「知花や水帆達がめちゃくちゃに暴れてっからかこっちに援軍は来なさそうだな!」


「あの爆発音からして上級魔法も叩き込んでそうだからな。それどころじゃないだろ。離れから七名来るぞ」


「私に任せてくださーい。魔法障壁しか壊せなかったらお願いしますねー」


「ああ、分かった」


 護衛部隊の七人と自分達が相対する前にカレンは短縮詠唱を終えると、敵の集団が出てきた直後に矢を放った。分裂した魔法の矢は五人の魔法障壁を貫通して射殺し、残り二人の魔法障壁を全損させる。


「残ったのがちょっと強いヤツだったか。ハイチャージ、ツインショット」


 孝弘による追撃はオーバーキルだった。二人の兵士は木っ端微塵に弾け飛ぶ。


「ひぇー、米原中佐の射撃えげつなーい」


「ハイチャージはやりすぎかもしれないが、こういう時はやりすぎで丁度いいんだ。必要以外は生きてられちゃ困る」


「米原中佐、後方から三人が来ます。進みながらでも構いません。僕で対処します」


「頼んだ、金山中尉」


「了解」


 屋敷全体が見渡せる中央部まで着くと、金山が言っていた通り三人の護衛兵が現れたが彼がこれを瞬殺し、孝弘達の正面に五人が出てくるがこれは大輝の忍者ゴーレムとアルトが二、三撃で切り伏せた。


「これで二七人だな。目標を早く探すぞ」


 孝弘達は屋敷の正門の方へと回り込む。すると、丁度向かい側から目標の二人と護衛五人が現れた。第一目標のシュレイダーは寝巻きのままだったが、第二目標のエイトールは軍服姿でライフル型の銃器を持っている。

 孝弘達は『賢者の瞳』の翻訳機能をオンにしつつ、まずは護衛の五人を殺ることに決めた。


「ハイチャージ、トリプルショット」


「その身体、弾け飛んじゃえ」


 孝弘とカレンの射撃は貫通力向上が付与されていたから護衛の五人は魔法障壁を全損させられ、その場に倒れ伏した。先程より攻撃の通りが悪くなったからある程度の手練なのだろうが、一撃なのに変わりはなかった。

 孝弘は護衛を全滅させた直後、騒然とした中でも聞こえるよう大声を上げる。


「武器を捨てて手を上げろ! 魔法を使うなよ! 腕か脚を吹っ飛ばすぞ!」


「ちィ! よりにもよって貴様等ガ!」


「閣下だけでもお逃ゲくだッ、ッツゥゥ!!」


「そこの茶髪。エイトールだったか。今度変な気を起こしたら、吹っ飛ぶのはライフルじゃなくお前の脚だ」


「くッ……!」


「もう一度言うぞ。手を上げろ。片方は皇族の遠戚だから地面に伏せろなんて屈辱的な事までさせたくない。全身拘束と魔力封印措置を大人しく受けろ」


「ハッ! ここまでしておいてよくいけしゃあしゃ、がァァァ!!」


「エイトール!?!?」


 発言を許していない第二目標がうるさかったので孝弘は彼の右脚を魔力を込めていない銃弾で撃ち抜く。エイトールは撃たれた激痛でその場にうずくまった。この頃になると護衛の兵士が三人現れたが、反撃しようとしたので大輝の忍者ゴーレムが全員叩き斬っていた。


「シュレイダー大将、だったか。これ以上部下を殺されたくなければ、そこに転がってる貴官の右腕が穴だらけになる前に降伏しろ」


「…………私は、最早これまで、カ」


「…………そウ、ですね」


「降伏を受けい……、待て。私『は』ってどうい――」


 この時、孝弘達は二つのミスを犯していた。一つ目はシュレイダーが勘づかれないようエイトールに目配せをしており、エイトールが僅かに頷いたこと。二つ目は孝弘達自身ではどうしようも無い点。それは、シュレイダーの情報が完全ではなかったことだった。


「シュレイダー閣下!! 貴方にお仕え出来て光栄でございました!!」


「ああ、私も良い部下を持って幸せだった!」


「クソッタレが!! 魔力暴走!! 全員エイトールを!!」


「もう遅ぉぉォォい!! 僕とて時間稼ぎくらいはぁぁ!!」


「接近させるな!! この規模は、マズイッッ!!」


 エイトールは魔法障壁を全開にした上で魔力暴走の爆発に巻き込ませる為に孝弘達に近づき、孝弘達は後方に下がりつつ一斉に銃撃と法撃を放った。その間にも、シュレイダーによる乾坤一擲の詠唱は紡がれていく。


「どうせ最早帰れぬのなラば!! 我が全ての魔力を、命さえモ捧げてみせよう!! 封じるは我等に仇なす者達!! 少しばかりの時でも構わぬ!! 古代龍エンシェントドラゴンが如く魔法使いを、この中へ牢じたまえ!!」


「まぁだまだぁぁ!!」


「邪魔だどけぇ!! 最大出力!! ハイチャージショット!!」


 孝弘が、大輝が、ここにいる全員がエイトールに火力を集中させる。それほどまでに能力者が命を賭けて行使する魔力暴走は危険なのだ。

 しかし、殺すべきは一人では無い。シュレイダーも、いや、シュレイダーこそ殺すべきだったがエイトールは止まらない。エイトールもまた孝弘達が得ていた情報以上の能力者だったから。


「忍達、すまねえ!! エイトールを止めろ!!」


 大輝の忍者ゴーレムは「お任せを」と言わんばかりにエイトールへ突撃。五体全員が彼を串刺しにする。


「かっ…………、はっ…………」


 エイトールから発せられ始めていた魔力暴走を示す発光は消え、一つの最悪を孝弘達は回避してみせた。

 だが、もう一つの最悪は間に合わなかった。皇居で一時的に閉じ込められたよりも厚く広い、黒い帳がもう降り始めていた。


「エイトールは、逝っタか……。だが、間に合っ、タ……。置き土産も、ある。せいぜい足掻いて、みせたまえ、ヨ……」


 シュレイダーが地面に倒れ、動かなくなったのと同時に、彼が命を捧げて作り出した結界魔法は完成してしまっていた。

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