第10話 角田盆地の戦い(1)

 ・・10・・

 2037年2月27日

 午前4時過ぎ

 宮城県丸森町南部空域


 仙台奪還作戦の前哨戦はついに始まった。

 今回の作戦は開始時刻が夜明けではなく夜明け前となっている。角田・丸森方面の作戦は会津盆地や郡山での戦いと同じ強襲作戦を取る事になったのだが、また夜明け前となると相手に読まれる可能性が十分に考えれるからだ。

 また、今日の天気は晴れだから有視界で索敵されやすい。なので、強襲時は敵の肉眼による索敵がしづらい時間帯を選んだのである。作戦初期段階はCTとの戦いが中心になるから孝弘達にとっては効果のほどは微妙なところであるが、空爆を担当する将兵達にとって日の出前の暗さは助けになる。その為にこの時間が選ばれた。

 時刻は午前四時過ぎ。角田にあるマジックジャミング装置破壊を第一任務とするフェアル部隊は伊達市から北東方面に針路を取って目標に向かいつつあり、孝弘達は伊達市から東に針路を取った後に北へ向きを変え直進していた。


『無線がジャミング圏域に入って端末間通信しか出来なくなる前に最終確認。俺達特務小隊は丸森駅南東にある田園地帯付近へいち早く着陸。直後に高火力法撃を実施し、付近にいるCT共を蹴散らす。着陸直前から直後にかけてエンザリアCTの対空攻撃が予想される。よってエンザリアCTは優先撃破対象。事前の観測された数はまず有り得ないから相当数いると思われる。旅団戦闘団の後続が安全に着陸出来るよう、徹底的に叩くように。第一撃については初撃を叩き込むのは僕達だけでなく、橋頭堡構築予定地に友軍が続々と着陸する。だから余程が無い限りは担当区域の隣接部を除いて援護する必要はなく、目の前の担当区域と周辺に集中しろ。以上だ。これまでの実戦通り、臨機応変にいこう』


『了解!!』


 孝弘は無線が使いにくくなる前に、小隊の全員へ着陸後しばらくまでの粗方の流れを伝え終えると、地上への警戒をしつつ安全装置を解除した対物魔法ライフルを装備する。三〇ミリは初動で使うには取り回しをしづらいからだ。

 特務小隊は丸森町南部の山地を高度約八〇〇を保って時速約四〇〇で進む。

 目標まであと二キロ地点まで迫った時だった。端末間通信に切り替えた無線に知花から声が聞こえた。


『エンザリアCTの対空攻撃予兆探知! 数、三〇、いや約四〇! 想定射出角、三次元マップに送信するよ! 発射まで一五秒!』


『総員散開しつつ目標へそのまま吶喊!』


『応ッッ!!』


 エンザリアCTの対空攻撃は見事なもので、想定射出位置がそれぞれ回避しにくい位置に置かれていた。こちらが高度を下げれば射出角も遅れながら変えてきている。従来型CTでは見られない動きだった。


(知花の優れた探知能力が無かったらもっと反応が遅れてた。七、八秒でこれに対処するのは厄介だな。ホント、知花様々だ)


 孝弘は知花の才能に感謝しつつフェアルの速度を上げる。同時に賢者の瞳の射撃管制補助を使って対物ライフルの弾丸を放つ。射程延伸の術式も付与したから余裕で届く距離だった。

 周りにいた特務小隊の面々も詠唱を終えて法撃を開始。孝弘達が着陸前するからエンザリアCTは激しい法撃と銃撃を浴びることになった。


『エンザリアCT二六体撃破!! 一五残存! すぐに光線系術式が来るよ!!』


『敵の射線からズレろ! 念の為に魔法障壁は全力を維持!』


 残ったエンザリアCTから光線系魔法が発射される。従来型よりやや太い光線は恐ろしい攻撃力を持っているのだが、十数秒前から探知していた上に火線を大幅に減らしていたから回避するのは容易かった。

 ただ、敵の攻撃がこれで終わるわけが無い。着陸予定ポイントまで一キロを切って高度を約三〇〇から四〇〇まで下げた時、今度は法撃を放てるタイプのCTから風属性や雷属性の攻撃が放たれる。なかなかに密度の高い、今までに無かった法撃だった。幾つかから魔法障壁が一、二枚割れる音が聞こえる。


『即時反撃!! 放っておくと魔法障壁を削られるぞ!!』


 孝弘は部下達に警告を送りつつ、自身は銃身を真下に向けて対物魔法ライフルの銃弾を一発、もう一発と放った。火属性爆発系の術式が込められた弾丸だった。

 地上から爆発音が二つ聞こえ、着弾地点周辺にいたCTが吹き飛んでいく。

 孝弘が行ったような攻撃は銃撃か法撃かの違いはあるものの、そこらじゅうで行われていた。今までとは比較にならない対空攻撃。橋頭堡構築予定地点だけでなくその周辺部に至るまで対空攻撃可能なCTがあちこちにいた。被撃墜とまではいかないものの魔法障壁の半分が削られた者がいたり、危うくエンザリアCTの光線系魔法が直撃しそうになった者もいる。

 だが、それまでだ。この空域にいる旅団戦闘団のフェアル部隊は対空攻撃を行ってくるエンザリアCTや法撃可能なCTを潰していき、敵の対空火力は半減以下までにさせていた。


(当たり前だけど神聖帝国軍の連中も学習してるな……。ドラゴンがいる分、三次元戦闘への適応力は高いわけか。だが、その程度はこっちも折り込み済みさ!!)


『間もなく着陸ポイント! 地点確保したらすぐに中級魔法以上を叩き込んでやれ!』


『任せなさいな! まずは着陸地点付近の敵をなぎ倒す!!』


 孝弘が無線を送った直後、水帆が風属性の中級魔法を放つ。上空から飛来した一〇〇を越える鋭利な風の刃はCT達を等しく死へと誘っていった。


『SA2より小隊各員、着陸ポイント周辺クリア!!』


『SA2よくやった! 総員着陸!』


 着陸ポイントからすぐ近くの安全を確保した孝弘達は全員が素早く着陸。既に術式発動準備を終えていた大輝が扇状にコンクリート並の強度を持った土壁を構築していく。即席ながら強固な防御力を持つ陣地の完成だ。


『SA1よりセブンスへ! ポイントアルファ確保!』


『よーしいいぞSA1! そのまま突っ込んでくる化け物共を吹っ飛ばせ! こっちも役場付近に着陸して敵を掃討、すぐに前線司令部機能の構築をさせる!』


『了解!』


 孝弘が璃佳へ拠点確保を伝えると、直後にあちこちから離陸してから拠点を押さえたと連絡が入る。阿武隈川が東に膨らんだ地点に計四箇所。その東岸に二箇所。南岸には司令部機能を置くために作られた拠点が二箇所。あっという間に計八箇所のポイントが構築された。一〇一魔法旅団戦闘団だからこそ可能な、神業に近い拠点構築速度だった。


『SA3、召喚はいけるか? 早々に第二陣地を構築したい!』


『おうよ! もういけるぜ! 第二陣地も任せときな!』


『助かる!』


 大輝が召喚詠唱を終えると、五つの魔法陣から五体のゴーレムが現れる。彼等は片脚で地面をドンドンと踏み込んで威嚇すると、薙刀を構えて突撃を始めた。ゴーレムの背後からは特務小隊総員による中級魔法の一斉法撃。特撮映画さながらの光景が広がる。

 圧倒的な火力は前線を一気に二、三〇〇メートル押し上げる。大輝はそれに合わせて第二陣地を構築。特務小隊の後に着陸した特務連隊第三大隊が次々と配置についていっていた。


 丸森方面にて目にも止まらぬ早さで橋頭堡が構築されていく中で、角田方面のフェアル部隊――特務連隊第二大隊選抜部隊――と戦闘機部隊も活躍ぶりは負けていなかった。

 空域突入直後、多数のエンザリアCTの対空攻撃を受けたがこれをフェアル部隊が速やかに排除。脅威度が大きく低下したタイミングを見計らって対地爆弾を抱えた戦闘機部隊が猛スピードで迫る。


『特異ポイント見つけたぜ!! そこに叩き込んでやらぁ!!』


 戦闘機パイロットが言った特異ポイントとは、マジックジャミング装置がある地点に生じるレーダー上の僅かなゆらぎのことだ。これは軍魔法研究所がつい最近発見したもので、装置のある地点をより正確に割り出すのに今大いに役立つ事となった。

 だが、マジックジャミング装置が作動しているから対地爆弾はGPSを用いた精密誘導出来ない。慣性航法装置と投下直前にパイロットが微調整をして狙うしかなかった。

 よって対地爆弾を投下する戦闘機は四機。多少はズレても四発同時なら当たるだろうし、数百キロ爆弾だから周辺への破壊力も期待出来るからと一斉にそれらは空から放たれた。

 四つの爆弾はパイロット達の期待通りの役目を果たした。起爆直後、周辺に凄まじい爆発力をもたらしマジックジャミング装置が破壊される。加えて近くにいた神聖帝国軍の将兵――戦闘機単体ならエンザリアCTによる対空攻撃も可能だが、戦闘機は上空約二五〇〇メートルを飛んでいる上に当のエンザリアCTはフェアル部隊の強襲で大多数を無力化させられておりなすすべがなかった――を丸焼きにするか木っ端微塵にしていった。

 マジックジャミング装置が破壊された直後、角田・丸森方面のレーダーが回復する。こうなれば日本軍は全力を発揮することが出来るわけだ。


 しかし、対地爆弾の攻撃から運良く難を逃れた神聖帝国軍のある士官は丸森町の方を睨んでこう口にした。


「タダで済むと思うなよ。いつまでも空の脅威が貴様らだけのモノじゃないと知れ」


 レーダーが回復した直後、孝弘達は既に第二陣地を構築完了し、さらに三〇〇メートル先に進んでいた。大輝が第三陣地を構築しつつ、特務小隊の他の面々や特務連隊第三大隊の将兵達が激戦を繰り広げていたのである。


『セブンスよりSA1へ。BTL3と共にそのまま戦線を押し上げろ。こっちは前線司令部機能を確立。海兵隊や陸軍のヘリボーン部隊が続々と着陸しつつあり、地上からも第一陣が着き始めてる。地上から進出の部隊は到着次第すぐに自走榴弾砲を展開させるから、もうちょっとしたら貴官達も戦闘が楽になる。それまでは今の調子で頼むよ』


『SA1よりセブンスへ了解。現時点で負傷者無し。このまま進みます』


『よろしく』


 孝弘は無線での会話を終えると、自身も対物魔法ライフルで銃撃しつつ部下達に適宜指示を伝えていく。魔力にはまだまだ余裕があり、対物魔法ライフルの残弾数は減ってきたものの二丁拳銃は今のところ一切使っていない。

 暫くは全力を出し続けられるし、少なくとも特務小隊の面々も同様だと判断していた時だった。突如として回復したレーダー上に大量の赤い点、すなわち敵が表示されたのである。これにすぐ反応したのは知花だった。


『こ、これは……?! 距離約七〇〇〇と約六七〇〇、約六五〇〇から同時多発的に大量の敵が出現! 数は一地点で約三〇〇規模で計約九〇〇! 敵性体特定! 召喚生命体だよ! しかも、スペインで確認された事例しかなくて国内では未確認のキラービー及びキラービークイーン?!』

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