第12話 角田盆地の戦い(3)

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『SA4より総員へ続けて報告! CTの攻勢さらに強まり、各戦線への圧迫増加! 各防衛線へのCT一群の数と距離をマップにマーク! 加えてSA各員へ! 当地防衛線に接近するCTは三個中隊規模程度で距離は三〇〇〇。既に前方より接近分を蹴散らさないと厄介なことになるよ!』


『SA1よりSA各員へ。キラービー及びクイーン第二陣は法撃射程距離に入るまで残存キラービーと地上CTを優先。特に三個中隊規模のCT群は優先して攻撃しろ。早めに片付けないとキラービー第二陣に対応しづらくなる。第二陣は距離三五〇〇に入り次第長距離射撃を開始する』


 新たなキラービーとクイーンの出現があっても、孝弘は極めて冷静に部下達へ指示を出していた。だが、内心では彼は少し焦りがあった。


(対物ライフルのマガジンは残り二つ。今使ってるのがあと四発だから、二〇発か……。地上の事も考えると確実に足らなくなるな……。銃身が持っても弾が無ければどうしようも無いし高価すぎる鈍器にしかならない。そうなると、射程の短くなる魔法拳銃と法撃で戦わないといけなくなる、か。)


 もう少しマガジンを持ってこれば良かった。と後悔するが、先に立たぬものである。そもそもキラービーが現れるなんてことが予想外だしそれが二波目なんて誰も予想出来るはずないのだ。

 孝弘はキラービーが接近するまでの僅かな間は地上のCTを潰す事にし、ホルスターにしまってあった二丁拳銃を取り出し、比較的近い距離にいたCTを倒していく。


『ロングボウ1より地上部隊へ! ただいま現着! ロングボウ1より2、3へ。目標キラービー。弾種三〇ミリ。……てぇ!!』


「ありがたい!」


 孝弘は駆けつけてきた攻撃ヘリ部隊三機がキラービーに向け三〇ミリの機関砲を発射したのを見て、少しだがホッとした。通常兵装とはいえ三〇ミリならキラービー相手にも一定の効力があるからだ。その証拠にキラービーは散開したものの十数が撃墜されていっていた。

 しかし神聖帝国側も無抵抗では無かった。


『SA4よりロングボウへ警告! エンザリアCTの光線系発射兆候! 数は九! 一〇秒後に発射と推測!』


『クソッ! まだ蜂野郎はうじゃうじゃいるってのに! 全機回――』


『SA3よりロングボウ四秒待て!! 魔法障壁を三機に展開する!!』


『SA3か! 感謝する!』


 四秒もその場に留まるなどエンザリアCTの攻撃に対しては自殺行為なのだが、ロングボウの隊長は大輝の腕前を東京奪還作戦に参加した友人を通じて知っている。彼は大輝の言う通りその場を動かず、魔法障壁展開ギリギリまで三〇ミリの射撃を続けた。


『魔法障壁展開完了!』


『全機、緊急回避!!』


 大輝は三秒半で三機の攻撃ヘリ周辺に魔法障壁を構築し、終わってすぐにロングボウ部隊は緊急回避行動に移る。


『緊急回避するもエンザリアCTの射線はロングボウを追従! こいつら二型だよ!』


 運が悪いことに現れたエンザリアCTは強化型だった。ロングボウ部隊が回避行動を取っても、やや遅れながらとはいえエンザリアCTは狙いを外そうとしなかった。


『これならどうだぁ!』


 ロングボウ部隊は驚くべき機動を見せる。失速覚悟のマニューバだった。流石に変態機動と称される偵察ヘリのような機動は叶わないが、それでも射線を外そうとするには十分だった。

 エンザリアCTの光線が発射される。三機のすぐ傍を光線系魔法が通過し、大輝が展開した魔法障壁は各機一枚ずつ破壊された。


『っぶねえ……』


『魔法障壁が無かったら粉々だった……』


『SA3、貴方は命の恩人だ』


『SA3よりロングボウへ。役立って良かったぜ』


 ロングボウ部隊は大輝の魔法障壁によって全滅を免れた。

 その間にも戦況は動いていく。水帆がエンザリアCTのいる座標に法撃を叩き込み一群をぶっ飛ばすが、堕天使達は分散配置されていたから一度の法撃で四分の一しか倒せなかった。


『エンザリアCT第二次攻撃兆候! 発射まで約一二秒!』


『砲科よりSA4へ。貴官が特定したエンザリアの座標を用いて砲撃します』


『ありがとう! お願い!』


 第二次攻撃兆候が出た直後に頼もしい者達から通信が入る。つい先程到着したばかりの、陸軍の二五式装輪自走一五五ミリ榴弾砲部隊だった。


『任せてください! 全車、てぇ!!』


 一五五ミリは正確無比の砲撃でエンザリアCTに命中する。大口径の砲弾に耐えられるはずもなく、全てのエンザリアCTが爆発四散した。


『SA4より砲科へ! 殲滅確認!』


『しゃおらぁ! っと失礼! 全車、目標を地上CTへ! 蜂共は任せましたよ!』


 砲は次々と火を噴いていく。二五式自走砲の登場で地上への攻撃力は飛躍的に上昇し、一〇一の将兵達は接近しているCTとキラービーへ攻撃を専念することが出来るようになった。

 現れた友軍は砲兵隊だけではない。


『海兵隊第五一五中隊ただいま到着! SA1、加勢しますよ!』


『海兵隊だけに任せるわけにゃあいきませんのでね! 陸軍第三〇二中隊ただいま到着! これで蜂野郎に集中出来るでしょう?』


『SA1より両中隊へ! 加勢感謝する!』


 孝弘達の所に現れたのは陸軍と海兵隊の計二個中隊だった。さらに後方からは陸軍の一個大隊も援軍にかけつけてくれていた。いずれもついさっき到着したばかりの部隊で、装備を整えてから間もなく展開予定を繰り上げて来た者達だった。


(助かった! これでウチの部隊はキラービーとCTの中でも厄介なのを相手するだけで済む。)


 孝弘は特務小隊全員にキラービーに目標を切りかえることを伝える。エンザリアCTが現れてから倒すまでに、攻撃ヘリ部隊が攻撃を続行していたとはいえ距離約四五〇〇まで接近されていたからだ。孝弘達の方へ向かっているキラービーの残数は約四〇〇とクイーンが一。直前に戦闘機部隊もミサイルを発射していたが、いかんせん数が多すぎた。

 孝弘はこんな事になるなら試製の三〇ミリを持ってこれば良かったと思いつつも対物ライフルに持ち替えて狙いを定める。

 残弾数は減っていく。二〇発を最大限効率良く使ったが賢しいキラービーはまとめて殺されないようにと分散して接近してきていたから思うように潰せていなかった。


「ラストマガジン!」


 孝弘は最後のマガジンを装填し、さらに一発を発射する。出来れば上級魔法を付与してすり潰したいが、対物ライフルの銃身は二発や三発放ったところで持たなくなる。攻撃力としてはこれが上限だった。

 水帆は孝弘のラストマガジンを聞いて自身の放つ法撃火力を上げた。魔法拳銃の射程距離に入るまでは自分の火力が最も高いのを知っているからだ。

 知花も一旦管制を佐渡に渡し法撃に加わる。対空火力はさらに増した。

 佐渡は本来戦術管制を担当しているのだが、知花からの要請を受けて部下に自分の担当の一部を渡し、複数の偵察ドローンを駆使して知花の代わりを果たしていた。

 キラービーの数は三七〇、三三〇と減っていく。しかし距離は約三五〇〇とさらに接近もしていた。このままだと一部のキラービーは通過を許すことになりそうだった。橋頭堡構築中にそれは不味いと孝弘は冷や汗を頬にたらし始めていた。


『セブンスよりSA1。残弾は? 地上の方は?』


「間もなく弾切れです。地上は陸と海兵が来てくれたお陰で支えられてますが、さらに増えてます。防衛線を一つ下げざるを得なくなる可能性もあります」


『分かった。待ってな』


「はっ。は……?」


 璃佳はそれだけ言うと無線を切った。

 孝弘は彼女がここに来るのだろうと薄々感じたが、まさか橋頭堡構築中に指揮官が来るとは思わず素っ頓狂な声が出てしまった。

 しかし孝弘も異世界アルストルム含めて約七年間戦い続けた軍人だ。この状況でSランク能力者がさらに一人加わるのは作戦としては正しいと思い、すぐに思考を切り替え一番接近してきていたキラービーに残り三発を撃った。


『SA1より特務総員。対物ライフルは弾切れだ。これより二丁拳銃に武装を切り替える。それと――』


 遂に孝弘の対物ライフルは全弾撃ち尽くした。キラービーとの距離一〇〇〇までは法撃で、三桁台まで近付いたら二丁拳銃をぶち込んでやる。

 まあ、キラービーに対しては自分が出る幕がほぼ無くなるかもしれないが。そんな意味を込めて特務小隊の部下達に伝えようとした時だった。


「孝弘よ! ほぅら、受け取れぃ!」


 背後から声が聞こえ振り返ると、投げられたのは対物ライフルのマガジン二つだった。

 孝弘はマガジン二つを受け取ると、視線を下に動かす。二人がいた。


「待たせたね! いくら貴官等でも、流石にそろそろキツイでしょ?」


「この儂も加勢するぞ!」


 孝弘達の前に着いたのは、璃佳と茜。

 角田盆地前線最前面に、最精鋭が参戦したのだ。

 璃佳は漆黒の大鎌を地面に叩きつけると、獰猛な笑みでこう言った。


「クソ蜂野郎共に好き勝手なんかさせるかよ」


「全くじゃ、我が主よ。ここから先は一匹足りとも通しはせんぞ」

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